閑話 複合戦闘
第11話 サルベージ・ログ |強者《つわもの》どもが夢の跡
これはアートがライトの友人知人と知り合い、色々あって神様の友人になったりした、未来に存在する記録。
昔々の遥か遠い銀河系、その中の一つたる惑星にて。
今回が何度目かはわからないが、実力者同士の組手が始まろうとしていた。
自身の技量が本当に猛者へ通用するのか、確認も無しに技や連携攻撃を行う訳にはいかない。
いずれも強さは折り紙付きの猛者揃い。
計十六人が入り乱れて闘うは、赤道付近に浮かぶ孤島が舞台となる。
孤島には鬱蒼と生い茂る森や小高い丘があるも、おそらく消滅してしまうだろう。
使徒同士、しかも上位陣の闘いとはそれほどまでに苛烈を極める。
最初に仕掛けたのが誰かは分からない。灯か白、または光輝なのか、混沌だったか。或いはその四人が同時に仕掛けたかもしれない。
切り裂かれる木々と彼方の入道雲、衝撃波で割れる砂浜と水面、
飛散する砂粒と舞い飛ぶ水滴すら押し退け、ぶつかり合う天候の短剣と虚無の銃弾。借り物に短剣を同化させているとはいえ、本物の全能兵器である銃弾を斬り裂く技量はある。
その短剣を持つ腕を狙って掌底を叩き込む天使、その天使をカバーするはブラックのソードオフから撃ち出されし散弾。天候を巨大手裏剣の旋回で庇いつつ、恒星が苦無を打つも天使には当たらなかった。
確率操作能力と対峙するのは初めてではなく、動揺も焦りもしない。どんなに素早くとも、終始が見えるモノである以上は捉えられる。透明だったなら捉えきれないが、光速で動く天候にはその必要性が低いので、魔法を重複させたりはしない。
天候の真上に現れた、彩の太陽道で集束された太陽光が天使を吹き飛ばす。波動は咄嗟の確率操作でも難しい。
真横に吹き飛ばされ、海の上を水切りの原理で何度も跳躍するが、悪魔の量子操作によるテレポーテーションで転位し、即時戦闘へ復帰した。
その時、濃淡の魔法を凝縮した魔砲がブラック達の上空より飛来するも、暗黒の共生能力で大気へと魔砲の魔力が戻ってしまう。
大気中の魔力と人間が作り出す魔力は結合しやすい。故に強制的に還元も可能となる。
だが、一時凌ぎにしかならない。濃淡の魔力特性は創造であり、創られた侵食を持つのでいずれは世界中の魔力そのものが濃淡の手中に入ってしまう。
そうなっては強制的な還元も難しい。
聖痕が濃淡へと全能兵器であるカジキを海から放つが、アートの爪で三枚に捌かれた。
乱闘では埒があかない。
戦闘開始の狼煙は上げたが、手をこまねいていた灯達は、各々が闘いたい相手へと的を絞る。
浜辺で悪魔と虹が撃ち合い、白と光輝が殴り合う。更には灯と聖痕が斬り結ぶ。
空は濃淡と天使、彩と虚無、アートと混沌のドッグファイトが繰り広げられる。
海上も戦域となり、天候とブラック、恒星と暗黒が死合う。
虹の二挺拳銃と悪魔の二挺小銃が互いの銃弾を掠めては命中地点をずらし合い、近くで戦闘をしている光輝や聖痕へと流れ弾が飛んでいく。
しかし、流れ弾には動じない。殴って逸らしたり短剣で軌道を変えてしまった。
白は光輝の拳や蹴りをわざとかすらせてダメージを蓄積させている。たまに繰り出される大技はきちんと距離を取って回避し、小技だけを的確に受けていく。その見切りは拳圧や衝撃波も予測しているので、ダメージ・コントロールはお手の物である。
聖痕も短剣と直刀という異種刀剣技の間合いだが、振られる鋒へ自身の短剣の剣身を持って逸らしたり、急接近して直刀である仕込み杖の柄元に短剣を叩き込み、威力が乗る前に太刀筋ごと殺していく。
間合いもそうだが、自身が扱う武器の事を熟知しているからこそ取れる戦法だ。
伊達や酔狂で上位陣の使徒は張れない。
悪魔よりも弾倉交換が早く来るので、虹は防戦気味だ。
それでも被弾しないのは、周囲の空気圧を絶えず変動させる事で、悪魔の目に錯覚を起こさせ、その立ち位置を狂わせているからである。一発でも被弾すると、量子操作で銃弾が直接体内へとテレポーテーションしてくるのだ。
例え大気と同化しても、借りているとはいえ全能兵器である事に代わりはなく、銃弾を防ぐのは難しいだろう。
交換時に刃を仕込んである弾倉を蹴り上げ、時間差と正確な落下による攻撃で悪魔の銃撃を止めさせ、交換をしながら距離を詰める。
悪魔も小銃の弾倉を外して蹴って来た。弾はまだあるも相手とリロードを合わせるのは、意表を突くというのもあるが、相手の考えを先読みするためでもある。
達人同士に先の先や後の先の読み合いは必要不可欠、また、心理戦も絡んでくるので、地理状況すら把握しなければならない。
爆撃で地形が変わるなんて良くあるし、排出した薬莢に足を取られるなんてこともある。
虹と悪魔のリロードが手早く終わり、再び撃ち合う。
が、今度は魔法と錬金術が追加された。悪魔が放つ水弾や砂弾、風弾を、虹の足合わせで起こした錬金術による格子状の壁が防ぐ。
射手が的確な腕前なら、着弾地点も正確なので狙って防ぐことも可能なのだ。
岩の棘を砂浜に発生させるが、防がず勢いに乗って棘の尖端へと着地する悪魔。なおも棘は生み出され灯の間合いに入るも、容易く斬り
拳銃の銃弾と小銃の銃弾は種類が違うので、弾で弾を撃ち落とすなんて事はできない。
かといって銃撃戦では決着が着かないために、虹は接近戦へと持ち込もうと食らいつきに掛かる。
片手に持つ自動拳銃の内部を小銃の機構に置き換え、小銃の銃弾を撃ち出しては、発生する音や排出する薬莢を拳銃のモノに置き換えて、砂浜に打ち捨てていく。
これは過去に一度だけ試したが、銃の全能兵器が保持者だけにしかできない芸当だ。
おそらく、虚無も銃弾で同じことができるだろう。
だが、借りモノである以上、悪魔にそんなことはできないし、気づけない。
いや、保持者以外には気づく事が難しいだろう。全能兵器とは噂以上に未知の兵器である。ただ、或いは濃淡やサタンなら、魔法で似たようなことを再現することもできるだろうが、それでも正解には時間が掛かるのは否めない。
悪魔が銃剣を装備させた小銃で近距離にて突いてくるも、虹は銃剣の腹を蹴って退かし、第二波を銃床で逸らす。
第一波の小銃が間近で連射されるも、自動拳銃の銃弾で撃ち落としていく。
驚愕する悪魔の額を、ショック弾頭を装填したリボルヴァーで撃ち抜いた。
白の狙いは出血多量から瀕死の一撃だと、光輝は読む。
気迫の籠った二重の極みは、楯の全能兵器で受け流せるが、命懸けの一撃も受け流せるとは限らない。
可能性の数だけ壊れないのが売りの全能兵器だが、それは可能性が少しでもあるなら、壊れるということでもある。言葉遊びとも言えるが故に、矛盾も内包できるものの、論破されれば途端に脆くなるのだ。
とはいえ、武器に頼りっ切りではないから光輝は格闘で挑むことが多い。
互いにインファイトが主軸だから、あまり足を動かさないので、周りの戦闘に巻き込まれることも少ない。
しかしながら、それでも足技は使うので止まっての殴り合いとは中々ならない。
かすらせはしてもまともに喰らうような真似は避ける白。対して光輝は足払いや肘打ち、突きからの掴みと攻めまくる。スタイルもムエタイから柔術、空手から合気道と変幻自在に変えていく。更には白の伸びきった拳に自身の拳を打ち込むし、蹴り技の右足をいなして掴み、捻って足首を挫かせた。
能力によって攻撃力が上がっていく白ではあるものの、まともに当たらないと、どうしても威力は削がれ落ちてしまう。回復魔法で治療してしまえば、能力の補正も消えてしまうので、なるべくなら最後まで使わないようにしたい。
だが相手は光輝なので、そんな保険も一瞬で無駄となる。ならば満足に動けないこの状態はいいサンドバッグであろう。ここは一つ、今までの苦労が台無しとなるのもやむを得ない。
遅延させていた回復魔法で肉体の損傷を治療すると、白は間髪入れずに後方宙返りする。その残像に光輝の三重の極みを用いた、梁山泊流の無拍子が決まった。
まさに間一髪だったので、白の背中を冷や汗が伝う。
しかし、これで終わりとはいかない。続け様に迫り来る山突きを、白は体勢を低くして膝を取りに行く。
カウンターの膝蹴りを不発させながら、仰向けに引き倒すと馬乗りになる。
光輝の顔面へ拳を降り下ろすが、両手共に掴まれた。白の脇腹に光輝が膝で挟もうとするも、光輝の
拳を離せば顔面を殴られ、腹筋を解けば呼吸が厳しくなる。膝で挟もうにも白の足が邪魔をして挟めない。
残された技は、肺活量を活かした声と高速で吐き出す唾液の塊くらいか。
とはいえ、これ等は白も考えているだろう。
まだあるにはあるが、それを実行すると今までの格闘が一気にギャグと化す。
何よりも光輝の品性が底辺に落ちる上、雰囲気がそれを許さない。
光輝は潔く負けを認めた。
白の能力は、ダメージの蓄積による攻撃力の増加。シンプル故にきわめて格闘では強い。瀕死からの一撃に、身体強化等を加えると、邪神な神格すら風穴が
灯と聖痕の得物や剣術からして全く違うので、少し長引いている。
距離を取って魔法を放つも、剣気を纏わせたスローイング・ナイフや破魔で散らされてしまう。詰めると間合いの差によって、切り返しの速い短剣が有利ではあるものの、それも数合だけである。
スローイング・ナイフに持ち変えられては、例え二刀流であっても、灯はナイフ一本で聖痕と渡り合える技量を持つ。
元々が剣豪対研究者では、護身用の体術と護剣術しか扱えないため、無理からぬことである。
逆に言うとそれだけで、灯を釘付けにしているとも言えるのだが、足止めが精一杯であるとも取れるのだ。
魔法で造りあげた剣を手にして、間合いを対等にすることも可能ではあるが、剣豪と研究者では瞬殺されるだろう。
故に刀と短剣の間合いで挑むしかない。
間を置いて虚を突く、実にオーソドックスなスタンスである。正攻法とは、意味合いを変えれば普通や平凡な戦闘と言えよう。普通故に実に堅実であり、どの太刀筋にも平均的に反応できる。
また、刀という刃物は引く時に刃筋が立っていれば切れ味を発揮するので、西洋の剣と違い押して切る事は難しい。それに刃が薄いので、刃零れも起こしやすいのだ。
全ての太刀筋に反応でき、尚且つ守りに徹している聖痕は、取るべき戦闘スタイルを間違えないお陰で、灯と渡り合えている。
いや、間違えないのではなく、灯の取る戦闘スタイルに応じた苦手なスタイルを、能力によって取れているのだろう。
遺伝子解析能力で灯の弱点的部分も解る。この場合はアートの匂いや毛髪を見せれば少し動揺するようだ。また、急所全般に左手の握力が低め、サングラスをしているが両目とも見えている。音に少し敏感であるとも結果が出た。
弱点らしい弱点が見当たらない。重心のブレもほとんど無いのでは、太刀筋を乱すのも難しい。
目を瞑り盲目の振りをする事が多いのか、聴覚がやや発達しているが、その対策くらいは備えているだろう。
サングラスをしているから太陽を背にしても、あまり意味は無い。砂に足を取られても太刀筋は正確に此方を捉える。
流石は最強と言われし剣豪だ。アダムを物理的に止められる筆頭と言うのも頷ける。
残る弱点は武器と武器の特性だが、生憎武器に関しては知識だけなので、長丁場に持ち込んでも此方が不利となる可能性が高い。
といっても、自ら攻める訳には行かない。
聖痕が思案するように、灯もまた攻めあぐねていた。
聖痕の技量は高い、太刀筋の
ナイフで間合いを対等にするのは容易いが、刀で聖痕の短剣を打破する事に意義がある。
しかし、これ以上意地を張って濃淡などの魔法や能力の巻き添えを喰う訳にもいかない。現状は個人戦を呈しているが、未だ乱闘状態であることに変わりないのだ。
仕込み杖の鞘を腰から外し、組み立てつつ構える。
これは誘いのための間だったが、聖痕は乗って来ない。なら、この二刀流で持ってその柔剣を崩す他無くなる。
灯の鬼気迫る剣気が膨れ上がっていく。
灯がまさに斬りかかろうと動く直前に、聖痕は錬金術で足元の砂浜へ亀裂と振動を発生させた。
だが、予測魔法を予め行使していたのか、灯の動きには迷いが無い。一足飛びに聖痕へ詰め寄ると仕込み杖を振るう。が、短剣を真横から叩きつけられ半ばから刀身が折れ、亀裂へと吸い込まれるように落ちていく。
悔しげに表情を歪めながらも、灯は鞘で聖痕の鳩尾を突いた。
吹き飛ぶ聖痕だが、魔法障壁を展開したのか、咄嗟の防御が何とか間に合ったようだ。
少し咳き込みつつ顔を上げて灯を見る。けれども、灯は追撃して来ない。
ふと、悪寒がしたので、短剣を真上に構えながら後退する。その刹那、短剣の剣身が半ば切り裂かれた。
足元に落下音がしたので視線を向けると、仕込み杖の柄が見え、砂浜に突き刺さっている。
おそらく、鞘で突くと同時に真上へと投げたのだろう。此方の立ち位置を予測し落下地点を合わせ、投げた柄を真上から降らせたのだ。
後退していなければ、突き刺さっていたのは自分の頭部である。
空恐ろしい隠し剣だった。
意識を再び灯に向けると、仕込み杖の鞘を振り降ろそうとしていたので、聖痕は降参する。
剣鬼の言い分としては、刀身を折られたので今回は敗北でいいらしい。
勿論、聖痕は納得いかないと抗議するも、ナイフを首筋に突きつけられ脅されてしまい、無理矢理に灯の言い分を呑むしか選択の余地はなかった。
柄を拾って神速の納刀術を行い、戦闘終了後の隙を突こうとした白の聴覚を潰す。灯の背後で白は砂浜に倒れ伏した。獣人であるために人間よりも鋭敏な聴覚が仇となったのだ。
聖痕は白に近づき気絶しているにも関わらず、敗者に手を出すから返り討ちに会うんだ、と静かに諭す。
濃淡と天使は空中で組み合う。
翼も無いのに天使が浮ける理由は、頭上の環に浮遊と飛翔、立体機動などが組み込まれているためである。
木に見せ掛けた鉄下駄より繰り出される蹴りを、機杖で払い流しながら幾つもの魔法弾を放ち、同時に掌底を入れていく。が、天使は能力で魔法弾の全てを当てさせずに掌底の腕を掴むと、肘関節を破壊しに掛かる。だが、濃淡の衣服は妖精が擬態した魔導繊維なので、サブ・ミッションが簡単には通用しない。
即座に諦め手首を掴み、濃淡自身へと引き寄せさせる。手首に牽引され間近まで来た、天使の腹部と胸部を膝と肘で突くも、反対の腕一本で防がれてしまう。
迎撃と同時に掴んでいた手首を離し、濃淡の首を握力で締め落としに掛かるが、首に密着させた魔法障壁に阻まれる。
迎撃の反動で天使は後退し、濃淡もまた距離を取った。
空中とはいえ寝技の応用すら魔法障壁で防ぐ濃淡は、光輝から師事を仰いでいるだけのことはある。
魔法一辺倒という訳ではないため、格闘術や剣術、銃術も一通りこなせるのだろう。攻守共に万能の魔女に隙は無い。
けれども、万能故に特化には弱いモノだ。
合気道と関節技、古流柔術、そのほとんどが受けて流し、そのまま反撃へと繋げる事が多い。主に徒手空拳や武器でカウンターを狙うも、銃だろうとそれは可能であり、小よく大を制す。
空中だからといって威力が出ないなんて事もない。高速で気流による空気の壁や水面に叩きつければ、それは地面に叩き落とされるのと遜色ないものだ。
しかし、相手は先程のように簡単には掴ませない事だろう。
濃淡は黙考して
立体機動に慣れていなければ、飛行して逃げ回るか向こうも火球を放つしか防ぐ方法はない。もしくはこれがミサイルなら、内部の燃料が尽きるまで飛行したりするだろう。
合気道や柔術といった柔に、普通の剛では制されるだけだ。剛よく柔を断つには、万能から特化に昇華するか、何かに絞る必要がある。
濃淡は確かに万能と呼べるほど、魔法や武術を組み合わせて戦うが、前世とは違い今世では詠唱が出来ない。魔法使いなら必ず出来る事が出来ないと言う事は、それは万能とは言い難い魔法使いであると言えよう。
従って、無詠唱から始めた魔法の集大成と言えるモノがある。
魔法陣や無詠唱での召喚だ。
この空域には暗黒が共生能力で還元させた魔力が漂っており、その魔力特性を変化させ、透明な魔法陣を幾重にも仕込んである。謂わば濃淡の掌の上も同然な限定領域となろう。
左右へ異世界から敵を外した銃弾、訓練で射出された矢、頭上からは放逐されし刀剣を連続召喚し、天使の包囲網を構築していく。更に当たらなかった魔法や異能力のチカラも下方と後方に召喚した。
魔法や異能力の制御権は、召喚の穴を通してその世界の者が行う上、もし制御されていなくても魔力の管を形成してしまえば、天使に向かうように仕向けられる。
残るは前方のみだが、濃淡は同時にツイン・バスター・ライフルを構えていた。
撃ち出された光の濁流が天使へ迫るも、天使は闘気を纏うとまとわりつく魔力をはね除け、闘気を残しつつ瞬間移動で回避する。闘気の内側は天使の領域なので、瞬間移動を妨害する事は出来ないのだ。
しかしながら、濃淡の召喚はまだ続く。
瞬間移動した天使を、正確に自分自身の前へと召喚してみせたのだ。これは天使が首を締めに来た時、魔法障壁として顕現した妖精が障壁に擬態しつつ、天使の手から袖へと移動して更に擬態したので、その妖精を元に召喚してみせただけである。
しかし、天使は内心で驚愕していた。
大よく小を断つが如き力技ではなく、まさに小手先の技術で追い詰められたのだ。
濃淡は次に折れて紛失した灯の刀身を召喚し、摘まんで降り下ろす。刀身の刃に沿って破魔のチカラが及ぶので、確率操作のチカラが断たれていく。とは言え、合気道には剣術や杖術を捌く技があるので、咄嗟に濃淡の手首へ手刀を当てながら折れた刃を止めつつ、柔道の一本背負いを行う。
高速で海面に叩きつけられるも、濃淡は少しだけバウンドして海面の上に立つ。
だが、天使は追撃に移れない。投げられる瞬間に手放した刀身が、空間ごと個別にした再召喚によって細かく分断され、分離した妖精達が刃の破片を持って突貫してくるのだ。確率操作は刃状となった破魔のチカラで切り裂かれてしまう。
能力を封じられたも同然な状態で、先程の異世界からの攻撃群が迫り来る。
更にはいつの間にか天使の魔力を濃淡が掌握しており、魔力や精神力を内部から乱されてしまう。魔力等が制御困難な状態では超能力もまともに行使出来ない。
天使は降参する機会を逃していたので、容赦なく召喚魔法に蹂躙されていく。
高速で移動しながら彩と虚無が撃ち合うので、近辺では槍の穂先と銃弾が乱れ飛んでいる。
彩の纏う太陽道と虚無のベクトル操作能力は、とてもよく似た性質を持つ。受けた攻撃をそっくりそのまま相手へ返せるのだ。
しかし、虚無の能力が彩よりも秀でているので、接近されれば彩の太陽道が持つ力場を反転させられるが、言うほどそれは容易ではない。彩は光輝に師事を仰いでいるので、その技量を持って、自身の肉体から放つ衝撃を顕微鏡並みの精度で行使する術を持っており、さらに手首を当たる直前で返すという特殊な体術も使えた。故に虚無にダメージを与えることができる。手前に引くことにより虚無のベクトル操作を逆手に取り、虚無が自分から彩の拳を自らの体に引き寄せてしまうのだ。
つまり、接近すると虚無も危険が増すから、全能兵器で中距離を維持している。あらゆる形状の槍とマスケットから撃ち出される豊富な種類の銃弾は、良くも悪くも拮抗していた。
たまに互いの穂先が肩や脚に命中するも、それは残像や変わり身の丸太だったりする。
虹の拳銃と違って、虚無が展開するマスケットの銃身は普通だが、撃ち出す銃弾が全能兵器なので、銃身内部に汚れがたまったりはしない。また、各マスケットへの弾籠めも内部へ直接転位させているので、槍の切り返しにも対応出来ている。
ただし、マスケット故に高等技術は使えない。
マスケットの連射させる間隔を短くしていけば可能だが、ただ短くしていくだけでは無意味となる。弾道は点在する線なので、連射していくと槍の突きと大差ないモノになるのだ。
槍を使う彩に槍で挑む事は、同じ土俵で闘うのと同義である。しかし、マスケットは槍よりも進化した武器だから、わざわざ劣化させてまで闘うような、酔狂な真似をする必要もない。
その為、銃弾を連射するよりも効果があると思う戦い方を、虚無は考案してみた。
散弾を元にした入れ子式の弾丸である。
銃弾の全能兵器だからこそ実現出来た、親弾、子弾、孫弾、曾孫弾、玄孫弾。詰まる所大きさが全て同じ、マトリョーシカやバンカー・クラスターのようなモノだ。
見た目こそ散弾の弾薬だが、威力は全てが均等となっている上、属性や魔法弾を仕込むことも可能となっていた。
狭い場所でなくても、距離が多少離れていようとも、散弾なので空間制圧が容易に出来る。
けれども、その全ての散弾は鉛で出来ていた。槍の穂先は鋼や鉄であるため、壊れないモノ同士がぶつかると、残るは素材に応じた強度や威力となるだろう。
避けきれないなら防ぐだけであり、彩は槍の穂先を散弾へ向け、幾重にも増やして散弾の粒を切り裂きつつ防いでいく。立て続けに迫る散弾は粒そのものの回転もあったようで、次第に穂先は欠けていくも、馬上で使う鎗を横に並べた鉄の壁に阻まれた。
散弾の中身が機関銃の連射による銃弾と速度だったなら、鎗をも貫通していただろうが、射出された銃弾を途中で変えられる程の技量は、虚無には未だ無い。
散弾を防ぎきると鎗を消し、チャクラ刀にした苦無を片手に、虚空を縮地で斬りかかってくる彩。魔力を具現化させた剣で数合の殺陣をし、鍔迫り合いをする虚無。
間近で銃弾と穂先が攻防する中、どちらも怯みはしない。
チャクラと魔力、どちらも極小の厚みしかないエネルギー状のモノ。ただし、刀と剣という形状は対極に位置している。刀の刀身は粘りがあるも薄く、剣の刃は厚いので刀の刃と接触すると欠けてしまう。
チャクラと魔力も相性が悪いので、あまり長くは持たない。
だが、刀の特性をチャクラ刀で発現させれば、魔力を斬る事も可能となる。
どちらも普通は見えないチカラだ。破魔を簡素に
超能力で破魔の特性を付加させれば、疑似的な破魔となる。これは過去に天候がイヴに用いた事があった。最も、あの時はチャクラではなく、短剣の呪いを見えないチカラに当て嵌めての行使であり、例えるなら妖刀で妖怪を斬るようなものだろう。
彩は灯の戦いを見てきた一人でもある。決して不可能な事でもない。更に言うと、疑似的とはいえ破魔は破魔である。虚無の能力すら断ち斬れるのだ。
虚無は首筋にチャクラ刀を突きつけられ、降参する他無かった。
アートは混沌に追いかけられていた。
真龍の体躯そのままで飛翔するも、バーニアを背中で噴かし人機一体となって追う混沌は振りきれない。時折、バルカン砲やミサイル、レーザービームが接近してくるも当たる直前で身を縦横無尽に捻り、曲芸のような旋回をして回避する。
龍人に変身しつつなんちゃって木葉落としを行うも、レシプロ機と戦闘機の如き性能の差は埋めようが無く、ヘリコプター以上に小回りが利くのはお互い様なので、再び背後へと混沌は移動した。
通常の飛行能力では追いかけられこそすれども、被弾したりはしないので、生身である分アートの方が凄い。かたやアストロ・スーツやパワード・スーツの様に機体を用いての、加減速や旋回能力を発揮している混沌は、ここだけを見たら機体操縦が上手いだけとなるだろう。
実際には物凄い重力加速度を耐えつつ、乱気流へ突入しながら追いかけているので、少しのミスでも空中分解してしまうのだ。バリアや壊れない特性等は適用していないので、混沌の操縦能力は素でエース級となる。別にサイコ・フレームやGNドライブを追加装備しても使いこなせるが、現時点では追いかけながら他の戦闘に向かわせないよう、牽制するだけで一杯一杯な為に、直接攻撃以外は決定打に欠けていた。
それに、飛び道具よりも速く動いては、飛び道具の意味合いが無くなるとも言える。故に牽制か弾幕防御で、向こうの火球を散らすしかない。
アートは一瞬だけ亜光速移動に移行し、混沌の背後を取る。過去の入れ替わりの際に、天候がアートの身体へ教えていたから可能な移動方法だ。光速に近いので物理的な破壊力を持つ衝撃波が混沌の動きを止める。
混沌は目を再び開き、きり揉み回転する姿勢を立て直すと、背後にアートの気配がした。バーニアを瞬間的に加速させるも、アートはその場で身を翻し、加粒子砲を口から放つ。加速後の虚を突かれるも、軌道を見切り身を捻って回避した混沌。
属性を揃えた真龍の存在そのものは、爪以外の攻撃も全能兵器となり得るから、無理に防御するより無難に回避しておく方が賢明だ。
龍人のままアートは、背中から出した翼を羽ばたかせ、無数の鱗を飛ばして念動力で追尾させる。混沌は手持ちの火器で幾つかを撃ち落とすも、数が数なので回避へと移行した。
追う立場から追われる立場になるも、混沌にはまだエントロピー操作能力がある。飛行しつつ結界を張ると、周囲から音や光を吸収し始め、アートの攻撃を避けながら結界内部を闇に変えていく。
結界内部の熱量が全てを奪い、アートを時間ごと凍結させてしまえば、幾ら全能兵器と言えども動けなくなる。
ただ、熱量を吸収するには多少の時間が要るので、アートの動向には注意しなくてはならない。目を凝らしても見えない程の闇だが、音や振動は吸収しているため、聞き逃す事は絶対に無いのだ。
アートは結界を感知すると、混沌の攻撃が来る事を悟る。おそらくは能力だろうが対策は考案していた上、回避も防御も不可能なら覚悟して受ける他無い。
炎龍の熱量を樹龍と風龍の補助で底上げし、魔力と同じように体内を駆け巡らせ、自身の体温を太陽へと近づけていく。
熱量は奪われるが、必ず遅れが出る以上はその時間分だけ動ける筈だ。
金龍の爪を中心に刃物状へ変えて突撃し、混沌のアーム・クローと組み合う。熱量は距離に比例して強く吸収されていくようであり、爪が
爪は末端部分なので早めに熱量は無くなってしまう。
最後の悪あがきに、迫り来る機械の拳を手刀で捌き、蹴りである
混沌は感心しつつも冷静に足刀を受け流し、アートの額を頭部のバルカン砲で狙い、ショック弾頭で気絶させた。
天候とブラックは至近距離で格闘し、天候の拳がブラックの腹部にめり込むと同時に、ブラックの肘が天候の顔面を穿つ。
蹴りには蹴り、拳には拳だ。互いの攻撃はそのまま自身への攻撃となって跳ね返されている。
海面を表面張力の応用で踏みしめて戦うだけでなく、闘いの場は次々と移ろいで行く。
海上から海中へ。次に周辺の海水を吹き飛ばしつつ、孤島の崖へと。そして再び海上へ。ある時は海底深くにまで。
使徒にとって、場所はどこであろうと戦える。
自身の身体を起点として、超圧縮させた魔力やチャクラを相手に叩き込む。そうして受けたエネルギーを上手く体外へと放出し、致命傷を防いでいく。
負傷しても打撃の途中や吹き飛ぶ最中に治す上、天候の速度とブラックの防御は、最初こそ隔絶した差があったものの、長引けば長引く程に埋まっていった。
速さとは極めていけば硬さと威力が増すが、海面に亜音速で突っ込めば身体が粉砕してしまう。大口径の銃弾を海面に向かって撃ち込んでも、海中には入らないのと同じ理屈である。故に光速移動は出来ない。
硬さとは極めていけばそれだけで相手の攻撃を弾き、自身の威力に直結する。
とはいえ流石に限度があるので、ややブラックが押され気味である。何しろ回復魔法は燃費が悪い。
体術はお互いに、光輝や白から鍛えられているので、ほとんど互角だ。全能兵器も借り物である。
武器だけならブラックが有利となるも、魔術を使われては当たらない。
かといって天候はブラックを短剣で斬っても回復して防御が上がるだけ。光速斬撃と言えば響きは凄いだろうが、一瞬だけなので、遅れて発動する回復魔法は妨害出来ない。
一秒間にどれだけコマ切れにしようと思っても、短剣の刃程しか斬撃は通らないし、真正面から突くと弾かれる。
破魔を用いて防御を貫通したとしても、最初の斬撃で短剣が破損するために、破魔は使いどころも選ぶ。
それに二振りある短剣の内、一本でも破損すると光速移動は使え無くなるのだ。
実際と状況は違うとはいえ、どちらにとっても不利だ。が、その不利をひっくり返してこそ、優位に立てるとも言える。その技量は双方共にあり、先の読み合いをしながら、尚も殴り合う。
ブラックの踵落としにより、海底まで叩き落とされる天候だったが、極小の元気玉を幾つも瞬間移動させて、お返しとばかりにブラックへ叩き込む。しかし、ブラックは元気玉が炸裂する周囲の空間を短絡させ、海底に居る天候へと突き返した。
それすら、天候は瞬間移動で回避する。
瞬間移動の応用で空間を短絡させていけるが、維持する精神力は増加する為に多用は出来ない。
元気玉も周辺の生物から体力を別けて貰う必要がある。
能力によっては元気玉のエネルギーすら魔力に変換できるが、変換効率が低いと割りに合わない。
海面が爆発したかの如く弾ける中、ブラックはソードオフを真上へ撃ち、天候は疑似的天候操作能力によって、弾けた水の粒を加速度的に落下させる。
鉛の散弾と水の散弾が幾度となくぶつかり合うが、装填速度と発射速度は上げられないので、競り負けてしまった。
仕方なくソードオフを仕舞いつつ、海中へと避難するブラック。手傷を負うかもしれないので、防御力に自信があっても回避はきちんとする。
天候は更に能力を行使し気圧を下げて、孤島がある領域に台風を作り出す。疑似的とはいえども牧場物語の経験があるので、台風を作り出すのは造作もない。また、気圧を更に低くしていき、中心付近にデイ・アフター・トゥモローの如き氷の世界を再現した。といっても範囲は物凄く狭い。
少し複雑な能力操作に集中しすぎたのか、肩を叩かれるまで背後に接近した気配へ気づけなかった。
強張らせた表情で振り返ると、ブラックが凍えながらも鉄拳制裁体勢に入っている。
やり過ぎだ、と叫びながら天候の鳩尾を突き、孤島の崖まで吹き飛ばし埋没させた。
天候の気絶と同時に、台風や氷の世界は嘘みたいに消えていく。
恒星と暗黒は対峙したまま、構えを変えたり間合いを計るだけで、一向に殺陣を行わない。
いや、行わないと言うより、心理戦で戦っているのだろう。
暗黒は共生能力と毒物の全能兵器を巧みに使い、恒星に幻覚や幻聴、幻痛を味合わせているのだ。
恒星は頭では幻術だと理解しているが、全能兵器と能力による幻術を打破することは厳しい。暗黒が徒手空拳の構えを取るのは、いつ幻術が破られても良いようにしているだけである。
幻術に掛けているからといって、暗黒が近寄らないのは、現実と幻術が混ざっている恒星に、うっかりでも近寄ると幻術ごと斬られる上に、飛び道具は変わり身で回避される事が分かっているからだ。
抵抗出来ているだけで称賛に
五感全てが騙されている場合、取るべき行動はたった一つ。
死ぬ事だ。
死ねば五感は騙せないし、死体なら感覚も何も無い。
そんな訳で幻覚の暗黒達を切り刻み、時に投げ飛ばしたり、暗黒自身が着ている衣服で行動の自由を奪い、なんちゃってハーレムな状態を作ったりして、仮死状態へ至るにおかしくない状況を待つ。
たまに銃弾や魔法の飛来を感知するので、変わり身の術にて回避する。
時折視える本物の暗黒は、構えたまま此方を観察している。おそらく幻術への対策を潰す為の参考にするつもりなのだろう。
恒星としては破り方を教えたくはない。だが、幻術如きに屈するのも
幻術だけが暗黒の取り柄という訳ではないが、恒星は組手というルールへ乗っ取り、格闘を中心に幻術の相手をしていく。
暗黒に当たる魔法や能力は、ウイルスの障壁や細菌が固まった足場に乗り、真上へと待避する。
ウイルスの障壁などは暗黒にしか見えないので、他の保持者は魔法か超能力だと思って対応していく。でも、それは濃淡や彩には通用しないので、別の手を模索するしかない。
特に灯やアダムを相手にする場合は、例え鬱の症状を引き出しても気迫で持ち直す可能性がある。
もし戦うとすれば、既存のウイルスや細菌だけでは心許ない。故に細菌同士を掛け合わせたり、細菌の
幻術は序の口、本命は病症及び自傷による悪化での戦闘継続の
肉体派ではないので、多少回りくどくとも相手はきっちりぶっ潰す。
暗黒がウイルスの障壁を展開して、また流れ弾を防ぐのと同時に、恒星は巨大手裏剣を旋回させながら、その影で心臓のツボを押した。
暗黒は手裏剣を楯に構えたまま動かない恒星を不信に思い、細菌の増殖を高めてみたが、ほとんど増えない。宿主が死ねば細菌やウイルスはその活動を小休止し、腐敗によって朽ちた後で各地へと蔓延していく。
魔法の一撃で手裏剣もろとも吹き飛ぶ。その瞬間に恒星の仮死を悟る。暗黒は躊躇いなく自らを仮死状態へ追いやる、その手際と恒星に戦慄した。
蘇生魔法を発動準備していると、恒星が仮死から自力で復活する。幻術は解けただろうが、細菌やウイルスは未だに体内へ共生しているので、寝ていた病魔を揺り起こす。
立ち上がろうとして、吐血する恒星へとゆっくり近づき、暗黒は吐血した理由を能力で説明し、最後通帳を述べた。
恒星は霞む意識の中で、参った、と絞り出して倒れる。
言質を取った暗黒はウイルスなどを消し、その毒素も自然治癒力を高め、恒星の体内を正常に戻していく。
自然豊かだった孤島は見る影もない。岩を適当に組んだとしか思えないほど、原形が無かった。
その砂浜に使徒全員が集合すると、負け組と勝ち組に分かれる。
しかし、ここで灯を敗者として扱うことに虚無や虹が、意義あり、と叫んだ。当然、灯本人は聞く耳を持たない。
灯の言い分は理解出来るも、光輝達は
それでも灯が折れないので、少数決にて採択する事となった。
聖痕が勝者だと思う人は挙手、虹が放つその言葉に聖痕以外の全員が手を挙げる。
こうして灯は勝ち組へと押し込まれてしまう。
少数決とは少ない方の選択が可決されるのだ。
組を決めると、次回はその組内にいる相手と戦う事になる。
孤島とその周辺を元のように再現し、使徒達は自由気ままにバカンスを始めつつ、組手の反省会をした。
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