第17話 相合傘

 雨が降っている。

ザァザァと音を立てながら激しく雨が降っている。

 そしてとある学校の昇降口にて、一人の少年と少女が何やらくっついていた。


「雪音‼︎くっつきすぎたお前は……」


「そうでもしないとキミの肩が濡れるでしょ‼︎ほら現に傘からはみ出してるし。」


「こればっかりは仕方ないだろ。どうしてもそうなっちゃうんだから」


 結局のところ、いくら近くでくっつこうが少しばかり濡れてしまう。これはもはや仕方のないことなのだ。ちゃんとした大きい傘ならいざ知らず、折りたたみ傘となるとどうしても小さくなってしまう。それ故に二人で入るとなるとはみ出してしまう。


「だからこうしてボクが抱きついてるんでしょ?」


「別に俺は大丈夫だから……結局少しばかりは濡れるしな。」


「大丈夫じゃないですー。その少しばかりの部分を濡らさないようにしたいの‼︎」


「いや、そればかりはな……折りたたみだとどうしてもはみ出ちゃうんだよ。ある意味この傘の宿命だろ。」


 本当にこればっかりは仕方のないことなのだ。二人の面積に対して、折りたたみ傘の面積は些か小さいのだから。


 結局、瑞希が雪音に抱きつかれることは変わりなく、なんならさっきよりギュッと抱きつかれているのでは?と思いながら左肩あたりを雨で少し濡らし歩いて行く。


「「……」」


 ……ただやっぱり恥ずかしかったりする。瑞希としてはこんなにも、息が顔に当たるくらいまで近くに近づかれたことなどないし、なんなら異性である。雪音としては相手が相手なのだから押して測るべしである。


 もはや話すことなど無く、駅まで着いてしまった。


「瑞希……ありがとね。」


「えっ?」


 何か感謝されるようなことをしただろうか?


「いや、ボクのわがままを聞いて貰ったからね。」


「わがまま?」


「そ、わがまま。相合傘をして帰るっていうわがまま。聞いてくれたでしょ?キミは。」


「あれってわがままだったの?普通に一理あるなと思ってたんだけど。」


「確かにあれもその通りではあるんだけど……断られたら別案出そうと思ってたしね。ボクが相合傘、キミとしてみたかったっていうのもあるからさ。」


「なるほどね。まぁ別にお礼を言われるほどではないと思うんだけど、まぁはいこれ貸すから今日は持っとけ。今度返してくれればいいから。」


 そう言って折りたたみ傘を雪音に差し出す。


「えっ、いや、ボクあとでビニール傘でも買うから大丈夫だよ?それに瑞希が渡しちゃったらキミのなくなるでしょ?」


「あぁ、いいのいいのバスで帰るつもりだし。雪音の方は歩きだろ?わざわざ新しく買うほどでもないからな。ほら遠慮せずに受け取れ。」


 折りたたみ傘を雪音に押し付ける。


「はぁ分かった。キミの好意に甘えるとするよ。そのかわり風邪なんて引かないでね?引いたら怒るよ。いい?」


「あっ、はい。分かりました。」


 そんなこんなで電車に乗り、その後二人は別れ、自宅へ各々帰宅した。


──そして次の日、


「ゴホッ、ゴホッ。あぁ、熱測ろ。」


 案の定というべきか、瑞希は風邪を引いていた。

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