第2話 私はヴィルヘルミナ

 私、ヴィルヘルミナ・デ・ブライネは港湾都市ランマトワ国境の悪い地の意味を擁するデ・ブライネ辺境伯領で生まれました。


 父は当主であるパウエル。

 母はアッケルマン王家第三王女ノーラ。


 祖父は名君の誉れ高い前国王ヒエロニムス。

 現国王ステファヌスは伯父にあたります。

 現状の貴族女性の中で最高位にあるのは私で間違いないでしょう。


 なぜなら、私は辺境伯令嬢ではないのです。

 代理とはいえ、辺境伯なのですから。


 私は跡継ぎである長女。

 一人娘としてこの世に生まれました。

 両親の間に私以外の子はいませんでしたし、この国では女性であっても当主になれる権利を有しているからです。


 お母様は美しい人だったと聞いていますが、私の記憶にはあまり、残っていないのです。

 私が幼い頃に儚くなったので思い出らしい思い出がありません。

 とても体の弱い人だったらしく、私を生むのもかなりの負担になったのでしょう。

 だから、私の記憶にある母親の姿は弱々しく、ベットに横になっているきれいな女性としか、なかったのです。


 両親は政略結婚でしたが、お父様はお母様を心から、愛していたことだけは間違いありません。

 お父様は周囲から、再三にわたり再婚するようにという話があったのを全て、断ったのは有名な話だとか。

 執事のセバスから、耳が蛸になるくらい聞かされたものです。

 そして、貴族にしては珍しく、周囲に手助けされながらも私を育ててくれました。


 そんなお父様から、再婚したいと女性を紹介された時はセバスともども、驚いたものです。

 ドが付くほどに真面目過ぎる堅物のお父様にそのような相手がいたことが衝撃的でしたから。


 そして、我が家に迎えられたのがカタリーナ継母おかあさまです。

 目にも鮮やかなやや赤味がかった金色の髪が印象的なきれいな女性でした。

 彼女はお母様とは正反対に生命力に溢れた人で勝気で活動的な面と細やかで気配りの出来る優しい面を併せ持った魅力的な人でもありました。

 義理の娘である私にも親身に接してくれ、私が道を踏み外さないように時には叱ってくれる継母おかあさまのことをいつしか、慕うようになっていました。


 この再婚で私にはもう一人の母親と呼ぶべき存在が出来ましたが、もう一人、大事な存在が出来たことを忘れてはいけません。

 それが義妹のユリアナです。

 継母おかあさまの亡夫との間の娘で私と数ヶ月しか、年の差がない子でした。

 まるでお人形さんのように可愛らしい子で一目見て、私は好きになったのですが、それは彼女の方も同じだったのです。

 私と彼女はまるで似ていませんし、対照的な容姿であるにも関わらず、一目見ただけで互いをまるで欠けたピースのように必要な物だと感じたのです。


 新しく家族となった私達ですが、周囲が思っている以上に仲良く、辺境伯領を盛り上げ、平穏な日々を過ごしていました。

 そんな平穏が壊れる日が来るなんて、想像すらしていなかったのです。

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