第42話 港町へ

 俺は夕食の時に、ゼツエイにちょっとしたプレゼントをする事にした。

 プレゼントといっても、冷えたエールを飲ませただけだ。


 桶に水を張り、その中にアイスボールで生成した氷を入れて水を冷やした。そしてそこにエールを入れたジョッキを置き、暫く冷やしたのだ。


 キンキンに冷やしたエールをゼツエイに出してやり、一口飲むと顔色が変わった。


「なんじゃこれは!ただのエールだろう?それにこの冷えたのはどうやった?うますぎるぞ!うましじゃ!カカカカカ!」


「気に入ったようでなによりです!まあ、魔法で冷やしたんですよ!俺の国じゃお酒は熱いのかキンキンに冷やしたのが当たり前なんですよ!まだあるから、ぐいっといってください!」


 ゼツエイは一気に飲み干してはぷはーと唸り、俺におかわりをねだり続けていた。


「坊主、ありがとうな。また作ってくれ!うまかったぞ!あんなに美味しい酒はドワーフ殺し位じゃて!」


 ゼツエイはしきりに俺の尻を叩き、終始上機嫌で最後の1杯を飲み干すと、残念そうな顔をしながら部屋に引き上げていった。



 そしてそんなゼツエイの喜んだ姿を見たミザリアが、俺に抱き付き、泣きながら感謝をしてきた。


 あれほど嬉しそうに、美味しそうにお酒を飲むのは久しく無かったと。この時俺は特に気にもしなかったが、ミザリアが感謝をしまくった理由について深く考えていなかった事をこの先後悔する事になるのだが、ミザリアに抱きつかれた為、ドキドキで友安は一杯一杯だった。


 友安はミザリアを抱きしめ、そのフェロモンにくらくらする感じではあったが、なんとか理性を総動員し、そっと涙を拭うと部屋に送っていった。送り狼になりたいが、今は我慢の子だ。事を急いてはいけない。


 そして俺は激しく後悔した。ミザリアへ何故にキスをしなかったのかと。俺はへたれでもし嫌われたらどうしよう?と考えてしまうのだ。今までの失敗は性急に関係を迫ったからだ。初めてのデートでいきなりキスをしてビンタされて気まずくなったりしていたからだ。まあ、相手にもよる。初デート=初エッチとする事を何とも思わない女性もいるが、普通はその人との初キスは特別なのだが、今迄はキスへの想いを考えていなかった。


 友安は部屋に入り布団の中でずっとうじうじしていて、いつの間にか寝た感じだった。


 翌日は皆に出発の準備をお願いしつつ、ミザリアとお出掛けだ。デートだったら良いが、残念ながらそうではなく、ギルドにお金を受け取りに行くだけだ。


 それでも短い時間とはいえ、ミザリアは俺と腕を組んでくれる。

 わざとなのかたまたまなのか、体が密着して俺の腕に胸が当たり、ちょっと嬉しかった。その感触にバンザイ!


 そんな煩悩まみれになっている友安だが、周囲への警戒は忘れない。    

 だが、実はいつもニコニコしていて穏やかなミザリアだが、彼女の周囲への警戒が半端ない。

 俺は奪ったスキル頼りだが、彼女の場合は、育った環境下で育まれた技であり、スキルに頼らない純粋な技術だ。


 俺が異変に気が付いた時、彼女は既に臨戦態勢になっている!そんな感じなのだ。


 しかし俺達を邪魔する者が現れる事はなく、ギルドでの換金等をつつがなく済ませ、皆の所へ戻ってから出発になった。


 俺達の馬車はそのままで、2台目はオイパ達3人が乗る。

 3人の名はオイパ、イダツ、ダキスだ。


 そこからの道程は順調に進んでいたが、それにしても先の盗賊との戦闘が嘘のようだった。


 道中イリアとミリアが友安の横に座ったのだが、ミザリアと話し合ってローテーションを組んだようだ。

 と言うよりも、御者を3人の誰かが行い、車内で他の2人に挟まれる感じだ。友安は最大戦力として御者はパスになり、時折慣れる為に少しする程度だ。


 そして予定通りに港町に辿り着いたが、ごく普通の宿しか空いておらず、その宿に泊まった。幸い何事もなく平輪な夜を過ごす事が出来た。


 この国の一番大きな港町という事もあり途中で見てきた宿場町よりも格段に大きい町に、俺は半ば観光気分だった。異世界の港町!見た事の無い船。浪漫が溢れるじゃないか!ヨカヨカ!潮風って良いよね!ミザリアの水着姿が見たいぞ!


 残念ながら、ビーチはありませんでした。

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