第5話 クロノアの秘密ー④
村の入り口では避難していた家族や仲間と再会した村人達が互いの無事を涙を流して喜びあっていた。
「この村の代表はどちらにおられるか! 話を聞きたい!」
他の騎士と比べて一人立派な鎧を纏った騎士団の団長らしき男が馬上から叫ぶ。
妻との再会を抱きしめ合って喜んでいたモーシュは、自らの役目を果たす為後ろ手を引かれながらも急いで騎士の元へと向かう。
村人達をかき分け近づいてくるモーシュに気づいた団長らしき男は馬を降りた。
「私がこの村の村長、モーシュでございます」
「私はワーロク駐屯騎士団団長のネルドだ。到着が遅れたこと、謝罪してすむようなことではないのは分かっているが、申し訳なかった」
外した兜を小脇に抱えたネルドは村長に深々と頭を下げる。
頭を下げられた方のモーシュはどうしていいか分からずにあたふたとしてしまう。
騎士団団長ともなればその多くが貴族出身であり、貴族が平民に頭を下げるなど考えられないことだからだ。
「あ、頭をお上げください団長様。そう言って頂けるだけでも十分ですから」
「ありがとうモーシュ殿。 これからについて話し合いたいのがどこか場所はあるだろうか? それとゴブリン調査の依頼を受けた冒険者達にも会いたいのが……」
「承知致しました。少しお待ちください」
モーシュは団長の要望を叶える為に村へと急ぎ戻る。
一方のネルドは待っている間が勿体無いとばかりに引き連れてきた部下に野営の準備と森へゴブリン討伐に行くように指示を飛ばす。
街からの移動の疲労があるのか、動きが悪い者もいたがネルドに睨みつけられると尻に火が付いたように慌てて指示通りに動き出した。
「全く、その様だから国に残った騎士は駄目だと言われるんだ」
苦虫を嚙み潰したような顔で呟くネルドに、戻って来たモーシュが会議場所の準備が出来たことを伝えに来た。
会議場所、と言っても村に貴族を招いても失礼がないような迎賓館のような場所などある訳もなく、モーシュは自分の家にネルドを招いた。
家に通されたネルドは先に待っていた冒険者二人を見て驚く。
自分が今まで見た来た中でも一番年若い魔法士の少女と革鎧の上からでも分かる鍛え上げれた肉体を持つ、布で目以外をぐるぐる巻きに覆った怪しすぎる女性だったからだ。
「お初にお目にかかります。私は魔法士のクロノアと申します。こちらは戦士のルナさんです」
「君達が村を守り切ってくれた冒険者なのか」
平静を装いつつネルドは内心戸惑いながらどうしたものかと思案する。
あまりにも二人が怪しすぎるからだ。
私は魔法士以外の何物でもないと言わんばかりの典型的な魔法士の装束を着た若すぎる魔法士と雑に顔を隠している戦士、誰がどうみても怪しいという言葉しか出ない。
クロノアの方は才能が有るが若すぎる故に魔法士と見られないことがあり、その対抗策として典型的な魔法士の装束を着ているのかと考えればまだ納得がいく。
しかしルナの方はまるで急ごしらえで顔を隠したのではと疑いたくなる雑さが出ており、顔を見られたら不味いと自白しているようなものだ。
ネルドはどうしたものかと頭を抱えたくなったものの、判断材料が無さすぎる今はどうしようもないと意を決し、ルナに問いかける。
「ルナ君、君は何故顔を隠しているのかね。差し支えなければ教えてもらいたいんだが」
ネルドの問いかけにルナは思わずびくりとしてしまう。
(やはり咎められたか。騎士だった頃にこんな風体の人物を見れば私だって問い詰めただろうから当然だな)
顔に布を巻き付けただけの変装など、不審者でしかないのは自覚しているが、クロノアはこれで大丈夫だと譲らなかったので渋々ルナは従っている。
「申し訳ありません団長様。ルナさんは先の戦いで顔に深い傷を負ってしまったのです。ご理解いただけると幸いなのですが」
怪我が絶えない冒険者と言えど、女性が顔に傷を負ったとあれば人に見られるのは気分のいいものでは無いのは余程無神経な人間でもない限り誰でも理解できる。
クロノアの言い分を聞いたネルドは、そういうことかと納得してしまう。
底意地の悪い人間ならば無理やりにでも取らせたのだろうが、騎士道と礼節を重んじるネルドはそれ以上追及するのは止めた。
「知らなかったとはいえ失礼した。布は取らなくて結構だ」
「ありがとうございます」
礼を言ったルナは布の下で顔を真っ赤にする。
実はクロノアに声でバレる危険性も考慮して普段のハスキーな声ではなく自然に出せる範囲で出来るだけ高い声で話すように言われていたのだが、思ったよりも少女のように高い声が出てしまい恥ずかしかったからだ。
隣に立つクロノアのは普段の凛々しい声とのギャップを大いに楽しみ、破顔している。
がたいの良いルナから出たにしては少女の様に可愛いらしい声と、突然涎を垂らして少女がしていい顔ではない顔をしているクロノアに戸惑いながらもネルドは村長に勧められて椅子に腰掛けた。
ちなみにモーシュや村人達にはクロノアが事前に、以前酒場で酔って絡んできた騎士をルナがボコボコにしたことがあり、騎士に顔を見られると面倒なことになるかもしれないから一芝居付き合って欲しいと嘘をここ数日で広めてある。
純粋なモーシュや村人達はあっさりとクロノア嘘信じ、恩人であるルナの為にと協力を約束してくれた。
「まずは君達二人のお陰で村が救われたこと、礼を言いたい」
真っ先に礼を言う辺り実直な性格なのはよく分かったが、ルナは布の下でギリギリ歯を食いしばる。
「いえ、冒険者として、戦う力を持つ者として当たり前のことをしたまでです。それよりも何故騎士団の到着がこれ程遅かったのかお聞きしたい」
可愛らしい声の奥に凄まじい怒気を感じたネルドはたじろぐ。
騎士で貴族という立場上、平民相手ならば適当な理由で誤魔化したり権力で今回の一件を偽装するなりもみ消すなりするのは簡単だ。
しかしネルドは腐敗した部下を大勢抱えながらも自らは腐らずに騎士としての役目を果たしてきた男。
彼が取るべきだと考える行動はただ一つ。
嘘や誤魔化しでこの場を濁さず、きちんと釈明することだ。
「今回騎士団が出動するまでに時間を要したのはいくつかの要因が重なってしまったからだ」
ネルドはゴブリンが村を襲った日に何があったのかを語り始める。
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