第29話 日常の再建、からの長い二日間③

 実伶みさと耀人あきとは手を繋いで耀人あきとの家に向かっていた。

 耀人あきととしてはどこにデートに行くつもりだったが、実伶みさと耀人あきとの部屋でいいと言う。

 耀人あきととしては以前にも来た事のある部屋にわざわざ来たがる事の意味がいまいちつかめないでいた。


 一方その頃、ひかりの元に南区担当の宿根やどりね愛織いおり(マジカル・カスミ)が訪ねて来ていた。

 ひかり麻月まつきの紹介と言われて、渋々対応するのだが──


「初めまして、だよね。とりあえず、入って」

「どうも」


 愛織いおりは長いポニーテールをなびかせ、キャミソールにショートパンツという夏を体現した感じでいかにも活発的な印象を受ける少女だった。


「そのお連れの人は?」

「いやね、ここ最近一番活躍してるひかりちゃんに指導してもらおうかなと思ってさ、ベテランの心乃葉このはちゃんもいるしさ、この子を鍛えて欲しいんだ。ほら、自己紹介しな」


 伊達眼鏡をかけた大人し目、正直に言えばパッとしない、如何にもインドア派といった少女はひかりを見て目を輝かせていた。

 ※説明しよう、魔法少女は例に漏れず視力がいいぞ。だから眼鏡をかけているのはキャラ作りか内向的な性格のどちらかなのだ。おっと、メガネフェチな可能性も有り得るな。


「魔法少女なりたての姫和多ひめわだ優々菜ゆゆなです!先輩、宜しくお願いします!!」

心乃葉このはちゃん、私、まだ3カ月超えたばかりなんだけど、どうして私なのか知らない?」

「さぁ?パパの考える事なんてサッパリだわ」

優々菜ゆゆなは、南区を担当する予定なんだけどさ、一カ月でいいから預かってくれよ、ちょっと問題抱えてるんだ、それさえ解決すればいいからさ、頼むよ!」


 愛織いおりはそう頼み込むと、用事があるからと言ってさっさと立ち去ってしまった。

 とりあえず、その問題とやらを聞こうと家の中に招き入れると愛理らぶりが不思議そうにこちらを見ていた。


「その子、噂の市民殺しの新人プレジャー・エクセキューシュナーよね」

「ぷれじゃーえくせきゅしゅにゃ?なにそれ?」

「噂でしか知らないけど、魔法少女になった次の日にごうが溜まってそうな市民を無差別に業核ごうかく吐かせた上に本体まで殺したって話よ」

「アンタ、誰?人の悪口を言うなんていい度胸ね、ぶち殺されたいんですか?ぶち殺されたいんですね!?」

「悪口じゃないわ、事実でしょ」

「もう、ぶち切れたわ、あーあ、もうアンタ、死んだわ、ご愁傷さまー」


 唐突に変貌した優々菜ゆゆなひかり心乃葉このはがドン引きする。

 愛理らぶりは逆に切れたのか、喧嘩を買うような勢いだった。


「はっ、弱い犬ほどよく吠えるな」

「表にでなさいよ!このチビガキが!」

「こら!優々菜ゆゆなちゃん、ちょっと大人しくしてくれないかな」

「───はい!」


 意外なまでに素直に言う事を聞く優々菜ゆゆなに拍子抜けした心乃葉このはが、とりあえずリビングに通そうと優々菜ゆゆなの背中を触ろうとした。


「まぁ~、ここ玄関だし、とりあえずリビングに行こうよ」

「あ、何触ろうとしてんだよ。アタイに触っていいのは、ひかり様だけなんだよ!」

「───はい……」


 三人が揃って「とんでもねぇや」って思ったのは言うまでもない。

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