第5話 クロノアの秘密ー②
直ぐに再起動したルナは、自分の発言を振り返る。
自分は一緒に居たいとは言ったが何故それが告白と捉えられるのか、頭の中が疑問符で埋め尽くされてしまう。
「……確かにそうなってしまうのか?」
ルナは頭の中から懸命に疑問符を追い出しつつ状況を整理すると、自分に好意を寄せている異性に一緒に居たいと言えば確かに告白と受け取られても仕方がないのかもしれない。
恋愛経験など一切ないルナでも、何とか理解出来た。
あくまで仲間や友人として一緒に居たいと言ったつもりのルナは慌てて訂正しようとするが、時すでに遅しである。
「ちょっと待ってくれクロノア。私はそういう意味で言ったのではなく……」
「じゃあ、どういう意味なんですか」
瞳に狂気の色を浮かべながら仕込み刀を抜こうとするクロノアに、ルナはそれ以上何も言えなくなってしまう。
「いえ、なんでもありません。不束者ですがよろしくお願いします」
小さな体から発せられる巨体のオーガよりも恐ろしい圧力に負け、ルナは否定するのを諦めた。
一方のクロノアは正に我が世の春と言わんばかりに狂喜乱舞していた。
ルナとそういう関係になりたいと考えたことが無いと言えば嘘になるが、どんな形であれ側に置いてもらえるだけで十分だと思っていた。
それなのにまさかまさかのルナの方から告白してくれたのだ。
こんな幸せで幸運な人間はきっとこの世にいないだろうと思える程にクロノアの心は満たされる。
スラム街での泥水を啜る生活も、時に鬱陶しく、時に恐ろしい師匠の元での地獄の特訓を耐えてきたのも今この瞬間に繋がったのならば全てが無駄ではなかったのだ。
怪我をしているのも忘れて抑えきれない感情を体全体でクロノアが表現していると突然ルナに後ろから抱き着かれた。
「ル、ルナさん! もしかして今から僕、食べられちゃんですか!」
「何を言っているんだ。 私が言うのもなんだが怪我人が暴れ過ぎだぞ。ほら、鼻血が出てるじゃないか、深呼吸をして少し落ち着くんだ」
呆れた声のルナに言われた通り深呼吸を繰り返してオーバーヒート気味の脳を落ち着かせてみると、ルナはクロノアを抱きしめている訳ではなく羽交い絞めにしてるだけで、どう見てもそういうことをする雰囲気ではなかった。
流石に舞い上がり過ぎていたことに気づいたクロノアは急に恥ずかしくなり、鼻血を啜りながら項垂れてしまう。
「すみません、落ち着きました。ルナさん、変人自覚はありますけど嫌いにならないで下さい! 捨てないで下さい!」
瞳を潤ませ謝りながら縋り付いてくるクロノアをルナは可愛いと思い心臓が一瞬、大きく鼓動した。
今までにクロノアを可愛らしいと思うことはあれど心臓が大きく鼓動したのは初めてであり、ルナは自分に何が起こったのか分からず困惑する。
それは流されるままとは言え、カップルになったことでルナの中でクロノアへの感情が少し変化した証であるのだが、恋愛感情に疎いルナが自分で気づける訳も無く、疲れと怪我のせいにしてしまう。
「男女のことは良く分からないから何とも言えないが君を嫌いだとは思っていないさ。だが、自覚があるのならば時折起こす癇癪は直してくれるとありがたい」
とりあえず自分の感情を整理して伝えたいことを伝えたルナにクロノアも納得したのか、涙を拭いながら頷く。
こうしてルナは勘違いからとはいえ、生まれて初めて風変わりではあるが彼氏が出来たのであった。
「さて、怪我をしてるところ悪いが少し手伝ってくれないか? やることが山積みなんだ」
「もちろんですルナさん。恋人の頼みごとならば何でも聞いちゃいますよ」
恋人いう響きに理解不能なむず痒さを覚えながらルナは、速足でクロノアを連れて村外れへと向かう。
「おやおや二人さん、もう体は大丈夫なのかい?」
モーシュ達動ける村人達は村外れでゴブリンの死体やバリケードの後片付けに追われていた。
奇跡的に有志軍に参加した村人達に死者は出なかったが重軽傷者は多数出ており、怪我を負っていない者はいない。
しかし、村外れの惨状を放置して帰って来る家族達の目に触れさせる訳にはいかないと、怪我が軽い者たちが率先して参加しているのだ。
精神的ダメージ以外は軽症のクロノアはともかくとして、あばら骨を数本折っているルナは重症の部類に入る筈だが、本人は平気そうに重そうな木材を軽々と運び始めた。
「ちょっとルナさん! 流石にそれはちょっと無理し過ぎです!」
さっきは狂喜乱舞する自分に怪我人が暴れるなと説教をしておきながら自分は平然と無理をするルナに、目を丸くして驚きながらもクロノアは慌ててルナを止めようとする。
「なに、少しあばらが折れてるだけだ。大したことは無いさ」
戦場では負傷していても関係なく戦闘や雑務に参加させらていたせいで、ルナの休まなければならない基準は完全におかしくなっているらしい。
「十分大怪我で大したことありますよ! ああもう、せめて手伝わせて下さい」
さらに戦場から戻って日が浅いせいで世間一般の基準とすり合わせる時間がなかったことも拍車をかけているようだ。
慌ててルナを手伝おうとするクロノアを見ながら、モーシュは姦しい若者コンビに微笑むのだった。
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