とれない

とれない

　気が付いてしまったの。

あなたの部屋に来て随分経つのだけれど、全然気づかなかった。

逆にこんなに目立つのにどうして気づかなかったのか不思議なくらい。

あんなのあったかしら。

ねぇ、あれ、何？

あなた気づいてないの？

あれよ。

あれ。

わからない？

教えてあげる。

ほら、この部屋のすみっこわかる？

床についているものよ。なにかしら。

透明なシールみたいなのが貼ってあるのが見えない？

待ってて、傍でよく見てくる。

わかったわ、お惣菜を止めるテープを適当に剥がして床に捨てたんでしょ。

ふふふ、あなたならやりそうよね。

え？違う？そんなことしない？

じゃあなにかしら。

あ、よく見たらやっぱりテープじゃない。

ほら、普通のテープ。

あれ？

透明なテープに”ダメ”って書いてある。

なにこれ？

何がダメなの？ほんとに何に貼られてたテープなの？

剥がしていい？

そのままでいい？

どうして？気になるでしょ？ベトベトになったら嫌だし。

というか、何に貼られてたシールか気になるわ。

剥がすわね。

・・・・全然とれない、すごくくっついてるわ・・・

ねぇ、とれないんだけど。

定規か何かでこすってみるから、持ってきて。

ありがと。すごく頑固だわこれ。

ほんとにとれない・・・。

あ、見て、半分くらいとれたわ・・・

あと残りはんぶ・・・ねぇ。

何持ってるの？ちょっと何・・・・

・・・グぇッ！！

「そのダメはね、振り返ったらダメの意味なんだよ。

取れないのはね、取れたら困るから取れないんだよ。わかった？」

僕は真っ赤な血だまりで動かなくなった彼女に説明してあげた。

そしてバケツに水を汲んで雑巾をもって来て、

後ろで動かなくなっている彼女を後目に、床を拭き始める。

後でこのバットも拭かないと。

「あぁ、もう全然とれない・・・とれないなぁ」

おしまい