魔法少女はディストピアで夢をみる-告白したら性転換されて魔法少女やらされた挙句、親友の彼女になってしまった-

なのの

第1章

第1話 初恋の人との再会、そして体の異変

 魔法少女──

 それは脚光を浴びない都市伝説と言われる影の存在。それはとても強くて儚い。

 彼女は人外なるモノを一刀両断し、僕を救い出した。

 断面から吹き上がる血が体を濡らす中、僕はそれを舐めながら微笑んでいた。



──時は遡り、魔法少女と出会う前


 公園を歩いていると街灯がぱちぱちと瞬きをしていた。

 人気のない桜並木は咲き狂い、現実を忘れさせる幻想的な空間を彩っていた。


 中学に入ると同時に一人暮らしとなってから1年が経過した。

 父は単身赴任で海外に、母は小学校に入る前に亡くなった。

 その為、夜中に出歩いても親に怒られる心配がない、そんな孤独と自由を満喫するのは魔宮北中二年、御影みかげあかり、登校拒否歴二週間である。


 いつもの様にベンチに座り、桜を眺めていた。

 この桜がいつまで咲いているのか気にしながら炭酸飲料をちびちび飲む。

 気分はビールのつもりで、カンパーイなんて言ってみる。

 ぶっちゃけて言えば自暴自棄に片足突っ込んでる行動だと自覚している。


 あかりは中学2年生になった途端にとなった。

 理由は単純に思春期特有の病を患ったにも拘らずメンタルが打たれ弱かったせいだ。

 気持ちのいい晴れた二年の始業式の日に屋上に呼び出した。

 相手は三戸森みともり心乃葉このは、1年から同じクラスで、大人しい雰囲気から高嶺の花とも言われ、清楚な美人で試験でも学年上位20位内に常に入っている。そんな人気者になる要素は揃っている筈なのに、男子どころか女子に対しても接しようとしない。声を聞ければ幸運だと言われるほどの子だった。

 一目惚れから1年間想い続け、初恋の成就を願い、勇気を出して告白する。

 答えは『お仕事が忙しいから、ごめんね御影君』とあっさり玉砕。

 誰も見ていなければ良かったのだが、噂はその日の内に学内に広まって登校拒否処分に至った。

 今では失恋の事なんて全く気にしてないと、自分に言い聞かせた。


 腕輪型の幸福ハピネスカウンターは失恋から僅かに上がって『15.5』となって、それ自身も赤い光を放っている。

 登校拒否処分になった時は限りなくゼロに近かったから随分回復したと思えた。

 そのゼロに近い数値を見た親友は『お前は絶対帰って来ると信じてるからな!』と叫んだ。今思えば、その言葉のお陰で徐々に上がったのかもしれない。

 この魔宮市では5歳以上の着用が義務で、マイナスになると専門の施設に入れられるが、その施設を見た者は誰も居ない。一説では殺処分されているのではないかと噂されている。

 それが回避できただけ、あかりは運が良かった。

 だが、100を切った時点で周りにも影響が出るとされ、学校側から来ないでくれと登校を拒否られる。

 この状態になると、誰かに5分以上話しかけるだけで訴えられれば問答無用で有罪として裁かれる。それ故に『脱落者ドロップアウト』と呼ばれ、そんな人物だと明示する為に幸福ハピネスカウンターが赤く光る。

 社会不適合者、人生の脱落者という烙印を押されマイナスになるまでの僅かな期間、人生を半分諦めながら孤独を謳歌するのが一般的だ。

 不幸な者に人権がないという点では「幸福は義務」を掲げるパラノイアみたいな社会だ。


 幸福値は学校や会社、交通機関やコンビニ等、様々な施設でチェックされ、記録される。

 学生にはいじめ対策、社会人にはハラスメント対策といった目的で導入が進んだ。

 海外ではいじめる側に問題があるとされるのに対して正反対のアプローチだった事から注目を浴びた。

 その効果は高く、被害者を隔離した上で加害者を特定して罰を与える事は概ね評判がいい。

 間接的ないじめも含めて追及が厳しくなり、徐々に無くなりつつあるのが現状で一定の効果がある以上、徐々に反対派が排除されて今の安定した監視社会が完成しつつあるように見えた。

 将来的には監視する情報量を多様化し、仕事先の適正まで自動的に決定するシステムの研究が進められているらしい。その為の第一歩として、試験的に学生に対して採血が実施されたが、その結果はまだ公表されていない。


 公園というのはあかりみたいにただ意味もなく自由を満喫している人ばかりとは限らない。ガサゴソと音を立てて何かをしている人がいて、今日もそんな輩が居る場所の目星をつけていた。

 あかりは「これは覗きじゃない、不審者がいないか確認するだけだ」と自分に言い訳をしつつ、いつもの様に音のする方に近づいた。

 おおよそ、その先に居るのはカップルだという事は分かっている。実はイイ感じの場面を覗けたとしても幸福値が上がる訳ではない事は後になって知る事になる。それで上がるなら風俗は大盛況だが、この時のあかりは上がる事を信じて行動していた。


 こっそり覗き込むと、まず女の子が目に入った。

 あかりと同じくらいの背丈で、腰まであるストレートヘアに同じ学校、同じ学年のジャージを着ている。

 その子は持っていたシャベルで穴を掘っていた。

 期待したモノと違っていたせいで落胆しそうになるが、そこに有り得ない物が目に入る。

 それは傍らに横たわっている物、というか者、というか人だった物?

 徐々にそれが何か、何だった物かを脳が認識する。


「死体?」


 頭に浮かんだ言葉をうっかり口にだしてしまった。

 咄嗟に身を隠すと、彼女が近づいて来る足音がする。

 その場から逃げ出そうとするが、足がもつれてその場に転がってしまう。

 訳が分からず足元を見ると七色に光る紐状の物が巻き付いていた。


「逃げないでよ、御影君」

「え?三戸森みともりさん!?」


 闇夜にうすら笑う彼女の表情に恐怖を感じた。

 好きだった感情は何処へ行ったのか最早恐怖しか感じなかった。


「ねえ、手伝ってよ。こういう汚れ仕事嫌いなの」

「嫌だよ、死体遺棄の片棒なんて担ぎたくない!」

「御影君にはこれが人の死体に見えるの?」

「暗くて分かんないって!」


 彼女が自ら汚れ仕事と言った事をあかりは暗殺・殺人と言った裏家業を連想し恐怖した。

 例えそれが人ではなくても夜中に公園で何かを埋めてる時で危険人物だ。

 いくら初恋の相手だからといってもこんな事に付き合いたくないとあかりは思い、手元の土を握り彼女の顔に向けてぶちまけた。

 彼女に目つぶしを食らわせると足の拘束が解かれ、あかりはその場から逃げ出した。


 自宅に向かって走ったあかりは生きた心地がしなかった。

 久し振りの全力疾走に息を切らせつつ、十分走ったと思って振り返ると道は暗く静まり返り、街灯が誰も居ない領域を照らしていた。

 どうやら危険は回避できたと安心したその時、背後から声がした。


「ひどいよ、御影君」

「うわあああああ!」


 回り込まれたことに驚いて、尻もちをついた。

 最早逃げる事は叶わないと死を覚悟するあかりだった。



──それから30分後...


 あかりは「どうしてこうなった」と混乱する頭を整頓していた。

 彼女はあかりの家でシャワーを浴びていた。

 思春期なりの緊張と、得体の知れなさからの恐怖が錯綜する。

 幸福ハピネスカウンターは『20.1』とかつてない上昇値となっている、恐怖より期待の方が高いって事かと思い「ありえないだろ!」と自分に言い聞かせる。


 バスルームから出た彼女は体にバスタオルを巻いているという無防備な姿だった。

 気のない男に対してそんなことするだろうか?

 暗闇なのに名前も直ぐに出てきた事から、実は付き合いたかったのかと邪推する。

 そして、彼女の発する言葉はその全てを肯定した。


「ねぇ、私のお仕事手伝ってくれるなら、告白の返事、OKでもいいよ?」


 あかりにとっては彼女の煽情的な姿もあいまって、その返事は言葉以上の意味として受け取った。つまりは『肉体関係に発展してもいいよ』と言われたと思ってしまった。

 だが、危険なお仕事とはなんだ?自分に出来る事か?それは犯罪の片棒なのか?自分も誰かを殺さないといけないのか?と、疑問が次々と湧いて来る。

 危険感知能力が警鐘を鳴らすのと同時に、これはドロップアウトからの脱却になる期待を持ってしまう。

 天秤にかけるまでもなく、答えはすぐに出た。


「へぇ、じゃ、じゃあさ──」

「うん?にエッチな事したいの?」


 彼女は自分の胸元に指をかけバスタオルを少し浮かす。

 思わず、そのささやかな胸元を凝視し、生唾を飲んでしまう。

 誘われている事は明確だ。自分だけに特別の感情を抱いてくれてると確信する。

 据え膳食わぬは男の恥というが、これは──いいのか?中二だぞ!?


「──わかった。でもちょっと後を向いて目をつぶって」

「うん……、こうか?」


 大人の階段登ってしまうと思ったが、これで本当にいいのか自問自答する。

 ゴムは無いしデートも飛ばしていきなり肉体関係が許されるのか、彼女はそれでいいのか。

 だが、こんなチャンスはもう無いかもしれない。


「もうちょっとそのまま動かないでね、お仕事手伝ってもらうのに必要な事だから」

「うん………、うん?お仕事?」


 本当にお仕事って何なのだろうかと疑問符が脳内に溢れる。

 この場でできる仕事の準備なんてあるのかと考えるが、何も思いつく物はない。

 目をつぶっているというのに、周りが異様に明るく感じ始めた。

 さらには体が熱く、風邪でもひいたのだろうかと思うあかりだった。

 興味半分に恐る恐る薄っすらと目を開けると周りが異様に明るい光に包まれていた。かと思えばあかりの体が七色に光り輝いている。


「うわあああ!なにこれ!?」

「あ、もう終わるよ」

(まって、今の僕の声、妙に高かったぞ、まるで──)

「はい、かんりょー!」

「僕の体に何したの!?」


 徐々に光が収まるのと同時に体全体、特に股間に違和感があった。


「無い、僕のアレが無い!」

「うんうん、可愛い可愛い──って、なによこれ!胸大きすぎぃ!」


 言われて気になったので、胸に手を当てる。

 手からはみ出る程に膨らんでいる、これって何カップだろうかと考えてしまう。

 ささやかな大きさの彼女が睨みつけるのも仕方がない。


「早速、自分の胸を揉むなんてやっらし~。よかったね女の子(自分)とエッチし放題だよ」

「嫌だよ!戻して!」

「ごめ~ん、それ無理(えへっ)でもさ、御影君……御影ちゃん、幸福値、メッチャ上がってるじゃん?」


 ハッとして手首に目をやると値は『105.9』となって腕輪自身の発光は黄色に変化していた。

 ドロップアウトからの脱却が叶ったと喜ぶべきなのだが、女体化のせいで素直に喜べない。


「えええ、どういう事!?」

「こんなに大きな物を揉めたんだから、当然よね。私にも揉ませろ~」


 そんな事を言う彼女はあかりを背後から両胸を鷲掴みにし、激しく揉みくだす。

 あかりの体は悲鳴を上げ、異常とも言える未体験感覚が怖くなって家から飛び出した。

 兎に角、彼女から離れたい。その一心で走るあかりだった。


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▼TS導入で始まった1話、どうだったでしょうか。

 とりあえず、一話冒頭の回収がある二話までは読んで貰えると嬉しいです。

 ある程度の流れを決めてから色々と模索しながら書いているのでこの先どうなるかは私にも決めかねています。面白いコメント頂ければ極力取り入れたいと思います。

 ただ、清純派絶対マンの方にはお勧めできないと思います。きっとドロドロしちゃいますよ。

 極力、GW中くらいは1日1話更新目標に頑張ります。

 よければ、応援と評価、感想、コメントを宜しくお願いいたします。(切実)

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