第5話 本日お日柄も良く婚約破棄日和!?
ベッドの上でもサインは出来ます。
でも、次々に差し出される書類の数の多さには少々、辟易としましたが。
サイン済みの書類を任せた早馬は出立しました。
そもそも、私と
双方の利害関係が一致して、成立していたのです。
ほぼ無条件で結ばれた婚約ですし、契約に近いものでした。
ただ一つだけ、絶対に破ってはいけない条項があったのですが……。
殿下の頭はそれすらも覚えていないのでしょう。
そして、私の体調もどうにか、元に戻りました。
ついに迎えることになりました。
出来れば、迎えたくは無かったのですが……。
あのような御方でもいいところはあったのです。
「ねぇ。あったわよね?」
「だから、顔だけだって!」
「それだけ?」
「頭が空っぽでやることなすことがてんでダメ。どこにいいところがあるのよ」
「あったような気がするのだけど……」
彼女は最初から、この婚約に反対でした。
なぜ、よりにもよって、もっとも何も無い王子となのか? とずっと言い続けています。
「手荒なことはしないようにね」
「分かっているわ」
口ではそう言っている割にユリアナは手に持っていた扇を軽く、折りました。
彼女の手は小さくて、可愛らしい女の子らしいおててなのですが、林檎を絞って、ジュースに出来ることは有名な話です。
この辺境伯領でそれを知らない者は……思いついたアレを手でかき消しておきます。
「まずは話し合いをしないと駄目なのよ」
「片腕は折ってもいいよね? サイン書ける腕は一本、あればいいじゃない」
「駄目ですってば」
「じゃあ、指なら?」
「駄目です」
「ちぇっ」
ユリアナは小柄で華奢な小動物のような愛らしさに溢れた美少女なのです。
髪は眩く、神々しささえ感じられる黄金の色。
腰まで伸ばされたその長く、艶やかな金髪は神様がお与えになった賜物なのよ。
瞳もまるで宝石のエメラルドそのもので肌はシミ一つなくて、透き通っているわ。
こんなにも素晴らしい妹を私に与えてくれた神様に感謝しないと……。
でも、この守ってあげたくなるような庇護欲を掻き立てるかわいらしいユリアナが、実は……
「不測の事態が起こりました」
突然のノックの音に私は突如、現実に引き戻されました。
常に冷静で焦る姿を見せたことがないセバスの顔に珍しく、焦りの色が見えます。
「どうしました?」
「
「ええ?」
「何てタイミングで来るのよっ」
ユリアナが腹立ちまぎれに叩きつけた拳で応接室のテーブルがまた、あの世に旅立ちました。
これで何卓目だったかしら?
見事に真っ二つに折れています。
「あたしが出るしか、ないじゃない。ミーナ」
「はい?」
「あたしが戻るまで早まった真似をしないでね」
「分かっているわ」
「本当に分かってるのかな……」
最後まで後ろ髪を引かれるかのように何度も念を押してから、船上の人となったユリアナがいなくなりました。
絶対的な味方であり、騒々しくも心強い彼女がいない中、私は対峙しなければなりません。
少々、不安ではありますが何とか、なるでしょう。
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