16.竜族は大きいドラゴンで、僕はなれない?
びっくりするくらい大きかった。山みたいな大きさのドラゴンは、すべすべの鱗がびっしり生えている。
「すごいねぇ、大きい」
声を出した僕に、ドラゴンは胸を反らして誇らしげにする。こんな立派な生き物、初めて見た。そう言ったら、隣で手を繋いだアスティが「私も大きいのよ」と笑った。
「アスティも?」
「そうよ、このドラゴンは雄だから私より少し大きいわね」
アスティも大きいドラゴンになれるの? 僕も成長したら、ドラゴンになれるかな。どきどきしながら尋ねたら、それは無理だと教えてもらった。
「竜族じゃないとドラゴンになれないの。カイは人族でしょう?」
「僕、人じゃないよ」
人じゃない化け物なの。そう説明したら、眉を寄せて抱っこされた。抱き上げられると目の前にアスティの顔があって、距離が近いから嬉しくなる。お母さん以外、誰も僕に近づいたりしなかったから。
目の前のドラゴンがすっと消えて、男の人になった。アスティより背が高くて、首まできっちりしまった服を着ている。今日の僕は青いお洋服なの。短い紺のズボンは膝が出てて、薄い青のシャツを着たんだよ。リボンもつけてもらった。
「初めてお目にかかります。この国の将軍職を預かるボリスと申します。竜族の国ドラゴニアへようこそ、番様」
「カイです」
ぺこりと頭を下げたら、大きな手で撫でられた。近づいてきた時は大きいからびくっとしたけど、怖くない人だった。少し笑ったら可愛いと褒める。いい人なのかな。肌は日に焼けて黒っぽい色で艶があって、髪は真っ黒だった。僕と似てる。でも目の色は青だった。
「そういえば、人族に赤い瞳って珍しいわね。とっても綺麗よ」
「お父さんの色なの」
アスティは優しい。汚いとか化け物って言わない。だから教えても平気だよね。お父さんは背中に羽があって、頭にツノがあったの。体が大きくて、硬かった。お母さんのことを大好きで、お母さんを助けて死んじゃったんだって。
お母さんに教えてもらった話をぽつりぽつりと聞かせる。アスティは黙って聞いた後、にっこり笑った。やっぱり怒ったりしなかったと安心する。
「分かったわ。カイのお父さんは魔族ね、お母さんは人族。だからカイは両方の特徴を持っているのよ」
それは素晴らしいことだと言われた。種族が違う者が惹かれ合って結婚する、二人の間に子が生まれる。それは最高の出来事と聞いて、少し混乱した。だって、皆は僕を嫌ったから。
「竜族は他種族との混血も多いのよ。だから気にしないわ。将軍のボリスも魔族の血が入っているの」
「お父さんと同じ?」
「そうよ、同じ魔族の親がいるわ」
魔族は黒い髪が多くて、目の色はいろいろあるみたい。人族は茶色くて肌が白っぽい。ドラゴンは薄い色の髪が多いけど、金や銀、水色や赤もあるの。教えてもらうのは嬉しい。新しいことをいっぱい覚えたら、アスティが喜んでくれるから。
「カイは可愛いのに賢いなんて、最高ね」
「アストリッド様の番がこのように愛らしいとは、なんとも不思議ですな」
「どういう意味よ」
頭の上で話す二人を交互に見て、僕はへにゃりと顔を崩す。すると笑ったと喜ばれた。今の、笑った顔なの? この顔をすると怒られたけど、今はいいの? 頷く二人にもう一度顔をへにゃっとさせて、僕は「ありがとう」と口に出した。
僕の声も顔も嫌われない。アスティと一緒にいられて、すごく幸せだよ。
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