第3話

 結果として、そこでは二年、勤め上げることができた。

 通いだったのと、老祖父母と子供という組み合わせが良かったのかもしれない。

 短かったが、とにもかくにも今までと違い、依頼された期間を勤め上げることができたのだ。

 そしてその間にハロルドとの付き合いが進展していった。

 紹介してくれた場所が良かったということもあり、私は彼への信頼が急速に増した。

 それがやがて恋みたいなものに変わってしまったのも仕方がなかったかもしれない。

 そして契約が終わり、また次の仕事を探さなくてはな、と思った時に、彼に求婚されたのだ。

 弁護士と家庭教師。

 中流と中流、という組み合わせも良かったのだろう。

 結婚話はとんとん拍子に進んだ。

 その頃には弟妹もあらかた仕事に就き、ある程度独立していた。

 今まですまない、私は自分自身の幸せを掴んでくれ、と両親からも言われた。


 結婚話はスムーズに進んだ。

 彼の実家はうちよりは裕福だったが、今まで結婚のけの字も出さなかった息子が、ということで喜んでくれた。

 両親とも上手くやれそうだった。


 これを機に私は家庭に入り、今まで人に使われる身から、通いだがメイドを使う身になった。

 ただ、なかなか子供ができなかった。

 幾つかの理由は考えられた。

 彼が案外仕事で忙しいこと。

 夜遅くまで帰ってこない日が多いこと。

 休日も何かと男同士の付き合いがどうの、とかでかり出されることが多いこと。

 それと私の生理的な体調との関係で、なかなか夫婦としての行為ができないのだ。

 一年目はまあいい。

 二年過ぎると、さすがに義両親や義妹が心配する様になってきた。

 この義妹――パトリシアという――というのは私より二つ歳上だった。

 やはり家庭教師をして後、やはり弁護士と結婚したのだという。

 だからだろうか、話が合う彼女とはちょいちょい交流があった。

 ただ彼女には既に三人の子供が居た。

 この違いは何なんだろう、とよく私は思うことが多かった。

 パトリシアは私の健康はどうか、とか家庭教師をしていた時に無理はしなかったか、とか色々心配してくれた。

 一年目まではそれで私も自分に問題があるのではないか、と思っていた。

 だが二年目を過ぎると、私もパトリシアも、ハロルドの行動に問題があるのではないか、と思い出した。


「そもそも貴女達、一月に何度夫婦の営みをしているの?」


 そう聞かれた時に数えてみると。


「……一月に何回、じゃないわ。二ヶ月に一回とかそんな感じ」

「それおかしいわよ。というか、そんなだったら、ちょっと仕事を調整するものじゃない?」

「そんなことができるの?」

「少なくとも、私の夫はちゃんと私や子供達の何かしらの記念日には急な仕事が入っても誰かと変わってもらえる様な体制を作っているっていっていたわ。働くの家族が大事だからって」


 私は視線を落とした。


「彼は家庭より仕事、ということかしら」

「それはあるのかもしれない。でも男同士の付き合いをそんなに家庭を放ってまでする?」


 言われてみればそうだ。


「ねえパティ、男同士の付き合いで、お家にお友達を呼んだりすることはある?」

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