122.僕だけ違うの出た!

 ラーシュに教わって、魔法を使う。水を作ったり、凍らせたり、逆に燃やしたりも出来るんだよ。でも僕が好きなのは、ふわっと浮く魔法だった。


「ヒスイも一緒に」


「一度にたくさん魔力を放出しないで、少しずつだ」


 ラーシュに注意され、気をつけて使う。いっぱい出すと飛んでっちゃって、その後落ちるからケガをするの。最初に練習で飛ばした靴がそうだった。怖いから少しだけ。


 手を繋いだヒスイと一緒に浮く。ゆらゆらと下がっていくから、もう少しだけ魔力を注ぐ。あ、揺れなくなった。


「その量を覚えておけ」


「うん。あっ!」


 油断したら力が抜けて、魔力も止まった。転がりそうになった僕を、ヒスイがさっと抱き締める。でも僕達は転ばなかった。


「俺がいるのに落とすわけないだろ。安心して練習しろ」


「ありがとう、ラーシュ」


「ありがとうございます」


 ヒスイも魔力が少しあるから、一緒にお勉強するの。元々魔法は、赤い鱗のクナイ先生に教わっていた。ルビアのお兄さんなんだって。だから赤い鱗なんだね。


 初歩的なお勉強は終わったから、これからは使う量を調整するお勉強に変わる。魔法陣はラーシュの方が専門家なので、今日からラーシュ先生だよ。


「ラーシュは先生だから、ラーシュ先生って呼ぶ」


「嫌だ、やめろ。先生なんて呼んだら返事をしない」


 びっくりした。ラーシュは本当に嫌そうで、鼻に皺を寄せて唸る犬みたい。人の嫌がることをしたらダメだから、先生と呼ぶのは中止になった。


「魔力の巡らせ方は、二人とも慣れてきたな。魔法陣を覚えるから来い」


 手招きされて、砂地に座り込む。細い木の棒をペンみたいに使い、ラーシュは丸や文字を書き始めた。お星様みたいなマークも入ってる。


「同じのを書けるか?」


「頑張るね」


「はい」


 二人で並んで書き始めたけど、難しい。何でだろう。


「……わかった。こっちへ来い」


 ラーシュが中断させて、僕とヒスイを右側に座らせた。三人で並んで座ると、僕達が書いた魔法陣を消してしまう。


「同じ向きで書くぞ」


 そっか、同じ向きじゃないから、同じ魔法陣にならないんだ! ラーシュは頭がいいな。僕は全然気づかなかったよ。


 同じ向きで書き始めると、さっきより似ている。文字のところが難しいけど、何とか書き終えた。すると、ラーシュが確認して頷く。


「魔法陣の外の縁、ここだ。ここに触れて魔力を流す。量は少なめから増やしていくぞ」


 やってみせるラーシュの魔法陣から、こぽこぽと水が湧いた。どんどん出てくる。僕とヒスイは顔を見合わせ、それぞれの魔法陣に触れた。一番外の丸に触れて、ゆっくり魔力を流す。体の中にあるポカポカしたものを、指先から出したら……。


 ごぼっ! ヒスイの魔法陣が水を出した。僕はまだで、魔力が足りないのかな? と増やしてみる。


 ばしゃ、ごぼぼぼっ! 変な音がして、温かい水が出てきた。何、これ。


「ん? ああ、ここの文字が崩れてるぞ」


 ラーシュが指差した場所を見ると、文字が違う。上と下の形が逆向きだった。これはお湯で、お風呂と同じみたい。


「熱いのが出なくて助かった」


 そうだね。火傷したら、ラーシュがアスティに怒られちゃう。皆でふふって笑って、お湯が出た話は内緒にした。

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