王様に会いました
「ふぉっふぉっふぉ。よくぞ無事に戻ってきた。またお前に助けられてしまったのう、エステルよ」
「有り難きお言葉、感謝します陛下っ! このエステル・バレットストーム、これからもより一層国のため、民のためにこの剣を振るいましょう!」
「うむっ。して、そちらの少年が例の?」
広大かつ煌びやかなホールに穏やかな声が響く。
ひんやりとした床にまっすぐひかれた赤いカーペットの上で、私はユレルミと共に片膝を突き、目の前の玉座に座るご老体……スプリング王国の王である、ヨルゲン・オールスプリング陛下に頭を下げていた。
「初めまして……ユレルミです」
「ほむほむ? 恐ろしい貧乏神と聞いていたが……なんともまっすぐな目をした立派な少年ではないか。その葉っぱもよく似合っておるっ」
「あ……っ。ありがとうございます」
「申し訳ありません陛下。その……彼は貧乏神の力で服を着ることができず……」
「言い伝えに聞く、貧乏神となった者を不幸にする力というやつじゃな? よいよい、すでにその少年の事情は聞き及んでおるっ」
顔を上げた私の前で、陛下は人の良い笑みを浮かべて白いひげをさする。
かつては他の三国と激しく争っていた武人だったらしいが、私が物心ついた頃にはすでに陛下はこんな感じだった。
今では他国に争いをしかけることもなく、我がスプリングは四国で最も平和で繁栄した国になっている。これも全て、陛下の手腕あってこそなのだ!
「ところでエステルよ……大臣の話では彼の他にも仲間がいたと聞いておるのじゃが?」
「はい、元盗賊のへんた……いえ、元盗賊のジロー・ペロペロと、私が改心させたドラゴンのバラエーナは、その出自もありひとまず王都にて待たせてあります」
「そうかそうか。ならば、後ほど民に彼らの功績を伝えるとしよう。バラエーナにしても、あれほどの力を持ったドラゴンが今度は我らの味方になったと聞けば、皆どれほど心強いことか」
「はっ。陛下の寛大なるお心に感謝します!」
陛下のそのお言葉に、私は再び深々と頭を下げる。
バラエーナは元より、なんとあの変態ジローも大陸中に指名手配される程の大盗賊の親分だったのだ。
バラエーナと違ってジローの前科は完全にノーマークだったため、念のためバラエーナの保護者として外に残してきたというわけだ。
「では貧乏神の少年……ユレルミよ。エステルから話は聞いていると思うのじゃが……儂は今回の君の働きに褒美を取らせようと思っておる。なにか望むことはあるか? なんでも言ってみるが良い」
「ありがとうございます。でも、僕は……」
「恐れながら陛下……既に陛下も聞き及んでいる通り、ユレルミの持つ伝説のスキル〝貧乏神〟は、その力を持つ者に〝一切の所有を禁じる〟という恐るべき力があるのです。ユレルミはそのせいで服を着ることもできず、日々の食事や水にすら困っていました」
「そうなんです……だから、僕はなにも……」
「ふぉっふぉっふぉ。そう案ずるな二人とも。さっきも言ったであろう? 儂はとうに君の話を聞いていたのじゃ。そして国中の知恵者の力を借り、〝貧乏神の力を無力化〟する方法を見出したっ」
「……!? 貧乏神の力を無力化!? 陛下、それは本当ですか!?」
「本当じゃともっ。というかの、とっくのとうに貧乏神の力は抑えられておるはずじゃ。この王都に入った辺りからのう」
「な!?」
驚く私に向かい、わっははと笑ってみせる陛下。
私は一度陛下に礼をして立ち上がると、すぐさまユレルミの傍に駆けよって手を差し出してみる。すると――。
「本当だ……! 私の魔力完全遮断が、反応しない……!?」
「これ……。エステルさん……僕……っ」
「道理で今日はまだ一度もユレルミの葉っぱが取れていないわけだ……! それにここまで来る間にも、誰も貧乏神の力で物を落としたりもしていなかった……!!!!! い、いやいやいやいや、待て待て待て……ッ! この程度では、まだ本当に貧乏神の力が無力化されているのかどうかわからない、もっと思いっきりくっついてみよう……っ!」
「はふ……っ」
ふおおおおおおおおおおおおお!?
これはこれはこれはあああああ!?
服越しでもわかる、ユレルミの滑らかな肌と暖かさ。
そして一定のリズムで脈打つ小さな鼓動……。
いつもはスキルの力を全開にしていてそれどころではないのだが……こうして肌に触れる感触だけに意識を集中して、ユレルミと抱きしめ合うのは……ま、まさに……その……あ~……だめだ……のーみそとろけそう……ふわぁ……――?
「う、うほんおほんっ! よ、涎を拭くのじゃエステルよっ! 我が国の筆頭騎士ともあろうものが、絶対に〝人に見せてはいかん顔〟になっておるぞ!?」
「はうあっ!? わ、私としたことが……ッ!?」
「はわわ……エステルさぁん……っ。エステルさんの体……あったかいです……」
だが、そんな初めての体験に夢見心地だったのは私だけではなかった。
陛下に咎められて離れはしたものの、私と同じくユレルミも瞳を潤ませて頬を染め、どこか名残惜しそうに私のことをじっと見つめてくれていたのだ……!
あ、ああ……ッ!
二人っきりであったなら、今すぐさっきの続きがしたい……っ!
「ど、どうじゃ二人とも? これでよくわかったじゃろう? 貧乏神の力は、少なくともこの王都にいる限りは抑えることができるのじゃっ!」
「素晴らしいです陛下ッッ! ですが、一体どうやって貧乏神の力を抑え込んでいるのです?」
「――それは私の持つスキル……〝福の神〟の力によるものです」
「っ……!」
「おおっ! ようやく来たな。待っていたぞ」
その時、謁見の間に聞き覚えのある華やかな声が響いた。
「ごきげんよう皆様……。そして初めまして、貧乏神のユレルミ様。私はハッピー・オールスプリング。福の神のスキルを持つ、この国の王女です」
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