後悔と連絡。(NL)※死ネタ注意

「別れよっか」


そう言われた日のことは今でも鮮明に覚えている。

幼馴染でいつも一緒にいて当たり前のように初恋をして当たり前のように告白して付き合って。それでもやっぱり終わりが来るらしい。できればその終わりが命尽きる頃だったらよかったのに。そんな泣き言を言っても君は踏みとどまることはなかったんだろう。


それでもいえばよかったんだろうか。嫌がられても君の腕を掴んで引き留めればよかったんだろうか。泣きじゃくって縋りついて無様な姿をさらけ出せば。


君の魅力をあげてくれと言われたらいくらでもあげられる。例えば僕の拙い話を優しい顔をして聞いてくれるところ。僕が仕事から帰ったらあたたかくて美味しいご飯を作ってくれるところ。僕が仕事でミスをして落ち込んでいた時は何も言わずに寄り添ってくれるところ。

こう振り返ると僕は君に頼りっぱなしだったんだね。顔とか言い出したら君は怒りながらも照れてくれるんだろうな。勿論、好きだったよ。


でも、君はもう僕の元に戻らない。


「ねぇ、昨日息子が初めてパパって言ってくれたんだよ」


一つの墓石の前で呟く。

あの時からもう10年以上が経っていた。


ー別れよっか


彼女はそう言って玄関から飛び出していった。僕はしばらく呆然と立ち尽くしてしまい、少し経ってから彼女を土砂降りの中急いで追いかけた。そして、雨に打たれて倒れている彼女を見つけた。


ひき逃げ。警察はそう言っていた。近くにあった防犯カメラのおかげで犯人はすぐに捕まったが、彼女は打ち所が悪かったせいで二度と目を覚ますことはなかった。


嫌がられても君の腕を掴んで引き留めればよかったんだろうか。泣きじゃくって縋りついて無様な姿をさらけ出せば…君は死ななかったんじゃないだろうか。


しばらく僕は家に引きこもっていた。それでも僕が社会復帰できたのは彼女の両親が「あの子の分も君が幸せに生きて。それがあの子の願いだから」と言ってくれたからだ。だから僕はその言葉を信じて精一杯幸せに生きてきたのだ。


別れようと言ったのはほんの気まぐれだったのか、それとも別れた方が互いに幸せになれると思っていたのか。僕には分からない。


「もし、本当に別れたいって思ってたならこうやってくるのも迷惑かな」


でもどうしても、君の命日にはここに来てしまうんだ。それは許してほしい。君は諦められるのかもしれないけれど、僕には君が全てだった。だから…


「これくらい許してよ」


君に怒られてしまいそうなきざったい台詞を吐く。見上げた空は黒色の雲が僅かに侵食されていた。



(暗転)

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