第89話 責めと恋人達
俺はミザリアを抱きかかえたまま、泣きに泣きまくった。
何となくゼツエイが病気で、しかも長くないのであろうと感じていた。
いや、違う。知っていたのだ。知らない振りをしていただけで、この世界に来る前に夢で見ていて知っていたんだ。ゼツエイを初めて見た時にギョッとなり、夢で見たゲートを閉める時の記憶を封印していたんだ。
それに最近は出会った頃よりも体のキレが悪く、酒の量が目に見えて減っていたが、加齢の所為にして向き合おうとしなかった。それと一度咳き込んだ後の手に血が付着していたのを見た時に、睨まれていたが、気の所為としていた。問い詰めて体を調べたらひょっとして助けられたのかも分からない。いや、一度酔いつぶれている時に確認して、手遅れだと分かり、言葉を掛けられないまま今日を迎えてしまった。ゼツエイが若い兵士を突き飛ばした瞬間に夢の事を思い出し、彼の想いを考慮し、そして置き去りにした。ううう。
ミリアの様子を見るに、こうなる事を知っていたようだ。
思い当たる節が多々ある。
ゼツエイが辿る運命がどのような結末になるのかを知っていて、顔を見られなかったのであろう。見てしまえば顔に出てしまう。
ゲートが閉じて周りは歓喜だ。
ゼツエイを置いてきてしまった。そう、ゼツエイが俺にそうさせてはいたが、最後は俺が決断をした。ミザリアに合わせる顔がない。
そうこうしているとミザリアが目覚めた。
お腹をさすっているので、ヒールを掛けると、ハッとなったミザリアが必死に周りを見渡している。
「トト様は?トト様がいない!?」
俺はミザリアを抱き締めた。
「助けられなかった。ゼツエイは向こうだ。済まない。どうにもならなかった」
「嘘だと言ってください!嫌です!どうして連れて帰ってくれなかったのですか?トト様!」
イリアが何か言い掛けたが、手で制した。
「君も何となく感じていただろう。ゼツエイは後2ヶ月も持たない体で、俺の力でも病気は治療できない」
「友安様の馬鹿馬鹿。何故ですか?私ひとりぼっちになるのは嫌です!トト様!友安様、トト様を助けに行きましょう!後生です!」
見兼ねたイリアが遂にミザリアに平手打ちした。
「お姉様!お気持ちは分かりますが友安様も辛い決断をしているのです。この手で死刑執行書にサインしたようなものなのよ!しっかりしてください!いつもの自信に溢れた姉様は何処に行ったの?今は幼年学校の生徒みたいじゃないですか!それに友安様や私達がいるじゃないですか!1人じゃないよ!ね」
イリアに言われ、ミザリアは頷くと暫く泣いていた。ミザリアとミリアの2人を俺とイリアが抱き締め、慰めていた。
そんな俺達に近付ける奴はいなかった。
カナロアとムネチカが睨みを効かせていたからだ。
そして抱き締めている時にミザリアの胸に手が当たってしまったが、俺のシンボルが復活した。半年と言われていたが、僅か数日で復活した!なぜ今復活?そりゃあ嬉しいが、俺・・・空気読めよ!
俺はまずミリアを慰める。
「ミリア、辛かったな。ゼツエイの事を予知で知っていたんだな。気が付いてやれなくてごめんよ。1人で抱えていたんだな」
ミリアは頷いた。暫くすると泣き疲れて寝てしまったので、エルザにミザリアを任せ、ミリアをお姫様抱っこで部屋に連れていき、イリアに後は任せた。
そしてミザリアを部屋に連れて行く事にした。
暫く背中を擦っていたのだが、大分落ち着いたようで取り乱した事を詫びてきた。
恥ずかしがっていたが、お姫様抱っこで部屋ではなく浴場に連れてい行く。ミザリアに復活がばれたが構わなかった。
まずは汚れた体を洗いに行く。丁度目覚めたミリアやイリア達と入り口で合流したので、背中を流しあった。
先の封印状態の影響の為か、冒険者として仲間同士で風呂に入っても性的に反応しなくなった。一般冒険者が出来ている内容だ。
そして風呂上がりに、ミザリアをお姫様抱っこして部屋まで連れて行った。
部屋に入ると俺はドアの鍵を閉め、ベッドにミザリアを降ろすと俺達はどちらからともなく熱烈なキスをした。
ミザリアは落ち着くとゼツエイの事を受け入れてくれたし、俺の全てを受け入れてくれた。
俺はゼツエイから渡されたカードの事を思い出し、ミザリアに見せたのだが、カードからはまだ生きていると分かった。
どうやったのか分からないが、ゼツエイはあの場を逃げ切ったようだ。
奥歯には毒が仕込んであると言っていたので、もしも捕まったら多分毒を飲むだろう。だがそうしていない。
ミザリアにまだゼツエイが生きていると話すと、またもや泣いた。今日は泣き虫さんだ。
ベッドで抱き締め、2人でゼツエイが少しでも長生きしてくれるよう祈った。
そして漸く恋人達の時間が訪れようとしていた。
この部屋の前にカナロアが立ち塞がっており、恋人達の甘い夜を邪魔する者をブロックしてくれていた。
最早今この場で俺達の間に言葉はいらない。愛しているという必要もなかった。お互いを信頼し、そして尊敬しているからだ。そして何より心から愛しているから・・・見つめあい、どちらからともなく唇を重ね・・・
やがて恋人達の夜は更けていくのであった。
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