最終章 幸せです!
きっと大丈夫
スプリングによるウィンター急襲。
その一報を受け取った私達は、ウィンターの主力と共に大急ぎで国境地帯へと向かった。するとそこには……。
「ふぉーーーーっふぉっふぉふぉ! やはりウィンターなど恐るるに足らずじゃ! 疫病神に貧乏神め! 我がスプリングに福の神がいる限り、お前達の好きにはさせんのじゃぁあああ!」
「お父様……」
私達が戦地へと辿り着いたとき。
そこには既にスプリングの軍勢が押し寄せ、そしてその軍勢のど真ん中には、なにやら巨大な金色の牢獄に閉じ込められたハッピー様と、その牢獄を満足そうに眺める、完全に〝アレな感じ〟になったヨルゲン王がいた。
「うげっ……! 俺たちを襲ったときもヤベェ奴だと思ったが、こりゃまた随分とヤバさに磨きがかかってやがるな!?」
「ひっどーい! お姫様にあんなことするなんて!」
「あれがスプリングの王……。オレたちの王様が言ってた通り、凄く悪そうな顔してるんだな……!」
「ま、前はもうちょっと普通だったのだが……。一方的に追い出されたとはいえ、あそこまで変わり果ててしまったかつての主君の姿を見るのは色々辛いな……」
「気をつけて下さいエステルさんっ! ハッピー様が捕まってるあの牢……なんだか変です!」
「牢獄が……!?」
険しい山脈を抜けると同時。上空から双方の軍勢を見下ろしながら、ユレルミは櫓から身を乗り出して叫ぶ。すると――。
「ワーッハッハ! さあ我が国の優秀な魔術師達よ! 福の神の力を引き出し、我が軍に無敵の力を与えるのじゃ!」
「あ、ああ……っ!? お父様……お願いですから、もう止めて下さい……っ!」
「なんだあれは!? 牢獄が光ったと思ったら、スプリングの兵士がとんでもなく強くなったぞ!?」
「違うぜエステル! 兵士が強くなったんじゃねぇ! スプリングの奴らの攻撃だけ、〝当たり所〟がむちゃくちゃ良くなったんだ!」
「きっとあの牢獄を使って、福の神の力を無理矢理引き出してるんだ……! 福の神はスプリングで〝豪華な暮らしをしてる〟って聞いてたのに……あんな扱いされてるんじゃ、結局オレと変わらないじゃないかよっ!」
「ヒャーッハッハッハ! 何を言うかハッピーよ!? 疫病神と貧乏神、それにエステルまでもがウィンターに身を寄せたのだ! 儂らに恨みを持つ奴らが一カ所に集まれば、奴らは必ずスプリングに復讐を企てるに違いなかろう!? スプリングの平和を守るため、先にウィンターを滅ぼしてやるのじゃあああ!」
怒濤の勢いでウィンターの軍勢に襲いかかるスプリング軍。
そしてそれを見て狂ったように笑うヨルゲン王と、力を奪われて苦しむハッピー様。それはとてもではないが、黙って見過ごせるような光景ではなかった。
「おのれスプリングの暴君ヨルゲンめッ! 聞こえるかミセリア!? どうじゃ、全て儂が言ったとおりであろう!? 奴らは自らの幸福のためならば、何を踏みにじっても平気な悪魔なのじゃ! 今こそお前の持つ疫病神の力で、スプリングの奴らを皆殺しにしてしまえっ!」
「分かってるよ王様……っ! オレだってスプリングの奴らは大嫌いだっ! 疫病神の力で、アイツら全員不幸に沈めてやるっっ!」
「っ!? 待てミセリア! お前が行かずとも、ここはユレルミに任せ……!」
「嫌だ……っ! オレだって、もうユレルミのこともお前達のこともちゃんと信じてる……。けどもううんざりなんだっ! 幸せだとか不幸だとか……そんな目にも見えないことのために良いように使われるのも……〝使われてる奴〟を見るのもっ!」
「ミセリアさんっ!」
だが私達が動くよりも早く、バラエーナと並行して飛んでいたミセリアがスプリングの陣地へと飛び込む。
「疫病神ミセリアの名において命じる――! スプリングの王ヨルゲン! そして福の神に縋るしか能のない雑魚兵士共っ! お前ら全員……不幸の海に沈めぇええッ!」
「ぬぬぬ!? ついに出おったな疫病神め!? やれ、魔術師達よ! ハッピーから福の神の力を引き出し、疫病神を返り討ちにするのじゃあああああ!」
「あの方が、疫病神……? うっ……ああああ――!?」
「ハッピー様っ! ミセリアさんっ!」
瞬間。ミセリアの体から放出された全力全開の疫病神の力と、ハッピー様から牢獄を経由して引き出された福の神の力が激突する。
福の神の金色の光と、疫病神の漆黒の光。
軍勢の真上でぶつかり合った力は激しく拮抗し、同時に無数の光となって辺り一帯どころか遙か遠くの彼方まで飛び散っていく。
「ワ……わは……ワハハハハハ! やれミセリア! 今こそ我らウィンターの恨み、全世界の恵まれた奴らに思い知らせてやれ! 儂ら以外の全てを、不幸にしてやるのじゃああああ! ゲホ……ゴホゴホッ!」
「ワーッハハハハ! ゴホッ……ゲェホ!? や、やるのじゃハッピーよ! この世で幸福なのは儂らだけで良い! 儂ら以外の奴らがどうなろうとも、儂らさえ幸せならばそれで良いのじゃああああっ! ゴホッ! ゲホゲホ……ッ!」
「あわわ……! こ、これってちょっとマズくない!? なんか周りの人たちもバタバタ倒れてるし、私もなんか気持ちが悪くなってきて……」
「クソっ……! 俺も調子が悪いぜ……! というか、調子が悪いのと良いのが交互に襲って来やがる……! おええ……き、きぼちわる……っ!」
「ジロー!? バラエーナ!? まさかこれは、福の神と疫病神の力の激突のせいで!?」
「そうだと思います……! ミセリアさんもハッピー様も……なにもかも、このままじゃ全部おかしくなっちゃいます……っ!」
眼前で繰り広げられる熾烈な力のぶつかりあい。
しかしそれはすぐに辺りに異変を起こした。
この場にいる全ての兵士たちが次々と倒れ、狂気に陥ったヨルゲン王とボルゲン王も笑ってはいるが大量の汗をかいて今にも倒れそうだ。
よくわからんが、とにかくこのままじゃ絶対にまずい。
だけど――!
「エステルさんっ!」
「ユレルミっ!」
だけど大丈夫。
なぜなら、私達には彼がいる。
どんなに辛い目にあっても。
どんなときでもすっぽんぽんで、お股に葉っぱしかつけていなくても。
それでも優しい心を失わなかった、私の愛するユレルミがいる。
そして――。
「来てくれますか……? これからも、僕と一緒に――!」
「ああっ! たとえ何があろうとも……私はずっと君と一緒だっ!」
「はいっ!」
櫓から伸ばされたユレルミの手を握る。
それと同時に私の鎧や服がするすると勝手に脱げていくが……今さらそんなことを気にする私ではない。
ユレルミと手を繋いだまま、私はバラエーナの背から空へと飛び出す。
彼の体を抱きしめ、万が一にも彼が傷を負ったりしないように庇いながら。
「いきます、エステルさんっ!」
「やれ! ユレルミっ!」
私にユレルミがいるように、ユレルミには私がいる。
だから……私達はきっとこれからも大丈夫。
「貧乏神ユレルミの名において命じる――! この世界から……〝福の神と疫病神の力〟を没収しますっ!」
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