27.王様より偉いのがアスティ
本当に、この人誰だろう。僕が首を動かしたことで、アスティが視線を向けた。怒った顔をしてたのに、もう優しい目になってる。いつも怒られてきた僕を嫌ったり、罵ったり、叩いたりしない。アスティに聞いても怒られないよね?
「この人、だぁれ?」
指さしたらいけないから、目を向けた。でも僕の目の上にアスティが手を翳した。これじゃ見えないよ。でもいい匂いがするし、アスティだから怖くない。
「この国の王様だよ」
僕はアスティに聞いたんだけど、おじさんが答えた。王様って偉い人?
「一応、国王よ。すぐに首を挿げ替えるから安心してね」
「挿げ替えるって、何するの? 痛いこと?」
怖いことだったらどうしよう。心配になる僕をぎゅっと抱き締め、アスティがしっしとおじさんを手で追い払った。
「私の優しい番に感謝なさい」
「……物騒だね。仕方ない、今日は退散するとしよう」
おじさんは「さようなら、またね」と挨拶して背を向けた。大きな背中で、周囲の人が頭を下げて見送る。偉い人なんだ。僕は失礼な子だと言われてたけど、あのおじさんは怒らなかったな。
「何を考えてるの?」
「うんとね、僕は人前に出せない恥ずかしくて失礼な子だって、言われたの。でもおじさんは偉い人みたいなのに、怒らなかったから」
「こんなに可愛いカイを恥ずかしいわけがないわ。失礼も問題ないわよ。竜女王である私が頭を下げる王なんていないの。番であるカイも同じよ」
アスティは難しいことをいっぱい言う。僕が理解できないと気づいて、ゆっくり簡単な言葉で説明してくれた。アスティが一番偉くて、僕はその次だから、誰かに頭を下げなくていいんだって。僕が偉い部分は分からないけど、頭を下げないのは覚えておくね。
僕がちゃんとしないと、一緒にいるアスティが恥ずかしいもの。アスティは僕の宝物だから、嫌な思いをして欲しくない。ぎゅっと抱っこして、アスティがお金を払って店を出た。
ふらふらと歩く先で、今度はきらきらした飾りを売ってる店を見つける。白に虹色が入った貝殻を磨いて、吊るしてあった。風が吹いて揺れるとカランと音がする。初めて見た。
「今日の記念に買いましょうか」
お金がない僕に、アスティがお金を払って買う。いいのかな、僕は何もかも貰ってばかり。何も返せないから、アスティが欲しいと言ったら手でも足でも差し出そう。痛くても我慢できる。覚悟を決めて、ぐっと拳を握った。
そんな僕に飾りが入った箱を見せて、アスティが笑う。手を繋いで歩きながら、お店が途切れるまであちこちに寄った。ぐるりと回って、今度は砂浜を歩いて戻るの。お土産を買ったアスティが楽しそうで、僕も嬉しくなった。
海は明るい青じゃなく、赤い色が反射してる。お空も赤くなった。朝の海が青かったのは、お空の色なのかな? 夜は真っ黒になるのかも。そう思ったら、明るい色の海が少し怖く感じた。
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