万事屋霧崎の不思議な事件簿(過去編)
万事屋 霧崎静火
マイナス1話(小学生編)
都会の周りにあるサラリーマンの住処、いわゆるベッドタウン。そう大人たちは僕の住む街を呼ぶらしい。
僕の名前は大山誠(おおやま まこと)。小学5年生だ。名前だけ聞いたらどこにでもいそうなガキ。そう思うだろう。しかし、僕の本領発揮を見た人は大体腰を抜かす。なぜか?簡単な話だ。僕はある程度なら{認識した機器を操れる}という能力を持っているからだ。しかし、まだうまくコントロールできないが故、周りの人からは気持ち悪がられてる。
いや、周りの人間なんてもんじゃない。クラスメートには能力が原因でいじめられるようになったし、家族にも不気味、と邪魔者を見る目で見られるようになり、それを良いことに八つ当たりやストレス発散相手にされる。
今日もそんな家族に追い出されるように家を後にし、学校へ向かう。通りの街路樹は桜が満開だ。つい先日、入学式があった。新入生の瞳は輝き純粋さがうかがえた。正直、いじめられる前、入学直後に戻りたい。
「おっはよー!」
突如、後ろから元気な声と手が背中に当てられた。後ろを振り返ると、そこには、なじみの顔があった。
「飯島君…おはよう。」
「あ、二人ともおはよう。」
「まてー!女の子を置いてかないでよー!」
学校に行くときに合流するこの三人、飯島大聖(いいじま たいせい)、江原千歳(えはら ちとせ)、宮下紗南(みやした さな)。三人とも幼稚園からの幼馴染であり、僕の能力の数少ない理解者だ。
「飯島、またなんか力強くなってない?背中痛い。」
「江原、ほっぺにご飯粒ついてるわよ。」
「うわ恥ずかし。」
「そーいえば新しいゲームさー」
学校に着き靴を脱ぎ、ロッカーを開ける。上履きが…ない。
「誠、また?」
「探すか…」
また靴を隠されたらしい。正直慣れたからもう慌てない。慌てたらいじめっ子の思うつぼだと思っている。そして気が付いた飯島たちが手分けして探してくれる。そんな朝。今日もいつも通りだ。
飯島たちと廊下で別れて教室に入る。視線が刺さる。きっと上履きを見つけられず、靴下で来た僕を馬鹿にしているのだろう。
「お、殺人犯が学校きたぞ!」
そういじめっ子の一人が言った瞬間、クラスメイトが逃げていく。その中には、頭や腕に包帯を巻いている奴がいる。なんで包帯なんか巻いているか?僕をいじめた罰を以前、じきじきに僕が下したのだ。
授業開始のチャイムが鳴り、先生が教室に入ってくる。この後は朝の会がある。
「…誠君、上履きはどうしたのかな?」
「なくしちゃいました…」
「自分のものはちゃんと管理しなさいとあれだけ…」
そんなことを言いながら冷たい視線を向けてくる先生。絶対いじめを受けている事は知っていて何も行動しないのだ。正直学校に信用できる人など、ほば、誰もいない。
「…まあいいでしょう。誠君の上履きを見つけた人は、ちゃんと返してあげてくださいね。
そして今日も僕の存在が無視された授業が始まった。
「だからここの公式をこう使い…」
算数の授業。暇だ。予習でもうやってある場所だから先生の話を聞かなくても分かる。
「…誠君聞いてますか?」
「聞いてます。」
「じゃあこの問題分かるかな?」
この単元で一番難しい問題を出してきた。多分一発で解けなかったら授業を聞いてない、と評価を落とされるのだろう。
「…できました。」
「…ちゃんと授業は聞いていてくださいね。」
一発で解かれたのがよっぽど気に食わなかったのか、下唇を噛みながら吐き出すように言ってきた。
その時だった。
「センセー、誠君の数字の4の書き方が教えてくれた書き方と違います!」
いじめてくる奴のリーダーが声を上げた。余計なことを。
「あ、ほんとですね。やっぱりちゃんと授業きいてないみたいですね。」
そういいながら先生はすっきりしたような顔をした。
これで多分評価は下がる。そう確信した。
昼休み。僕は基本飯島たちとグラウンドの端の倉庫でおしゃべりをして過ごすようにしている。
「…いくか。」
今日も行こう。タイミングを見計らって教室を出ようとしたその時だった。
「おい待てよー、殺人犯。」
行く手をいじめっ子3人に塞がれた。
「最近みんなとも遊ばないでどこに行ってるの?」
「…どこだっていいじゃん。」
「あー!さてはゲームセンターにいってるんじゃない?」
「そんなとこいけるわけ…」
「殺人犯のくせに」
「殺人犯みたいな下級レベルの人間は大人しく教室で座ってなきゃいけないんだぞ!」
笑いがこみ上げる。
「な、なんだよ?」
「いや、珍しく僕を人間扱いしてくれたなあ、て」
「っ…」
「それに、やっぱりいくらけがしても学習しない猿なんだな、て思っただけ。」
「な、ふざけんな!」
3人一緒に殴りかかってきた。僕は教室の端にある黒板けしクリーナーでガードしようとクリーナーを引き寄せた…はずだった。
「うわ!」
次の瞬間、いじめっ子たちのすぐ上の蛍光管が破裂して奴らの頭に降りかかった。
混乱、怯え、憎悪、怒り…。目の前で起きている阿鼻叫喚…。受け止めきれず、ただ眺めていることしかできなかった。…ただ、1つ分かるのは、またやってしまったという後悔の感情だった。
「ということはいきなり教室の蛍光管が破裂したということで良いんだね?」
「はい…。」
応接室にて。目の前には担任、校長、教頭が座っている。あの後有様を見た生徒が先生を呼んでくれたらしい。いじめっ子三人のうち二人は保健室へ、一人は病院に搬送されたらしい。
「今親を呼んでいるから…。」
「誠!大丈夫?」
うわべだけの言葉を言いながら親が来た。顔は明らかに「面倒ごとかけやがって」という顔をしている。
「お母さんですね…。実はですね」
その時だった。勢いよく応接室のドアが開いた。
「この子なの?私の子を殺そうとしたのは!」
いじめっ子の親らしき母親が入ってきた。
空が夕焼けで赤い帰り道。一緒に帰っている母親は何も言わないし歩調を合わせる気配もない。
結局あのいじめっ子の母親は病院に搬送された奴から聞いた「殺そうとしてきた」ということを鵜呑みにしていたらしい。
「ただいま…うわ!」
家に帰り、リビングのドアを開けた瞬間、酒瓶が飛んでくる。後ろに飛んでいき、割れる音がした。
「てめえまた学校で何やったんだ!ああん⁈」
瓶を投げた本人、父親は酒を飲んでいる真っ最中だったようで赤ら顔をしている。
「きっとまたクラスメイトを殺そうとしたのよ。先生はうまく抑えてそうは言わなかったけど。」
隣にいた母親が弁解する。もう父親の顔はリンゴみたいに真っ赤だ。そして、今日もまたこういうのだろう。
「俺はそんな子に育てたつもりはない。出ていけ!」
母親も助けてくれる様子もない。ほとぼり冷めるまで出ていることにした。
深夜十二時。
「…寝たわよ。」
母親が玄関から顔を出し、庭でうずくまっている僕に声をかける。追い出されたときはいつもこうやって父親が寝た後に声をかけてくる。
「…寝る。」
そう良い、自分の部屋に入り、机に向かう。
「…はあ…。」
つまらないし味気ない宿題を解き終わりため息をつく。いっそこの世から消えたら…そんな事を考えながらベッドに。
こんな日々の繰り返し。正直嫌気が差す。そんなことを考えているうちに眠りに落ちてしまった。
何か痛みを腹に感じ、目が覚める。
「な、なんなんだ…?」
ゆっくりと体を起こす。目を開けるとそこには
「…は?」
枕元に23歳くらいの女性がしゃがんで見あげていた。
「あ、やっと目が覚めた、よかったわ。にしてもこれで叩かないと目が覚めないなんてよっぽど疲れているのねあなた。」
そう言いながら彼女が見せてくれたのは、
「拳銃⁈」
「そ、かっこいいでしょ?」
おそるおそる痛みを感じたお腹に手を当てる。
「っ…!」
「あー、痛いだろうからしばらくは触れないほうが良いわよ。」
…それは分かった。しかし、だ。
「あんた…誰?」
「…時空を管理する者。そして、あなたの後の師匠よ。」
「……………は?」
「…つまり、あんたも僕と同じで能力を持っていると。」
「そういうこと。実はここんところ数日あなたの様子を見ていたけど、能力を扱いきれていないということが分かったわ。」
「なぜそう言い切れる?」
「昼間に蛍光管を割ったあの事故。あなたがうまく力を操れなかったからでしょ?」
「見られてたのか。」
「そ。だからあなたに力の制御方法をおしえようかと…」
「悪いが断る。」
僕は彼女の言葉を遮った。
「…僕は常識が通じる人間じゃない。だから、今頑張って常識が通じる人間になろうとしてるんだ…。なのになんなんだあんたは?社会から浮かれて変な目で見られてろと?」
「…あなたにとって常識ってなんなの?」
彼女がゆっくり口を開いた。
「………え?」
「能力がないのが常識?社会に溶け込むのが常識?」
「それは…」
彼女はしばらく腕組みをしていた。
「…まあ良いわ。百聞は一見に如かず、ね。」
そう彼女が指をパチンと鳴らした瞬間
「うわああああああああああああああああああ⁈」
僕は突如足元に現れた穴に吸い込まれていった。
「ここ、は…」
冷たい感触を背中に感じる。
「ここはね、ある戦争時代の戦艦の上よ。」
あの彼女が僕に手を差し伸べながら話している。そう、僕らは戦艦の甲板の上にいた。
「…この戦艦が作られた国ではこのスケールの戦艦は当たり前とされていたの。でも、他の国からしたらこのスケールは当たり前、常識ではなかった。に人間の建築物じゃないって噂されてたのよ。」
不意に艦首のほうが騒がしくなった。
「だから…他の国は…やれることでこの艦を沈めようとした。…この艦を作った国では邪道とされていた方法…戦闘機による爆撃でね。」
空にぽつぽつと飛んでくるものが見えた。
「これで分かったかしら?[常識]なんてね、無いのよ。」
「…。」
「だからあなたは…」
燃えて傾いて行く巨大戦艦の上を歩きながら彼女は僕に向かって笑顔でこう言った
「あなたの自由に人生を歩みなさい。誰もあなたの人生を操る権利はないし、人はなにもかも同じものはないんだから…人を理解するなんて不可能なんだから…」
霧崎の過去、小学生編、FIN~
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