第110話 近隣へ

 エルザと2人だけで近隣の村や町に向けて出発する為、皆に見送られながら馬上の人になる。


 暫く進み、皆から見えない所に来るとエルザが近付いてきた。脚が当たる距離だ。


「やはり友安様は、ミザリア殿のような女らしい女性が好みなのですか?」


「うーん。確かにミザリアは淑女の鏡だ。しかし、なにも皆がミザリアの様に女らしくする必要はないよ。イリアとミリアなんか真逆だけど、どちらも好きだぞ。丁度ミリアがミザリアに憧れていて、イリアが君に憧れているんだ。確かに君は女性としては力もあり、言葉も決して女言葉じゃない。だけど、言葉が下品ではないし、体は鍛えられているが、逆にスラリとしていて、しかもしなやかな女性らしい動きをする。十分魅力的な女性だよ。俺はエルザの事を1人の女性として愛しているよ。妻に迎え入れたい位だ」


「私などからかっても何もないですよ」


「ははは。お客さんが来たからまた後でな」


 どうやらミザリアはエルザに俺の妻の1人になるようまだ申し入れをしていないようだ。そんな事をちらっと思ったが、それどころではない。

 街道の脇から魔物の群れが出てきた為、話が中断されたのだが、現れたのは獣型の魔物だった。


 2人で斬り結び、5分程で終わった。30頭位いて、魔石の抜き取りが面倒だったので、5頭をネンクロマンサーで使役し、倒れている魔物から魔石を抜き取るよう命じると程なくして魔石が集まった。死体は燃やし、5頭の魔獣には護衛を命じた。

 これの便利な所であり、欠点でもある。死体を使役すると魔石が使えなくなるのだ。別の言い方をするならば、使役したら魔石を抜かなくても良い。24時間位で魔石が崩壊し、体も完全に死ぬからだ。魔石を抜き取らずに放置すると、やがて強化されたり、上位種になって復活する事が有るから、魔石の抜き取りは必須なのだ。


 エルザが戦う姿はそれは美しかったので、一度ならず見惚れていた。


「どうなされた?戦闘中にぼーっとしていると怪我を致しますわよ」


「ああ、済まない。エルザの戦う姿が女神にしか見えなくて、ついつい見惚れていたんだ」


「もう友安様ったら。本気にしますわよ」


「うん。本気だよ。エルザは自分の姿をちゃんと分かっていないんだよ。美人なのを自慢しないのが立派だと思っていたけど、分かっていなかったんだな?」


「私が、う、美しいのか?」


「えっ・・・ってやっぱりか。よく求婚されると言っていただろう?それは単に君が美しいからだよ。もっとも君の内面を見ないで、見た目の美しさにのみだっただろうが、俺は責任感が強く、芯の真っ直ぐな美しい心の持ち主のエルザだから好きなんだ!」


 エルザは顔を赤くしながら馬を進めていた。そんな感じで恥ずかしがっているエルザは十分可愛らしかった。


 昼過ぎには隣町に着いた。町の壁は高さ2m位と比較的低い。

 町の門で手続きをし、中に入る。


 町の規模は小さい部類だが、もう少しで中規模なのだが、比較的人口密度が高そうな町だ。無理もない。

 近隣の村々の拠点になる町だった。

 まずは宿を確保しなければだが、2つあるうちの片方は満杯で、高い方が空いていた。


 Wベッド1つしかない部屋のみしか空いていなかったが、エルザが大丈夫と手続きをしていた。


 部屋は古いが綺麗な部屋で、大きな浴室が自慢の部屋だった。


 他の部分は今まで見てきた宿と、作りは大して変わらない。


 エルザは騎士の制服ではなく、貴族令嬢が着るような服に着替えると、領主に会いに行く事に。他国とはいえ、エルザが貴族だからか、比較的あっさりと面談が出来た。


 領主は60歳に差し掛かろうかという人の良さそうな壮年で、人口が増えてきてはいるが、町の拡幅が追いつかないという。


 あの村の状況の説明をすると、町も今は人口を減らしたいそうで、冒険者を含め、妻に先立たれた者を中心に移住する者を募集してくれる事になった。渡りに船だそうで、かなり乗り気だった。比較的魔物が少なく、平和な僻地の為に、男性の死亡率が低く男性があぶれ気味だそうだ。


 あの村はこの10年、他の村や町との交流が殆ど途絶え、たまにいつもの者が売買や商談で来る以外は、村への行き来は途絶えていたと。税金をちゃんとどころか、少し上乗せして収めているから、特に視察もしなかったらしい。


 ただ、以前は美人が多い村として嫁探しに人気があったそうだ。村長になる候補者は領主の血縁だが、それで良ければ村長のなり手を探してくれるという。ただ、血縁者だとちゃんと断りを入れてくれたので、信頼のおける者と認識した。公平に治めてくれさえすれば、出自に拘りはない。


 以前は人気の有った村だから、ある程度行ってくれる者が集まるだろうと。

 この日は用事が終わったので、エルザと町を見物する事になり、領主の館から歩いて宿に戻りがてら、腕を組みながら散策をするのであった。

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