133.僕の番は君じゃない
目が覚めたら、知らないお部屋だった。見回して首を傾げる。僕が覚えてるのは、ヒスイと水浴びをしたところまで。ぬるくしたお水を被って、タオルを……頭にのせた。
「よくわかんないや」
転んで頭でもぶつけたのかな。でもお屋敷の中なら、知らないお部屋はない。それに誰かいてくれると思う。アスティやヒスイ、ボリス師匠とかサフィーも。誰もいないなんておかしいな。
転んだなら、どこか痛いと思うけど、それもなかった。ラーシュに教わった魔術で、連絡を取ろう。そう思いついて、魔法陣を描く。頭の中に作った魔法陣に魔力を流すけど、何も起きなかった。
ラーシュ宛がいけないのかな。今は忙しいのかも。そう思ったからイェルドにする。でも繋がらなくて、アベルやヒスイも試した。
「どうしよう」
困ってベッドに起き上がったら、首に何かついてる。ぺたりと張り付く布みたいな……撫でてみると革だった。そこで思い出した。アスティとボリス師匠の鱗がある。首に下げた鎖についた鱗を掴んで呼べば、二人に通じるよ。
大急ぎで首の鎖を探すけどなくて、服の中に落ちたかと思ったけど見つからなかった。
「起きたの? 私の大切な人」
入って来たのはピンクの髪の少女、見覚えがあるけど誰だっけ? 青い瞳を瞬く彼女は、笑顔で近づいた。でも気味が悪い。肌がざわざわした。これは良くない証拠だよ。
「誰?」
「忘れてしまったのね。あなたの番、マデレイネよ」
言われた内容が理解できない。僕の番はアスティなのに。
「僕の番は君じゃない。アスティだよ」
「うるさいっ! 私の番なのよ! そうじゃなければ、こんなに好きにならない。狂いそうなのに、どうして否定するの。私はあなたが好きなのよ」
すごい勢いで捲し立てられ、怖くなった。この子、何かおかしい。ベッドの中で足を引き寄せて丸くなり、出来るだけ小さくなる。攻撃されたら、いつでも反撃できるように警戒した。
今わかってるのは、僕は捕まってること。原因は分からないけど、魔法や魔術が使えない。剣がないから戦って逃げるのも無理。服は同じで、まだ湿っていた。だから時間は経ってない。
あれこれ考えて、近づくマデレイネという少女に言い放った。
「君が何を言っても、僕はアスティが好き。誰より彼女が大好きだよ。君じゃない」
可愛く結った髪を振り乱し、着飾ったドレスで地団駄を踏む。殴られても、蹴られたって、怯まない。僕が好きなのはアスティで、この子じゃないんだから。
睨み付ける僕に触れることなく、少女は部屋を出て行った。ほっとする。窓に近づいたら、窓の絵だった。このお部屋に窓はないみたい。
「アスティ、怖い」
僕は強くなった。魔術も剣や体術も学んで、襲われても勝てる力を手に入れたのに。今の状況では何もできなかった。
女の子を殴ったらいけない。剣は何も持ってないし、代わりの棒も見当たらなかった。見つけても殴れないけど。魔術で連絡したり逃げたりも出来ないから、僕は拾われた頃から何も変わってないのかな。
ただ震えるだけなんて嫌だよ。アスティの迎えを待つだけじゃなくて、僕自身が頑張らなくちゃ。あのマデレイネという女の子を説得して、お外へ出よう。そう決めたのに、眠くなるまで待ってもあの子は来なかった。
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