第27話 運命

山を越えるのに、そう長い時間はかからなかった。


しかしやはり、山頂辺りから見えた滝の形相には背筋か凍った。


「・・・・でも、行くかぁ。」


不思議と、行かない気にはならなかった。



滝に着いた。

ここに着く前から音はしていたが、実際見てみると肝が縮む。


「や、やべぇ、なぁ。」


目の前に大きく構えた、俺なんか気にも留めていない大きな水の壁。


この強さ恐ろしさを、俺はきっと誰よりも知っている。



「・・・ちょっと、この辺で一休みするか。」


昼飯にしよう。

昼食は魔女から貰った。

なんだかんんだで面倒見良いんだよな。あいつ。


滝のそばにあった良さげな岩に腰を掛ける。

体と大体同じぐらいの大きさだ。

注ぎ落ちる水流の音、風に吹かれる森の音が、心を澄ませてくれた。


昼食を取ったら、なんだか急に眠くなってきた。

最近大して眠れてなかったし、それのせいだろうか。

眠れそうな場所を探しに行こうかと思った。

が、思いのほか眠気が強く、それに、今動いてまだ眠れなくなるのは嫌だったこともあり、岩に背中を預けて気を休める。


久しぶりだ。

こんなに落ち着いていられるなんて。

四六時中何かを考えて、侵されないように気を張り続けて、そのくせ大した休みは取れないし。


あぁ、疲れてたんだなぁ。

俺が思うより、ずっと。


「俺じゃなかったら、死んでたりして・・・ははっ・・・。」


落ちるように眠りについた。





「・・・・・・ん・・」


結構寝たな。

空は橙色に輝いている。


「夕焼けなんて、久しぶりに見たなぁ。」


霧にいた時に夕日を見たことは無かった。

毎日同じような光景だった。

やることも毎日同じだった。

強いて言うなら、食事は自分で選べた。

といっても数日のペースでループしていたが。


「・・・なんか最近俺、同じこと繰り返してねえか?」


考えてみればそうだ。

起きたら食事を取って、鍛錬をして、また食事を取って寝る。

これを何度も繰り返した。


いつになってもできる気がしないし、微かな成長も感じない。

本当に、何の成長もなかったと思う。

諦めなければどうとかいう奴もいるが、変わらないものは変わらない。


1+0は何回繰り返したところで=1な訳で、それが変わることはない。



「・・・日も暮れてきたし、そろそろ、、帰るか。」


来た道を帰る。

滝の音が耳に馴染んだから、その音が無くなって、無音の森の世界に踏みしめる葉の音と、時折聞こえるなんやらが、より鮮明に耳に入る。


なんやらが何かは分からない。

変な音・・・という訳でもないが、不思議、、というか、むず痒いというか、、そんな感じだ。


「何か気持ち悪いな。

早く帰ろう。」


そう言って立ち去ろうとした時だった。


懐かしいような、恋しいような声がした。


リーノア

「ちょーっと待ってくださーい!!」




「、、、、、え、、、、いや、、、え?」




本当に思考が停止した。

何が起きているのか

なんでここにこの人がいるのか。

分からなすぎる。

俺は追放されたはずなのに。

どうして。


リーノア

「ふう!

間にあって良かったです!

これだけ探しても全然見つからないんだから、本当に苦労しましたよ。


でも、今はそれより

お久しぶりです!

■■■■■さん!」


「、、、あ、、え、、っど、どうしてここに?」


リーノア

「まずは挨拶からですよ!

接客の基本です!」


「あ、ああ、久しぶり、、、」


リーノア

「あはは!

やっぱり固まっちゃってますね!

こんな良いお客さんを見逃すわけないじゃないですか!

これでも一応、商売人ですからね!」


「な、、なんでここが、、?」


リーノア

「エルフですから。

いろいろできるんですよ。

いろいろ。」


「え、、、っと、、その『いろいろ』について聞きたいんだけど・・・」


リーノア

「それはそうですよね。

でも、少し長くなっちゃうんですよ。

それより先に、ここから出ませんか?

暗いところは好きじゃないので・・・。」


「あ、ああ、そうだな、、。」


まだ状況は飲み込めない。

でも、リーノアさんが隣にいる。



「まさか、もう一度会うとは思わなかったよ。」


リーノア

「かもしれませんね。

私が勝手に探し続けていただけなので。」


「な、なんかごめん、」


リーノア

「いえいえ、気にしないでください。

本当に私が一方的に探していただけなんですよ。」


「な、なんで?」


思い当たる節がない


リーノア

「・・・これも長くなるんですけど、実はあのお宿、私が働き始めてから今まで、貴方以外誰も来たことがないんですよ。」


「え?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る