ドラゴン退治ですか?


「そうか……それで君はパーティーから追放され、故郷にも戻れず、ずっと一人で生きてきたのだな……」


「はい……。貧乏神の僕がそばにいると、皆さんに迷惑がかかるので……」


 あれからさらに一時間ほど後。

 手早く野営の準備を終えた私は、ユレルミと焚き火を囲んで夕食を取っていた。


 貧乏神の力は今も常に私に襲いかかってはいるが、2~3メートルも離れればそれなりに耐えられることも分かった。


「こうして食事をするのはいいのか?」


「すぐに食べちゃえば大丈夫です。でも、持ち歩いたりはできません……」


「それでよく今まで生きてこられたな……きっと大変だっただろう」


「そう、ですね……。えへへ……」


 そう言うと、小さな手に焼き魚を持ったままのユレルミは、また頬を染めてもじもじと身をよじる。


「だ、だからなぜそこで照れるのだ!? 君だって、今までずっと辛い目にあってきたのだろう?」


「それはそうです……。でも、こうしてエステルさんみたいな〝素敵な騎士様〟とお話しできているので……。だから僕、今はとっても幸せなんです……」


「はうっ!?」


「……?」


 瞬間、私はとっさに胸を押さえ、高鳴る鼓動と荒い呼吸をなんとか鎮める。


 あ、危ない……! 

 危うく唐突な心臓発作で死ぬところだったッ!


 ユレルミが何気なく口にしたその言葉。

 そしてどこか憂いを秘めた、小さな幸せを噛みしめるような笑み。

 それは私の心を一瞬で撃ち抜き、意識を刈り取るのに十分な威力だったのだ。


 なんという顔で笑うのだこの子は……!?

 あまりにも……あまりにも尊すぎるだろう!?


 貧乏神の力だけじゃない。

 すっぽんぽんだからというわけでもない。


 容姿や表情、気性や考え方、立ち居振る舞いから仕草まで。


 とにかくこの子の様々な部分が、私のなんか色々なところにクリティカルヒットしている気がする……! 

 今からこんな状態で、私は本当に使命を遂行できるのか!?

 

「でも、エステルさんは僕のことを探しに来てくれたんですよね……? 王国の騎士様が、どうして僕みたいな貧乏神を……」


「う、うむ……っ。そうだな……それについてなんだが……。実は〝邪悪なドラゴン〟が国を荒らし回って困っているのだ」


「悪いドラゴンさん?」


「そうだ。そのドラゴンは人々から財宝を奪う。金や銀……高価な宝石とかだ。そして厄介なことに、そのドラゴンは溜め込んだ財宝の量に応じて力を増してしまうのだ」


「ええっ? 宝物を集めるほど強くなるんですか?」


「ふざけた話だろう? 並のドラゴンなら私の敵ではないのだが……奴はそれなりに知恵が回る。最初は少しずつ宝を集め、財宝と力を十分に集めてから一気に暴れ始めたのだ。もはや、国内で奴に太刀打ち出来る者はほとんどいない」


「そんなことになっていたんですね……」


 私の話を聞き、ユレルミは物憂げにうつむく。


「まあ、それでも私が〝死力を尽くせば〟倒せないことはないだろう。実際、もし君が見つからなければそうするつもりだったからな」


「エステルさんが?」


「ああ。だが私もまだ死にたくはないのでなっ! 国王陛下も、ドラゴンなどを相手に筆頭騎士の私が死んだら困ると言ってくれたのだ。そして、もし貧乏神の力が言い伝え通りならそのドラゴンにとっては天敵だ。私が命を賭ける必要もなくなるだろうとな」


「じゃあ、僕は悪いドラゴンさんが集めた宝物を、貧乏神の力で没収すればいいんですね? それなら、きっとお役に立てると思います」


「私も君の力は身に染みてよくわかった。君が私に力を貸してくれれば、きっとあのドラゴンも簡単に倒せるはずだっ!」


 そう言って立ち上がり、グッと拳を突き出した私に、ユレルミはニコニコと暖かな笑みを向けてくれた。


 ん……やはりどんなに尊くとも、彼にはこんな笑顔の方がずっと良いな。


「だからどうだろう。国王陛下もドラゴン討伐の暁には君が望む褒美を取らせると言っていた。改めて、私に力を貸して貰えないだろうか?」


「……わかりました。こんな僕の力が皆さんのお役に立てるのなら……好きなように使って下さい」


「ありがとうっ! 君が私と共に邪悪なドラゴンを倒したと知れば、国の者もきっと君の力をどうにかする術を考えてくれるはずだ。いや……きっとそうしてみせるっ! 一緒にがんばろう、ユレルミっ!」


「はい……エステルさんっ」

 

 貧乏神の少年……ユレルミくん。

 そして私……王国の騎士、エステル・バレットストーム。 


 こうして出会った私たちは、ドラゴンが住むという山を目指して旅立つことになったのだった――。



 

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