第2話 修羅場

 私は何を見せられているのでしょう?

 おかしいです。

 この部屋を使えるのは辺境伯の地位にある者だけ。

 私も使えない部屋をあの人がどうして、使っているのでしょうか?


 扉を開けたまま、立ち尽くす私を他所にあの人は腰の激しい動きを止めることはありません。

 嬌声と男女の睦みあう音はとても耳障りなのに耳を塞ぐことも出来ず、目の前で繰り広げられる動物のような交わりから、目を背けることも出来ません。

 ただ、私は立ち尽くすだけ。


「な、中に出すよ」

「きて。王子様」


 は? え?

 今、聞こえたのは幻聴ですよね。

 あの人の腰の動きが止まりました。

 幻聴ではなかったようです。


「何を見ているんだい? そうか。君も一緒にやりたいのかな? 」


 あの人の言葉を最後まで聞く前に私の意識は暗い闇の中に落ちていきました。

 最後に聞こえたのは私付きのメイドブランカの甲高い悲鳴でした。




 私はどうやら、目の前の光景に自己逃避を起こし、軽く意識を失っていたようです。

 目を覚ましたのは翌日のこと。

 まず、最初に目に入ったのは見慣れた天井でした。


「ミーナ。大丈夫? どこも痛くない?」

「お嬢様……」


 いつもと違うのは義妹ユリアナとブランカが今にも涙が零れ落ちそうに瞳を潤ませて、私を見つめていることと……


「お嬢様。準備は整っております。いつでも執行可能です」


 チョビ髭がアクセントのお茶目で頼りになる執事セバス・チャーンが、首のところを切る物騒なジェスチャーをしていることくらい。


「私は大丈夫よ」

「どこが大丈夫なのよ! だから、あんなのはさっさと追い出すべきって、言ったじゃない」


 ユリアナのエメラルドの色をした瞳に燃え上がる炎が見えるのは気のせいでしょうか?

 私の代わりに怒ってくれているのね。

 優しい子だから。

 彼女は一言で言えば、守ってあげたくなる小動物のような可愛らしさと愛おしさに溢れたこの世界でもっとも愛すべき存在!

 一言で済まなかったのは、私がユリアナのことを好き過ぎるせいなのです。

 でも、蜂蜜色の豪奢な長い髪に碧玉エメラルドの色の美しい瞳。

 おまけに小柄で華奢。

 顔立ちも童顔でまるでお人形さんみたいなのです。


「さっさとアレを追い出しましょう」

「そうです。お嬢様。すぐにヤりましょう」


 ユリアナのやる気も凄いですが、普段はほとんど感情を露わにしないブランカまでもがものすごい剣幕で危険です。

 どうしましょうね?


「準備は整っております。号令あらば、すぐにでも」


 いつもであれば、宥めて静止してくれる頼みの綱のセバスまでこれでは……。

 私もそろそろ、覚悟を決めないといけないということでしょうか。

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