アンデットヒーロー ~最強の勇者の肉体に、魂だけ転移させられたのですが、最強の勇者は死んだままなので不死身だった!最強で不死身の英雄となって異世界を救う!~
@waita
プロローグ
プロローグ
僕は平凡だ。
朝に遅刻しない様に家を出て、普通に授業を受けて、放課後に演劇部の部活をし、そして帰る。
そんな、何ごともない高校生活を送っている。
きっとこのまま何事もない人生を送るのだろう。
でもそれでいいのだ。
でもそれがいいのだ。
そういう人生こそ素晴らしいのだ。
だから僕の人生の中で、急にトラックに轢かれるなんていう予定はなかったのだ。
けたたましく鳴り響くクラクション。
そんなに鳴らされても、もう避けれないところまで来ているのに、なんて意味のないことをするのだろう。
♦
目に入るのは白だった。
病院かとも思ったが、浮いているような感覚でわかる。
きっと天国なのだろう。
そんなもの信じていなかったのに、いざ来てみると、信じてしまう自分を笑ってしまう。
不思議と体は動くようだ。
立ち上がると……と言っても地面などないのだけど。
立ち上がって、辺りを見回すと、美しい女性が目に映った。
ここが天国なら、彼女は女神なのだろう。
声をかけようか悩んでいると、向こうから話しかけてきた。
「目が覚めましたか」
随分と美しい声だ。女神だからなのだろうか?
「ここはどこですか?」
先ほど天国と決めつけたばかりだが、一応質問をしてみる。
「あなたが思っているようなところでしょう」
心が読めるのか、鎌をかけているだけなのか、わからないような返答だ。
それならば直接聞いてしまえばいい。
「天国という事ですか?」
「そうかもしれませんね」
はっきりとした答えを返してくる気はないようだ。
「何故、僕はここに呼ばれたのですか?」
これまた確信をついた質問だ。
理由があって呼ばれたのかもしれないし、死んだ人間は全員呼ばれているのかもしれない。
「それは、私があなたを選んだからですね」
僕は平凡な人間だ。選ばれるような、特別な事はしていないと思うのだが。
「不思議そうな顔をしていますね」
「何に選ばれたのか、わかりませんので」
それは当然の返答だろう。
その言葉に女神は、何が可笑しいのか、にっこりと微笑みを浮かべる。
「そうでしたね。あなたには異世界に行ってもらいます」
……異世界転生なんてあるのだな。もしかしたらトラックに轢かれたけど、生きていて、頭がおかしくなっているのかもしれない。病院にいる僕は、体も動かせずに、この夢を見ているのだ。
「嫌なのですか?」
「嫌ではありませんが……」
頭がいかれてしまった、という心配をしても仕方がないだろう。どちらにしろ、見たものを現実として捉えるしかないのだ。
「異世界で何をすればいいのですか?」
女神に、こんなに質問責めをしてもいいのだろうか?
そんなことを考えているのだが、女神は益々笑みを深めたような気がした。
「今、異世界では、人間が魔族によって滅びかけています。その人間を救って欲しいのです」
ありがちな理由、ありがちな内容だ。
「僕に出来るのでしょうか?」
「あなたには、最強の勇者の体へと転生してもらいます」
なんだか急に"きな臭い"話になってきた。
別に、自分の肉体に未練があるわけではないが……って、自分の肉体は、もうトラックにひき肉にされてしまっているのかもしれないのだが。自分の肉体を再生してくれるわけではないようだ。
「その、最強の勇者というのは、どうして、異世界を救わないのですか?」
口に出して、しまった思った。これもまた、質問だったからだ。
だが、やはり女神はニコニコとしている。
「出来ないからですね」
「出来ない?」
つまり、勇者でも出来ないことを、僕にやれと言うのか。
「勘違いをなさっているようですが」
また、まるで心を見透かされたようだ。
「勇者が世界を救えない理由は、単純ですよ」
「と、言いますと?」
「勇者は既に死んでいるからです」
なんということだ。つまり、死んだ勇者の体に転生しろというわけだ。
それは、転生ではなく、魂を転移しているだけではないか?と思ったが、口には出さなかった。これも質問だからだ。
別に質問をしてはいけないわけではないが、女神に質問責めをするのは、良くないと思う。そう思ったのだが――。
「他に何か聞きたいことはありますか?」
別に聞いてもいいらしい。
「僕を選んだ理由を聞いていませんでした」
女神は微笑んでいる。今までと同じように。
「それは、その性格が気に入ったからです」
そんなに特徴的な性格をしているだろうか?普通で、平凡な性格だと思うのだけれど。
「他にはありますか?」
「最強の勇者は、何故死んだのですか?」
とても大事な事だろう。
「最強の勇者も所詮は人でした。病に倒れて死んでしまったのです」
最強なのに負けたわけではないようだ。良かったと思う。
「そろそろいいですね」
まだ、聞きたいことはたくさんあるのだが、もう、何も教えてくれなさそうだ。
「それでは――」
意識が遠のく――。
「いってらっしゃい。楽しみにしていますよ」
そして、僕は意識を失った。
♦
次に、目を開いた時には、暗闇だった。
いったいどこかもわからない。
だが、匂いがする。
土の匂いだ。
ここは土の中だ。
良くもわからないまま、もがく。
もがく。
もがく。
そして、"ぼこり"と地上に手が出た。
それを起点にして、地上へと這いずり出でた。
まずは、自分の肉体を見る。
傷だらけだ。歴戦の戦士なのだろう。
そして、これは、きっと若い男性の体だろう。
だが、なにかがおかしい。
なにか違和感がある。
肉体自体は変ではない。
「あ、あああ」
声もちゃんと出る。
この肉体が入っていたのは――墓だろう。
自分の入っていた墓と、誰のものかわからない墓が並んでいる。
親しい人間だったのだろうか?家族とか。
死んだ肉体なのだが、肉肉しい体で良かった。腐ったりはしていないのは助かる。
そこで違和感の正体に気づいてしまった。
心臓が動いてないのではないだろうか?
手を当てるが、間違いなく、動いていない。
脈もない。
この体は"死んでいる"。
蘇生に失敗したのか、それとも最初から"こう"だったのだろうか?
だが、死んでいるものは"仕方がない"だろう。
それでも喋れるし、目も見える。
音も聞こえるし、匂いも嗅げる。
それならばいいのではないだろうか?
ふと、辺りを見渡すと瓦礫の山だ。
ここはどこなのかもわからない。
僕はあてもなく歩き出した。
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