73.約束いっぱいだね

 僕の護衛が増えると聞いて、驚いた。僕は狙われないと思うんだけど。ただの人の子だし、鱗も綺麗な瞳も持ってないよ。不思議だけど、アスティが「その方が安心できる」と言うから、僕は頷いた。


 アスティが安心できるならいいよ。ルビアとサフィー以外に誰が来るのかな。ヒスイと仲良くなれる人がいいけど。


「あ、ボリスだ」


「お久しぶりですな、番様」


 走って抱き付く。もこっと大きな腕の筋肉が動いて、僕を持ち上げた。脇のところに手を入れて、ぐいっと一回でだよ? 足がつかない高さまで来て、肩に座らせてくれた。首に手を回して、ボリスの黒い髪に抱き付く。


「僕の新しい護衛さんなの?」


「ええ。女王陛下のご命令ですが、そうでなくても番様を守りますぞ」


「ありがとう」


 ヒスイは少し離れたところで足を止めた。けど、すぐに気づいたボリスが手招きする。魔法を使って浮かせたヒスイも肩に乗せたボリスは、そのまま部屋の中を往復した。


「すごい! 力持ちだ!」


「うわぁ!」


 ヒスイと一緒にはしゃいで、その後ベッドの上にぽんと放り投げてもらった。バネが効いたベッドで飛び跳ねて、またボリスに抱き付く。


「もいっかい投げて!」


「よし、ヒスイも来い」


 いつもより乱暴な口調でヒスイも捕まえたボリスが、僕達を持ち上げてベッドに落とす。すごく楽しくて面白くて、夢中になってたら侍女の人が悲鳴をあげた。


「きゃぁああ! なんてこと! 将軍閣下、お控えくださいませ」


「なんの、これくらいは男児の遊びとして当然だ」


「番様は竜族ではありません」


 侍女の人が叱る声を出して、ボリスはしょんぼりした。可哀想だから撫でたら、ヒスイも恐々手を伸ばして撫でる。顔を見合わせて笑い、叱られたボリスと一緒にシーツを直した。


 侍女の人も混ざって、4人でそれぞれに引っ張るの。それから余った部分を中に押し込んで終わり。お仕事が終わったアスティに教えてあげよう。


「さて、番様とヒスイに頼みがあります」


「うん」


「何でしょう」


 並んで絨毯に座った僕達に、ボリスは約束を口にした。


「勝手に外へ出ないこと。知らない人に呼ばれてもついて行かない。怖い目に遭ったら、これを握って助けを呼んでください」


 助けを呼ぶ? 危険なことがあるみたい。僕やヒスイはまだ子どもだから、難しい話はしないんだよね。


 手の上に置かれたのは、鎖がついた鱗だった。僕のは銀と黒、ヒスイは黒の鱗が付いてる。首に掛けたらぴったりだった。


「絶対に離さないでください」


「うん。約束いっぱいだね」


 にこにこ笑いながら頷いたら、ボリスは困ったような顔をした。でもすぐに笑って頷く。僕はアスティがいるお屋敷から、勝手に出たりしないのに。


 最近、アスティやボリス、サフィーやルビアも。皆が怖い顔をしてる。理由は分からないけど、僕も少し怖い。


「大丈夫ですよ、カイ様は女王陛下の番なのですから」


 ヒスイが僕を優しく抱き締めた。なんだか嬉しくなって、僕もぎゅっとした。お部屋に入ってきたアスティが固まってたけど、走っていって僕はアスティに抱き付く。


「おかえり、アスティ」


 すぐに笑ってくれたアスティとご飯を食べてお風呂に入る。いつもと同じだよね。何も変わらないといいな。

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