『自分教』

石燕の筆(影絵草子)

第1話

「自分を愛すること。それこそが究極の愛であり我が自分教が目指す宗教理念であります」


白いローブに身を包んだ教祖が演説をする。

井岡が人生に疲れはて心の拠り所を求めて入信した宗教。その名は『自分教』


自分教の宗教理念はその名の通り一心不乱に自分を愛すること。

ただ、それが難しい。自分を愛する。自分を愛し尽くす。


教祖のありがたいお言葉を何度も心の中に巡らせながら自己愛について考える井岡だったが、


事業に成功すると、なんでも金換算をするようになり欲の皮が突っ張ると、もはやお布施を払ったりするのも馬鹿馬鹿しくなり、宗教に興味がなくなった。


しかし宗教をやめる手続きをしてほしいと願い出ると教祖は笑って井岡を入信者にメッタ刺しにさせた。


血だらけになった自分に、教祖は言った。


「自分を愛する宗教が自分教。

私自身ももちろん自分を愛している。自分を愛する人間として自分の意思に反する行為をされるということはあってはならないのだ。

ゆえに君には死んでいただくよ」


『私は私を傷つけた者に制裁を加える権利がある』


そう言って笑う。


『そんな理不尽な、、、』


井岡は事切れるまで教祖を睨み続けた。


やがて静かに意識が途切れる。


『俺だっててめえが一番かわいいよ。畜生め』

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『自分教』 石燕の筆(影絵草子) @masingan

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