第15話・最終回 魔王ヴァルサリンガ
「するってぇっと、何か? 今回遭遇したのは…魔王軍の幹部の1人という事か?」
「奴自身はそう言っていましたが…本当かどうかは?」
ギルマスは、顎の髭を撫でながら考えていると、急に立ち上がり…後ろの棚から分厚いファイルを取り出した。
そして中身を確認してからそのページを開くと、僕に見せてくれたのだった。
「この中に、お前と戦った者はいるか?」
「えっと…って、これ? 随分綺麗な絵ですね?」
2ページの絵の中に、1ページは魔王…らしき人物が剣を構えてポーズを取った絵があり、次のページにはそれぞれポーズを取った…多分幹部らしき絵が4つあった。
「あぁ、これはな…魔王が宣戦布告をする前に、各国の王や冒険者ギルドに配られた物なのだ。 デジタルプリントカメラという魔道具で作ったパンフレットだと、同封された手紙に書いてあった。」
「随分自己主張の強い魔王ですね…それとも、絶対的な自信でもあるのでしょうか?」
「まぁ、魔王の意図迄は分からん! それよりも、この中にいるのか?」
「はい、このミノタウロスですね。 名前はヴァルギスタイガーと名乗っていました…多分。」
「多分? その根拠は?」
「方言なのか、訛りが強いのか…よく聞き取れなくて。」
僕とリットが倒したミノタウロスのヴァルギスタイガーが映っている絵には、斧を担いで力こぶを作った姿で写っていた。
「お前の事を疑う訳ではないが…何か証明出来る物はあるか?」
「それが…倒したら死体が灰となって消えたので…あ、斧があった!」
僕はマジックバックからミノタウロスが使っていた斧を取り出して渡した。
ギルマスは、映っている絵を見ながら確認していた。
「間違いないな…このミノタウロスが使っていた斧と同じ物に間違いない…が!」
「…が?」
「何と言うのか…お前は何か呪われていたりして無いか? なんか悪い物に良く遭遇するな。 マーダーグリズリーを倒したり、荒くれドニーを半殺しにしたり、それで今度は魔王軍の幹部か⁉」
「呪われている…という意味では当たっているかもしれませんね。 スキルだけでジョブが無いですし、スキルも調味料でしたし…」
「まぁ…とりあえず、生きて帰ってくれて良かった! だが、討伐依頼はさすがに出来なかっただろ?」
「いえ、討伐依頼のバディホーンブルは、証明部位を確保していて…いまリットが下で提出しています。」
「は?」
ギルマスは呆れた顔をしていた。
僕は苦笑いしながら、バディホーンブルの角を入手した経緯を話した。
「はぁ………まぁ、偶然とはいえ…まぁ良いだろう。 それにしてもテッド、魔王軍の幹部を倒したんだ、経験値や…いや、レベルは幾つ上がった?」
「まだ確認はしていませんが、ミノタウロスを倒す前にも色々倒していましたからね。 リットはレベルが34位まで上がったと言っていましたが、僕はまだ…」
「解った…とりあえず俺は、公爵家に赴いて今回の件を報告しないといけないから、しばらく留守にする。 ギルドマスター・テスタの名において、テッド・リターンズとリット・リターンズには、自宅待機を命じる。 呼び出されたらいつでも来れる様に待機していてくれ!」
「わかりました…が、雑貨屋に買い物に行くというのは駄目ですか? 街の中からは出ませんので…」
「それ位なら良い! 今のお前なら、働かなくても数日は喰うには困らないだろ?」
「はい、大丈夫です!」
僕は話が終わると、ギルドホールに移動した。
すると、リットの所に行って話をした。
「どうだった、お兄ちゃん?」
「ギルマスから、呼び出しが掛かる迄は街の外には行くなと言われた。 買い物位なら良いみたいだけど…」
「ところでお兄ちゃんはレベルが幾つまで上がったの?」
「多分…10以上は上がっているとは思う。 またスキルと調味料の確認が待っているんだろうな…はぁ。」
僕とリットは、冒険者ギルドを出て野菜とパンを買って家に帰った。
そしてリットから提案があった。
「お兄ちゃんの調味料に小麦粉があったよね?」
「あぁ、あるよ。」
「それなら、いつもはパン屋でパンを買っていたけど、家で作ってみようかな?…と思うんだけど。」
「確かに、その方が経済的か! 呼び出されるのがいつになるか分からないし、挑戦してみてくれ!」
「小麦粉もあるし、砂糖もあるし、牛乳もある。 あとは卵だけ…」
「卵か! 食材召喚!」
僕は冗談で試したら、魔法陣が現れて…その中心に卵が20個近く出て来た。
僕とリットは、殻を割って食べてみた。
「普通の卵だね? 何の卵かは解らないけど?」
「一応、鳥の卵を想像して召喚したから、鳥の卵じゃないか?」
その夜…たくさんの卵料理が出て来て、料理を楽しんだ。
多分…鳥の卵では無いかとは思うけど、ハッキリとした事が解らない謎の卵は、驚くほどに美味しかった。
久々に食べる卵料理に、僕や妹達も満足した。
それも、料理人のジョブがあるリットの腕なんだろう。
「当分の間は暇だしな、久々に休暇を楽しむか。 あ、そういえば…スキルや調味料は何が増えたんだろう?」
僕はギルドカードを確認すると、レベルは43まで上がっていた。
そしてまた良く解らないスキルと調味料に頭を悩まされるのだった。
「さて、明日は何をしようかな?」
テッドは、そう考えながらベッドに寝そべってギルドカードを眺めていた。
*スキル一覧は…早ければ日曜日に更新します。
・・・・・・・・・一方・魔王城では?・・・・・・・・・
長い廊下を走っている魔物がいた。
その距離は、1㎞程あった。
魔物は人間とは違い、身体能力に優れている筈だったが…?
そして扉を開けると、そこから魔王が座っている玉座迄、100m程あって…走りながら魔物は報告をした。
「ま…ま…おうさ…ま、大変なこと…がおきま…した!」
『一体どうした…って、ちゃんと休んでから言え!」
魔物は少し休んで呼吸を整えると、再び叫んだ。
「魔王様、大変で御座います! 補給に向かったヴァルギスタイガー様が、人間どもに討伐されました!」
『何だと⁉ たかが人間如きに我の配下が倒せる筈が…まさか⁉ その者は勇者か⁉』
魔王の配下を倒せる程の人間が居れば、それは勇者以外他にない…はず?
魔王は一時期、勇者に対して落胆をしていたが…配下を倒された事により、再び高揚感が沸き上がっていた。
「そ…それが…そのぉ…」
魔物は何か口ごもっていた。
魔王は『ハッキリ言え!』と、活を飛ばした。
「はい! 報告致します! ヴァルギスタイガー様を討伐した者は、勇者ではありませんでした!」
『なんだと⁉ 勇者でもないただの人間に、ヴァルギスタイガーは破れたというのか⁉』
「しかも…」
『なんだ?』
「それが…年端も行かぬ子どもだったと…しかも2人の。」
『な…なんだとぉ⁉』
魔王は考えた。
あの怪力無双のヴァルギスタイガーが、人間の…しかも勇者でもない者に、しかも子供に負けたなどと…
すると、前魔王のザイリンドーガを倒した勇者達の事を思い出した。
あの時は、4人の勇者が魔王ザイリンドーガを倒したという…ならば、その者…いや、その子供は4人目の勇者という可能性があると考えたのだ。
『過去にザイリンドーガを倒した勇者は4人いた。 現在では3人みたいだが…もしかするとその者は、4人目の勇者という可能性があるな!』
「いえ…目の報告によると、右手に勇者の紋章は浮かんでなかったという報告が…」
『なんだと⁉ 勇者では無いだと⁉ 勇者でもない者が我が幹部のヴァルギスタイガーを倒したというのか⁉』
「はい…その様です。」
こんな…馬鹿な事があって堪るか‼
ただの人間の…しかも子供に幹部がやられただと⁉
面白い…軟弱な勇者を相手にするよりも、その方が面白いでは無いか…
魔王は考えながらニヤついていた。
『おい、その子供を調べろ! もしかしたら、勇者に変わる新たな存在かも知れぬ‼』
「あ、もう1つ報告が…」
『む? なんだ? 話せ‼』
魔物は深呼吸をしながら、恐る恐る口にした。
「ヴァルギスタイガー様を倒した子供ですが…」
『うむ?』
「所持していた剣が………」
『勿体ぶらずに早く話せ‼』
「ひぇ! は…はい! その子供の所持していた剣が、魔剣シーズニングを所持していました!」
『は……………? 今なんて言った⁉︎』
「ですから…子供の所持していた剣が、魔剣シーズニングだと…」
『魔剣シーズニングだとぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
魔物は魔王に圧倒されて震え上がっていた。
魔王は玉座に座って貧乏ゆすりをしていた。
『まさか…魔剣シーズニングが人間の手に渡っていたとは…? あの遺跡に隠していた封印を人間如きが破ったというのか⁉ あの封印は聖剣でもない限り破る事は出来ないというのに…』
魔王は幹部達の招集を掛けた。
そして幹部達が集まると、ヴァルギスタイガーが討たれた事を話したのだった。
「まさか…勇者でもない者に敗れるなど‼」
「その者は、新たな勇者の可能性が⁉」
「しかも…子供に敗れたなどと…」
『言い忘れていたが、その子供が所持する剣が…魔剣シーズニングらしいのだ‼』
「「「!?」」」
幹部達は言葉に詰まった。
そして焦りだした者もいたのだった。
「魔剣シーズニングですか…それなら勇者よりも厄介な存在ですよ!」
「もしも、魔剣シーズニングの所持者が、勇者の力まで手に入れたら…」
「そうなる前に、我が赴こう!」
『おぉ! 風魔将軍フェルスリーヴァ! お前が行ってくれるか?』
「は! 是非とも期待に応えて御覧に入れましょう!」
風魔将軍フェルスリーヴァは魔王に礼をすると、魔王城から消えていった…が?
『フェルスリーヴァは…場所も聞かないで、何処に向かったんだ?』
「あの爺さん…せっかちですからね。 まぁ、その内に戻って来るでしょう。」
「それにしても魔王様、如何致しますか?」
『うん?』
「いえ…補給係のヴァルギスタイガーが討たれたという事は、魔王城に食べる物はありませんし、料理人もいないので…」
魔王城の厨房は、ヴァルギスタイガーが仕切っていた。
なので、そのヴァルギスタイガーが居ないという事は…?
『大至急、料理人を確保せよ! そして、食料を持って来るのだ‼』
「「ははっ‼」」
幹部2人はすぐに魔王城から飛び立っていった。
そしてテッド・リターンズの新たなる戦いが幕を開こうとしていたのだった。
テッド達の運命は?
そして執拗に魔剣シーズニングを恐れる理由とは⁉
・・・・・・・・・第一章・完・・・・・・・・・
・・・・・・・・・物語は第二章へ・・・・・・・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます