第9話 一難去ってまた一難

 あんな言い方をしたのに慣れた所作で牢の外までエスコートをしてくれるあたり、さすがはクルト。

 抜け目がないところは昔から、変わらないですね。


 いいのですよ。

 貴方の思惑が何か、分からないけどこのまま、寝ているだけではユリに怒られますし……。


 仕方がないので動くとしましょう。


「どこへ行くのです?」

「こちらの考え以上にあちらさんが賢かった……そういうことですよ」

「あら? そうなの」


 あちらさんもこちらさんも分からないですが……。

 殿下の様子はでしたが、不自然なタイミングで離れるように仕組まれたユリとセバス。

 それにクラシーナの不可思議としか、思えない表情にクルトの動き。


 全てが何者かの思惑だったということ?

 あまりにもあっさりと私が牢から、出されたので私以上に面食らっているのはファン・ハール卿のようでした。

 顔が赤くなったり、青くなったり、お忙しいことで。


「そうか。そういうことだったか。クルト、はよせんか」

「分かってますよ。親父殿。あんたがもう少し、腹芸が出来る人だったら、こんな手段取らなかったんだが……」

「何だと。この馬鹿息子めが!」

「そんなら、ずっとここにいますか? 俺はそれでもかまいませんがね」


 そう憎まれ口を叩きながらもファン・ハール卿の牢を開けようとしたクルトが何かに気付いたようです。

 幾分、鈍いと言われる私でも気が付いてしまいました。


「動き出すのが早かったかな。いや、それとも泳がされていただけか」


 複数の人間の気配です。

 今までは敢えて、気配を消していただけ?

 黒尽くめの一団がまるで影のように佇んでいました。


 湾曲した珍しい形の短剣を手にして、漆黒のフードにマスクで人相は全く分かりません。

 ただ、感じるのは一つ。

 はっきりとした殺意です。


 それが私に向けられているものなのかは分かりませんが、ヒリヒリと感じます。

 ユリだったら、彼らがどのくらいの技量の持ち主なのかすらも分かるのですが……。

 私にそのような才能はありません。

 私に出来るのは……あら?

 私に出来ることは何だった?


「お嬢様。呆けてないで後ろに下がっていてくださいよ。危ないですからね」

「そうですぞ。お嬢は下がっていてください」


 私を庇うようにというよりは邪魔だから、離れていろと言わんばかり。

 分かってます。

 こういう状況で役に立たないことはよ~く、分かってますとも。


 腰のロングソードを抜いたクルトは苦み走った表情ですし、愛用の幅広の刀身が特徴的なブロードソードを渡されたファン・ハール卿からも並々ならぬ覚悟がうかがえました。

 これは良くない状況です……。

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