第26話 Best friends
陽一が直人の家で暮らすようになってから2度目の春を迎えようとしていた。
「今年は、少し遅かったですね」
「まだ肌寒い日があるもんね」
直人の家の裏庭には彼の母親が植えた桜の木があり、直人は毎年開花した桜を絵に残すのだ。
「過去の桜の絵を見せて貰ったけど、直の言った通り毎年違う精霊が来るんだね」
「そうなんです。面白いですよね」
「精霊達も毎年違う町で花見がしたいのかな?」
「あ、それ良いですね。そうですよ、きっと」
「あ、もうこんな時間だ。僕はそろそろ、準備を始めるね」
縁側で腰掛け、直人が桜の木をデッサンする姿を見ていた陽一は立ち上がった。
「陽さん」
「ん?」
「あの・・ 本当に良いんですか? 今日その ・・僕の事を桜井先輩達に話して」
「隠してる方が嫌だから。それに、卒業式の日に本命と長く続いたら話すって約束したしね。どうして? 誰かと付き合ったら友達に言うよね?」
「彼女とかだったら言いますけど ・・僕、彼氏だし」
「俺は、何も後ろめたい事をしてるって思ってないよ。直は俺といて恥ずかしいの?」
「いえ! そんな事絶対にありません」
「だったら、俺も同じだよ。それに夾と徳ちゃんなら大丈夫」
「陽さん」
「皆、俺の料理楽しみにしてるから、頑張って作りまーす!」
「早く仕上げて、手伝います」
「ゆっくり描いてていいよ」
陽一は、手にしていたエプロンを見に着けるとキッチンに向った。
今日、直人の家に陸達を招いて花見をするのだ。陸は家が近いため何度か食事に訪れていたが、夾と徳田は初めてだった。
昼を過ぎた頃、インターフォンの音が家中に木霊する。
「あ、僕が出ます」
「鍵開けておいたから、勝手に入って来ると思うよ」
直人が玄関に向かうと、陸がドアを開けた。
「おっ邪魔しまーす。よ! 橘」
「橘、元気か? 今日は誘ってくれてサンキュ」
「久し振りだなぁ。お邪魔しちゃいます」
「竹ノ内先輩こんにちは! 徳田先輩、桜井先輩、お久振りです。どうぞどうぞ」
3人は玄関で靴を脱ぐと家の中へ足を踏み入れた。
「橘、良い家だなぁ」
「ほんとだ。もう少し大学に近かったら、俺も引っ越したい」
「そんな、広いけど古いですよ」
直人の案内で、陸、夾、徳田は陽一のいるキッチンに向う。
「お~、来た来た。徳ちゃん、夾」
「陽一、良い下宿先見付けたな~ ハハ」
「陽一んとこより、ずっと広いじゃん」
「だなぁ」
3人はそれぞれ手にしていたスーパーの袋をダイニングテーブルに置く。
「お菓子とかジュースとか適当に買って来た」
「サンキュー」
陸達は、ダイニングテーブルに料理器具が置いてある事に気付く。
「お‼ 陽一もしかして今日のメニューは、タコ焼きかぁ?」
「まぁね。でも俺がもう人数分作っておいたから、足りなかったら皆で焼こう」
「おお! 俺、自分で焼いた事ねぇ~」
「夾、俺もだ」
「まじか? って俺も陽一家でしかやったことないな」
陽一は焼きあがったタコ焼きを載せた大皿をキッチンカウンターに置く。
「陽さん、手伝います」
「うん、じゃあポテトサラダが冷蔵庫に入ってる。それと、そこの揚げ物もお願い」
「はい」
「陽一、他に運ぶものあるか?」
「ああ、陸。じゃあ、これ」
陽一は、ちょうど切り終えた卵焼きを陸に渡す。
「こんなんで足りる?」
ダイニングテーブル一杯に、料理が並べられた。
「家で串カツって普通しないよな」
「ソースの2度付けアカンで~ ハハ」
「それ聞いた事ある」
「そうか、串カツも大阪かぁ」
「今日は関西バージョンにしてみました。え~と花見だよね?」
「そんな事言ってたな。今からどこかに運ぶのか?」
「僕の家に桜の木があるんです」
「え? まじで」
「じゃあ、裏に運ぶ?」
「そうですね。せっかくだし裏庭で食べましょう」
皆はそれぞれの手に料理の載った皿やコップを持つと桜の木に向う。
シートの上にズラリと料理が並ぶと、陽一達は腰を下ろした。
皆、陽一の手料理を満足そうに頬張りながら、大学での出来事やバスケの試合を観戦に行った話で盛り上がった。
「本当にこの家居心地良いなぁ~」
「海も見えるし最高だよな」
「陽一って、高校卒業して直ぐ橘と住み始めたんだっけ?」
「そうだよ」
「そっかぁ、じゃあもう1年になるんだなぁ」
「あのさ、卒業式の日にさ本命がいるって話たよね」
「ああそんな事言ってたなぁ」
「そう。でさ、長く続いてたら誰か教えるって俺、言ったよね」
「ああ、そんな事も言ってたな」
「その本命なんだけど・・」
「橘だろ?」
「へ?」
「ん?」
「もしかして、陽一、俺達の事、鈍感だと思ってた?」
「え? あ、そうだ・・ね」
「げ――」
「卒業してから一緒に住むとか ・・さすがにそう思うっしょ」
「いつ見てもラブラブじゃん、お前等」
「俺等に気付かれてないって思ってた陽一の方が鈍感じゃん!」
「そうだよなぁ」
夾と徳田は口に手を当てると、得意げに笑った。
「いつから知ってた?」
「いや~ 高校の時は仲良いなぁ、くらいだったかな」
「夾は、橘が宇道と付き合ってるって思ってたしな」
「おい!」
「受験終わったくらいから、陽一の付合い悪くなったし、妙に機嫌良かっただろ」
「そうそう、陽一には珍しく鼻歌とか歌ってるしよ。アハハハ」
「好きな子が出来たのかなぁって思ってさ」
「そん時は、橘って思わなかったけど、卒業して一緒に住むって聞いて、あ~なるほどなぁって」
「ま、確認する切っ掛けなかったし、いつか話してくれるだろうって思ってた」
「男同士とか、そう言うのやっぱ気にしてるのかなってさ」
「陽一なら、アリでしょ? アハハハ」
「今までフラれた女共の反応が見たい」
「あ、徳ちゃん、俺も~」
「陸も知ってたんだろ?」
「ああうん。卒業式の帰りに聞いた。陽一が告白したってよ」
「うわ~ 橘、お前女共に殺されなくて良かったなぁ」
「案外、こういうのって、女の方が鈍感かもよ」
「だなぁ」
直人がホッとした表情を陽一に向けると、陽一も安堵の表情でシートの上に置いている直人の手を握った。
「はいはい、お二人さん、そう言うの俺達が帰ってからにしろ~」
「そうそう、俺まだ彼女募集中なんだからよ」
「陸、大学に良い子いないの?」
「そうだ、こいつ工大だったな」
「もっと女子の多い職業選べば?」
「見てろよ~ とびっきりの美人連れて来てやるから!」
陸は、グラスに入ったお茶を一気に飲み干した。
「アハハハ」
ポカポカとした陽気の中、桜の花達も笑っているように見えた。
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