第8話 ファン・ハールの暴れ馬
あまりにも快適すぎるベットなので思わず、完全に寝入ってました。
既に日は落ちていて、差し込む日の光は茜色。
あら、大変!
ぐっすりと熟睡しすぎて、夕食を食べ忘れるところでしたね。
それはよくありません。
三食ちゃんと食べないといけないのです。
健康の為に……と大きく伸びをしていると胡乱な視線に気づきました。
「お嬢はこの状況で良く寝られますな」
「寝る子は育ちますわ。ファン・ハール卿」
「さようですか」
まるで虚無を見てきたような見事な半目を披露してくれます。
器用なんですね。
でも、どうして、そんな目で私を見るのでしょうか?
何か、変なことを言いました?
「はははっ。お嬢様は相変わらずのようで何よりです」
さも愉快と言わんばかりの快活な笑い声とともに姿を現したのは長身の青年。
この声を忘れるはずがありません。
私をこの牢屋に連れて来た張本人で、向かいの牢の住人ファン・ハール卿の息子。
クルト・ファン・ハールです。
彼は私とユリの幼馴染。
整った顔立ちと長身で均整の取れた体つき。
デ・ブライネ騎士団の第一部隊長と騎士爵という肩書から、夜会でも人気があるらしく、社交界を賑わせる狩人だったかしら?
私達の前では飾らない人柄で気の置けない友人という関係だったのですが……。
「どの面下げてきおったか! 親不孝者めが!」
ファン・ハール卿が口から泡粒を飛ばしながら、真っ赤な顔で怒り狂っています。
私はクルトにも何か、事情があったのではないかと考えているのです。
あの場でクルトが呟いた言葉。
クラシーナが見せた不思議な表情。
引っかかることばかりですから。
「親父殿はまず、その血気盛んなところを治すべきだな」
「なんだと!」
「ほら。そういうところですよ」
「おのれ! そのそっ首、落とすから、ここから出さんか」
「出しませんよ。全く、ヤレヤレだな」
私がいるのに仲良く、喧嘩をしています。
飽きずに続けているので暫く、観察することにしましたが……
「ふわぁ。また、眠くなってきました」
「おっと。それは困るな。お嬢様は寝ると起きないからな」
欠伸をしているとクルトが急に真面目というよりはどこか、冷たさを感じさせる物言いで牢の扉を開けました。
「お二人にはここから、いなくなってもらわないと困るんでね」
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