夢現 ~ゆめうつつ~
伊南世 海浩
第1話 始まり…そして出会い
「キャーッ‼またよ!ほら!」
「うわッ‼ホントだ!何で毎日まいにちこんなことが起きるんだ、この家は‼」
「知らないわよもう、どうなってんの!」
「まんぼうず‼早く何とかしなさいよ!この役立たずのインチキ坊主‼」
「インチキ坊主とな、それは聞き捨てならないのう。わしとて頑張っておるんじゃがのう」
―何?聞いたことのない声………誰の声?
「って、今回はいつもとちょっと違うみたいねぇ」
「そうじゃな」
「おい!柚萌(ゆめ)!起きるのじゃ!」
「柚萌ちゃん、そんなとこで寝てると風邪ひくわよ!」
―誰?何?ゆめちゃんって、私のこと?聞き覚えのない声が聞こえる。
どういうこと?確か、さっきまで自分の部屋で聡有(そう)と電話してたはずなんだけど………
「くすぐったら起きるんじゃない?」
―え?
「きゃっ!うふっ!いや、や、や、やめてぇ~~~」
「って、何でくすぐったいの~~~~~!」
「お!目が覚めたようだ」
「ほんとねぇ」
「よかったわぁ!気が付いて」
「きゃー------------ッ!!!」
ーな、何………私は自分の目を疑った。
「柚萌ちゃん、どうしたのよ?」
そう言いながら不思議そうに私の顔を覗き込んできた人は、目のギョロっとした見たこともない年配の女性。しかも、知らない場所に………知らない人たち。
「え、え~と………。ど、どちら様ですか?」私は恐るおそる聞いた。
「何言ってるのよ!オホホホホホ!」
そう高笑いしながら答えたその女性の口は、飲み込まれてしまうかと思うほど、とっても大きい………。よく見ると………ほかの人たちも、何だかとても特徴的な顔をしている。まるで………魚?いやいやいや、魚であるわけはないんだど………。
「今のポルターガイストで記憶喪失にでもなったのかしら?」
その年配の女性が、また不思議そうに私の顔を覗き込みながら言った。
私には理由(わけ)が分からない。さっきまで彼氏の聡有と、いつもの習慣になっている寝る前の電話をしていたのよ。『おやすみなさい』って言って電話を切って。そしてベットに横になって……。寝たはずなのに……。おかしい…。これは……。きっと夢ね。
ぼーっとしている私に向かって、またその年配の女性が大きな口を開けて、笑いながら不思議なことを言ってきた。
「さっきまで、私たちと一緒に朝ごはんを食べていたじゃない」
「こ、これは夢です!」私は思わず言った。
そうよ。こんな不思議なこと、夢以外の何ものでもない!でも、夢の中で”夢”だと、はっきり認識したことなんてなかったのに……。ホントに不思議な夢。
「さっきから何を言っておるんだか、わしにもよく分からないが、とにかく柚萌が気がついてよかったわい。あのまま死んでしまったらどうしようかと思って、わしの心臓も止まるかと思ったわい」
そんな変なことを言い出したのは、まるでお坊さんのような出で立ちをしたおじさん。と言うか、おじいさん?この人も、やっぱりまん丸の大きな目に、大きな鼻と口。それに頭が……ふたつに割れてる?いや、たんこぶ?いったいどうなってるの?
やっぱりこれは夢なんだ……私はこんなおかしな人たち知らないし、普通の人間ぽくないもの。でもこれって偏見になるのかしら?意外と私って、いやな人間だったのかなあ?何だか複雑………。
「そんなことより……」
今度はさっきからずっと、少し離れたところに座っていた男性が、話し始めた。「まんぼうずさん、今回のポルターガイストは、いつもとちょっとばかし違った気がするんだが、どうなってんだい?」
ポルターガイスト?何?何言ってるの?って、ちょっと待って!
その顔を見た私は、思わず吹き出しそうになった。ヤバいです!!!!!!!ダメ‼めっちゃタコにしか見えない!!!!!!!私は笑い出してしまうのを必死に堪えた。
「そうじゃのう……」
さっきから”まんぼうず”と呼ばれている、お坊さんみたいな人が答え始めた。
「ん~~~~~~~。わしにも分からん。ぅおっほっほっ」
何だか笑ってごまかそうとしているみたい。
「やっぱり役立たずの坊さんかあ、んじゃあ俺は仕事行ってくるわ!」
「柚萌ちゃん!また夜な!それまでには思い出しててくれよ!」
タコにしか見えないその人は、そう言ってウインクをしてその部屋を出て行った。
それにしても、あんな格好で何の仕事にいくんだろう………。禿げ頭にねじりはちまきに、白Tに腹巻って………。ヤバくない?まあ、夢だから別にいいんだけどね。
あ、でも私の夢なんだから………私のセンスってこと?それってヤバすぎる………。
「わしも頑張っているんじゃがのう」
尖った頭の片方をさすりながら、まんぼうずさんは答えた。
「まあ、そんなに落ち込まないで。まんぼうずさんが一生懸命やってくれているのはよく分かっていますからね」
相変わらずまぐよさんは、大きな口を目いっぱい広げて喋る。
「落ち込んではおらんぞ!わしの力を以ってしても、静まらぬほどの強い力が働いておるということじゃ」
そう言えば、さっきからポルターガイストがどうのって言ってたっけ。そして、このまんぼうずさんていう人が、そのポルターガイストをどうにかしようとしているわけね。でもこの答え方だと、真面目にやっていないのかな。それとも本当にインチキ坊主ってことなのかな?
「あのう………何があったんですか?」 私は、まんぼうずさんとかいう人と、年配の女性に恐るおそる聞いてみた。
「何言ってるのよ柚萌ちゃん!」
「毎日のことじゃないか」
「まんぼうずさん、まぐよさん、柚萌ちゃんは記憶をなくしちゃったみたいだから、説明してあげた方がいいんじゃないかしら?」
私の後ろの方から違う女性の声が聞こえた。振り返ると色白の細い女性がいた。他の三人と比べると、まだ人間らしい顔立ちと言えないこともないが………。やっぱりどことなく海や川にいそうな顔立ちをしている。
年配の女性は”まぐよさん”て言うんだ?まんぼうずさんもだけど、変わった名前。私は心の中で笑った。
「あらあ、うなみちゃん。やっと喋ったわね。オホホ!」
色白の女性の顔は真っ赤になって下をむいてしまった。かなりの恥ずかしがり屋なのかしら?それにしても、”うなみさん”って…この女性の名前も変わってるのね。
「確かにうなみの言う通りかもじゃな。まぐよさん!説明してやったらどうじゃ」
「そうねえ………」
「柚萌ちゃん、本当に覚えていないの?」
まぐよさんと言う女性の顔が、私の目の前に………ヤバい………
「…っくっくっくっ………あ、ごめんなさい」
ダメだ………笑ってしまった。失礼なことだが、やっぱり耐えられない。面白すぎる。話す度に動く大きな口は、表現が難しい。口角が下に垂れ下がっていて、大きな目も話す度にギョロギョロと動いている気がする。とにかく表現が難しい………。
「覚えてるも何も、これは夢の中ですよね?」笑いを堪えながら私は言った。
「何言ってるのよお」
「やはり頭でも打ってしまったのかのう?どこか痛いとこはないのか?」
まぐよさんとまんぼうずさんは、そう言いながら顔を見合わせている。
「今日のポルターガイストは、いつもと違ったから…そのせいかしら?」
そう言ったうなみさんの唇は、青白さを通り越して紫色になってしまっている。本当に私のことを心配しているのかな?さっき真っ赤になっていたうなみさんの白い顔も、青白くなってしまっている。こんなに顔色が変わる人、初めて見たわ。って、これは夢だから何でもありか。
「そうよねえ、いつものポルターガイストっていうより…大きな地震みたいだったわね。うふふ」
まぐよさんは満面の笑みを浮かべている。うなみさんとは違って心配しているというより、面白がっているという方がしっくりとくる。
「そうじゃのう、確かに地震だったのかもしれないのう。だとすると、わしの祈りも届かぬわけじゃな。ぅおっほっほっ」
「何言ってるのよ。まんぼうずさんの能力が足りないだけでしょ?」
「まぐよさんはキツいのう。だからその年で結婚も出来ずに、こんなとこで家政婦なんぞをしとるんじゃろ」
「まんぼうずさんこそ、インチキ坊主過ぎてモテないから、いまだに独り身で彼女も出来ずに、こんなとこで共同生活してるんじゃなかったかしら?」
「わしは好きで独り身なんじゃ!」
「あら、私だって私の好きで独りなのよ」
何だか私の話じゃなくてお互いの言い合いになってきたなあ…これは止めた方がいいのかしら?でも、夢だしなあ………ほっといていいかなあ………。
それにしても…ここは不思議なところね?一応ここは、リビングになるのかな。向こうにはキッチンらしきものがあって、ドアが一枚。でも、不思議な形してるなあ。どうなってるんだろう………。それに、ここには窓がない?
「まぐよさんもまんぼうずさんも、いい加減にして!柚萌ちゃんが困ってるわ」
そう言ったうなみさんの顔は真っ赤だ!本当にころころと顔色が変わる人ね。
「私は大丈夫ですよ。あはははははは」私は誤魔化すように笑った。
何だか夢だと分かっていても微妙だわあ………。夢なのに、色々考えたり気を遣ったり、疲れる夢だなあ………。早く夢から覚めないかなあ………。私は何となく時計を探してみた。
「柚萌ちゃんは、ここでみんなと一緒に暮らしてるのよ」満面の笑みでそう言ったまぐよさん。
まんぼうずさんも、うなみさんもにこにこと頷いている。
へぇ…。そういう設定なのね?
「ここには、私たち含めて11人住んでいるのよ。流行りのシェアハウスってやつね!で、私はここで家政婦をしているの。分からないことがあったら、何でも私に聞いてね」「あ、もちろん柚萌ちゃんもその内の1人よ」
身を乗り出して、まぐよさんはとても楽しそうに話している。まぐよさんはきっと、とてもおしゃべりなんだろうなあ………。そんな気がする。
そう言えば、時計が見当たらないのよね。まあ夢の中の時計を気にしても仕方ないか。きっとまだ寝たばかりなはずだから、まだまだこの夢は続きそうね。
「そうそう、さっき仕事に出かけて行ったのは”たこ兄”よ。たこ焼き屋さんをしているの。たこ兄のつくるたこ焼きは、とっても美味しいのよお。柚萌ちゃんも大好きだったわねえ」
え~~~~~~、ちょっと待ってまって。たこ焼き屋さんをしているタコにそっくりなたこ兄って何よ?ダジャレ?って言うか、タコがタコをたこ焼きにしちゃってるのお?どんな夢を見てるのよ私…これも私の夢の中ってことは、私のセンスってことでしょ?マジで私………大丈夫?これこそ穴があったら入りたいって状況よね?あ~~~~~~もう何なの?
「そ、そうなんですね…あははははは」これが苦笑いってやつかなあ。
「それから………。多分まだ寝ている、”くじらん”ていうおじさんと”なまたろうさん”ていうお金持ちのおじ様に、もう学校に行った大学生の”おきんちゃん”でしょ。それから、高校生の”いるなちゃん”」「あ、まだ寝ているのがいたわね。フリーターの”でめたんくん”に、それから、アパレルショップで店長をしている”いかみちゃん”よ。みんなとってもいい子たちばかりだから、心配しなくて大丈夫よ」
「いい子たちってのは変じゃないかのう?まぐよさん」
まんぼうずさんがちょっと待ったとばかりに口を挟んできた。
「くじらんとなまたろうは、まぐよさんよりも年上じゃろう。いい子などと言ったら何を言われるか。気をつけんとな。もしかしたら、聞き耳を立てて聞いておるかも知れん」
うなみさんもその通りとばかりに、首がとれそうな勢いで頷いている。
「あらあ、平気よう。くじらんなら、もうそこにいるわよ。オホホ」
まぐよさんは笑いながら、唯一あるドアの方を見て、そう言った。
「バレておったか」
そっと開いたドアの隙間から声がしたかと思ったら、恰幅のいい四角い大きな顔をした和服姿の男性が入ってきた。
「まぐよさんにはかなわんな」
そう言いながら、その男性は私の隣にやってきた。
「柚萌ちゃん、大変な目にあったみたいだねえ。記憶喪失とは気の毒に………。しかしだな、直ぐに思い出すだろ。わしらが思い出させてやる!なあ、みんな」
くじらんさんの四角い顔にそぐわない大きなまん丸の目は、まるで宝物でも見つけたかのようにキラキラして見えた。
「さては、くじらん。ずっと隠れて聞いておったようじゃのう」
「まあな。入るタイミングを逃してしまってな」
くじらんさんは、四角い重そうな頭の角を指でポリポリとかきながら言った。
本当に私がここに住んでいたかのように、みんなが話してる。それに、この空気感とか声とか、めちゃくちゃリアルっぽい。すごく不思議なんだけど………これは夢なんだよなあ。我ながら自分の想像力の豊かさに拍手~~~って感じ。私はみんなの顔を見回しながら、そう思っている自分の顔がにやけているのが分かった。
目が覚めた時に、この夢覚えてたらいいなあ………。誰かに話したい!あ、でも私のネーミングセンスとか色々バカにされるかも………。それはちょっといただけないけど………でも、聡有になら話してもいっかなあ。どうか覚えていますように!
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