第6話 新人アドバイザーの笑顔

 救護室の入口前で僕はレピティの容態の結果を待っていると、セイラさんが部屋の中から現れた。


「セイラさん! レピティの容態はどうですか」


「一先ず安心と言ったところかしらね。どうやら肩のあたりの傷から毒が検出されたみたいで、レピティずっと我慢してたみたいね」


「どうしてそんなことを」


「あの子初仕事だったから、気合入っていたみたいね。クエストに行くときも裏で絶対に完璧にグラス君をギルドに送り届けるって意気込んでたもの」


「成程、そんなことがあったのですね」


 レピティがクエストの事をそんなにも大切に考えてくれていたとは……それに比べて僕は……。


「少し自分は初級クエストというものを軽く見過ぎてたかもしれません」


「そうね、どんなクエストでも、常に全力で取り組むのが冒険者というものよ」


「心に留めます」


 どんなことにも常に全力でぶつかる、僕の冒険者としての意識が更に上がった。


 それにひとまずレピティの身の安全は保障されて良かった。


「そうそう、エイマがグラス君に話があるって言ってたわよ。今回の件について色々聞きたいとか」


「分かりました」




 エイマさんはギルドの支部長で普段は執務室でくつろいでいるそうだ。僕は早速執務室を訪れてエイマさんと話すことになった。


「ふむふむ、クエスト中にシュレッタ王国の冒険者狩りが」


「はい、ランクFの薬草採取クエストなのに、いきなり王国の冒険者狩りが襲ってきたので驚きましたよ」


「お主よく生きてられたな、冒険者狩りは噂では王国軍兵士長レベル、クエストで言えばランクBの精鋭クラスの実力だとか」


「そりゃあまあ、いろいろありましてね……」


「ふむ、しかし我々の管轄内にも王国の者が立ち入るのはどう考えても異常事態と言える。何か異変があったのかもしれないな」


 そうかシュレッタ王国にとって冒険者ギルドは資源を取り合う相手のようなもの、確か協定で管轄を決めていた気がしたな。それにしても……。


「異変ですか」


「うむ、詳しい調査はこちらで行うがより用心が必要になってきそうだな……」


「成程分かりました」


 確か冒険者狩りの奴も緊急の案件で管轄内に入ったって言ってたな。一体異変とは何が起きているんだろうか。


「エイマ入るねえ、あ、やっぱりグラス君ここにいた」


 セイラさんが執務室に慌てた様子で入ってきた。これはもしかして……。


「グラス君! レピティの容態がよくなったよ! 早速会いに行ってあげな」


「本当ですか! 直ぐに向かいます」


 セイラさんの報告を受け直ぐに救護室に向かう、高揚感で心拍数がみるみる内に上がっているのが実感できた。




「……っ」


 遂にたどり着いた救護室への扉、緊張感が張り詰める中恐る恐る手をドアノブに掛けドアを開けるのだった。


「グラスさん……」


 何でだろうレピティに会ったのはそんなに久しぶりでもないのに、心の高ぶりが止まらなかった。しかも普段よりその姿が輝いて見える。もう駄目かと思ったのに。

 

「よかった容態がよくなったんだね」

 

「おかげ様で凄く身体がよくなりました、これも真っ先に応急処置をしてくれたグラスさんのお陰です」


「そうか、それならよかった」


――――何を話せばいいのだろう、そんなことを考えながら気が付けば淡々と沈黙の時間が経過していった。そんな中最初に口を開いたのは僕ではなくレピティの方からだった。


「私ですね、色々考えてたんです。一緒に冒険したいと思う仲間が欲しいって」


「奇遇だな、僕もそう思ってたんだよ」


「それで、グラスさんの戦いを見ていて私は思いました。これは運命の出会いじゃないかって」


「運命の出会いってそんな……やめてくれよ大げさな」


「いいえ、大げさではありません。あの時の魔力の輝き、真っ先に私は虜になりました」


「ちょ、いきなりどうしたんだレピティ……」


 レピティが突然顔を近づけてきたため、思わず僕は動揺してしまう。


「あの……お願いがあるんですが」

  

「な、なんだ……どんどん言ってくれ」


「ご主人様って呼んでもいいですか」


「な……何だってえ?」


 僕は嬉しさと高揚感のあまりおかしな声を発してしまった。一つ言えるのはレピティの笑顔が眩しすぎてそれだけで心が満ち足りてしまったと言う事だった。


 こんな気持ちがずっと続けばいいのに、そんな充実感に満たされながら返事をするのだった。


「ご、ごめんちょっと動揺しちゃった。どんどん呼んでくれ!」


 その日は僕にとってレピティという大切な心を許せる仲間が出来た大切なものとなった。

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