124.新しいお屋敷が出来た

 僕とヒスイが作った焼き菓子は、たくさんあった。皆に分けたけど、残った分は全部アスティが引き取ったの。どうするのかと思ったら、毎日少しずつ食べるみたい。


「お菓子、悪くならないの?」


「そのための魔法よ」


 僕が知らないだけで、食べ物が悪くならない魔法があるんだね。アスティが平気ならいいよ、と大きな袋で渡した。3日間で半分くらい食べた頃、ようやくお屋敷が出来上がる。


「まだ調整はありますが、明日から家具を入れます」


 調整はよく分からなくて首を傾げたけど、ガラス窓や扉の蝶番を弄ったりするんだって。ラーシュも魔法で協力する。ボリスやルビア、サフィーは、他のドラゴン達と家具を運ぶんだ。僕とヒスイはまだ子どもだから、指揮を執るアベルの隣でお手伝いの約束をした。


 家具を運ぶ人が来たら、どのお部屋か知らせる係だよ。確認はアベルがして、僕とヒスイで伝えるの。一人ずつ並ぶのかと思ったら、いっぱい来て慌てちゃった。


「これは赤い3のお部屋です」


 運んでくる人が迷わないよう、右と左に分けて番号を振った。左は赤、右は青、それぞれに数字の紙を貼る。それぞれのお部屋に、たくさんの家具が運ばれた。


 お勉強の道具、机、椅子、絨毯やベッドもあるよ。お部屋で使う棚や暖炉も運ばれてきた。一日掛けて分けた家具が入ったお部屋は、ごちゃごちゃしてる。物がいっぱいで、僕達が暮らす隙間は少しに見えた。


「今度のお部屋、狭いね」


「片付ければ広くなりますよ」


 ヒスイが言うには、下に敷く絨毯やベッドのマットがあるから、狭く感じるみたい。絨毯は敷いたら邪魔じゃなくなるし、マットもベッドの上に置くから広くなる。説明されたら分かった。


「じゃあ、明日はお部屋の片付け?」


「ええ、新しい家具を並べるお手伝いがしたいです」


 期待に胸を膨らませ、迎えにきたアスティにお願いする。僕達も家具を並べたい。


「家具は大きくてケガをするわ。大人がやるから、二人にはもっと重要なお仕事を任せたいの」


 アスティが真剣にそう切り出した。子どもの僕達に出来る、重要なお仕事? どきどきしながら続きを待つ。


「お洋服、シーツ、食器、花瓶……いっぱい物が届くわ。それをお部屋に運ぶから、二人に箱を開けて欲しい。出来るかしら」


「箱を開けるの?」


「そうよ。開けた箱から、侍女や業者の人が物を取り出して部屋に並べるわ。たくさんある箱を、全部開けるのは大変よ。出来るかしら」


「任せて! 僕とヒスイで頑張るよ」


 前に部屋にあった、クッションやお洋服は燃えちゃった。それを新しく揃えたなら、たくさん届くに違いない。僕とヒスイはちゃんと役に立てる! 嬉しくなって約束した。明日が早く来ますように。


 アスティと並んでベッドで眠る僕は、ちゃんと一人で起きられた。まだ目を瞑ってるアスティを揺らして、声をかける。


「アスティ、おはよう。朝だよ」


「早いのね、カイ。おはよう、私の可愛い番」


 ちゅっと頬にキスをもらい、嬉しくて僕も返した。抱き付いて転がっていたら、侍女の人が扉をノックする。うわっ、せっかく早く起きたのに、もう侍女の人が来ちゃった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る