春を分けてあげる

❁⃘

　今日は君に誕生日ケーキをあげよう。

　何でもない日だけど今日、食べさせてあげたいんだ。

　苺のショートケーキが良いかな。チョコレートがぎっしり詰まったホールケーキにしようか。意外と、大人びたチーズケーキが好きなのかも。

　君はケーキを知らないから何でも良いって言うだろうけど、やっぱり君には喜んで欲しいから。

　ベッドの上に座って、窓の外を見つめる。君の視線の先にはもう青くなった桜の木がある。

｢また来年もあの桜に会いたい｣

　ぽつりと呟いて涙を流す君に、誕生日ケーキをあげよう。

　初めて見る自分の為のケーキに目を輝かせる。体に悪そうだ、食べ切れないよと笑う。そんな君にバースデーソングを歌おう。

　それから、プレゼントを渡さなきゃ。

　桜が見えるように毎朝カーテンを開けるよ。それでも寂しくなったらここを抜け出そう。車輪が付いたその椅子を押して桜の元に連れて行ってあげる。針が刺さって動けない君の代わりに花弁を拾って、押し花にしようか。

　この春をぎゅっと閉じ込めて、二人で分けよう。

　甘ったるいケーキに君が蝕まれても。二人で生きた証をここに残そう。

　君がきっと桜になる前に、春を分けてあげる。