第15話 雨

 どんよりとした、白色ではなく黒色に染まった雲が空一面を覆っていた。そして天からは無数にも思えるような水粒が降り注ぎ、激しい音を立てて地面を叩き、霧のように飛沫を上げる。

 その様子を教室の窓から見ていた青髪の少女は静かため息を吐く。


「なんで急に降ってきちゃったかなぁ……傘、持ってきとけばよかった……」


 雨が降っていた。

それも激しく、轟々と降っていた。


 憂鬱な感情を抱きながら、しょんぼりとした表情で窓の外を眺めていると、彼女の元に声がかかった。


「雪音、どうした?そんなに浮かない顔をして……」


 そう声をかけてきたのは彼女の想い人である瑞希。


「あれ?瑞希?……先生に呼ばれたんじゃなかったけ?」

 

 雪音の記憶が正しいければ彼は、6時限目の教科の先生に帰りのホームルームが終わったら手伝って欲しいことがあるとかでさっき教室から出て行ったはずだ。それからまだあまり時間がだっていないので早いなと、疑問に思う。


「ん?あぁ単なる荷物運びだったからな。

すぐ終わらせてきた。あまりお前を待たせるわけにはいかないしね。それで、なんかあったか?」


 さっさと頼み事を終わらせて戻ってきたら何やら雪音が窓の外を眺めながら、浮かない顔をしているのでどうしたんだろうかと思い、思わず聞いてしまった。


「……雨。」


 小さな声で一言呟き。


「雨が、こんなに降ってるのに……傘、忘れた……」


 今にも消えそうな声でそれ彼女は瑞希に喋った。


「あぁ、なるほど。確かにこの雨じゃ傘なしで帰るのはなぁ。」


 納得がいった。道理であんな表情をするわけだ。こんなに雨が激しく降り注ぐ中、傘なしで帰るなんて嫌に決まっている。


「じゃあ俺の折りたたみ傘かそうか?一個あるし。」


 そう瑞希は雪音に提案した。

確か一個持ってた筈だ。それを雪音に貸せば帰れるでしょ。そう思ったので彼女にそう提案した。そして、バックの中を探り、折りたたみ傘を持って取り出して彼女に渡す。


「……その気持ちは嬉しいんだけどさ。多分キミが持ってるのってその一つだけでしょ?ボクに渡したらキミの傘がなくなるけどどうするつもり?」


「確かにそうだけど、まぁ雨が止むまで待ってればいいだけだろ?」


「うん、やっぱりか。それじゃあこれは返すよ。キミがまだ傘を持ってるんだったらありがたく借りるけど、そうじゃないでしょ?」

 

 そう言って瑞希に渡された折りたたみ傘を返す。


「いや、別にいいんだけど。雨が止むまで待ってるなんて苦痛でもなんでもないからさ、雪音はほら、暗くなる前にさっさと帰りな。」


「やだ、嫌。キミが残るんならボクも残る。

何がなんと言おうと嫌だ。」


 嫌に決まっている。瑞希を置いて帰るなど言語道断である。


「嫌じゃなくてね。俺はさっさと帰れって言ってるの‼︎」


「だーかーらー、嫌。キミを置いて帰れるわけないでしょ‼︎」


「雨が止むまでまだ全然かかるんだから帰るのが遅くなるの‼︎」


「だから何?別に遅くなったっていいでしょう?」


「……」


「……」


 帰れ、帰らないの論争が少し止まる。

そして雪音が何か思い付いたように言葉を発する。


「分かった。キミの折りたたみ傘を借りて帰ろう。」


 やっと分かってくれたかと、瑞希は心の中で安堵するが、続けて雪音は喋る。


「そのかわり瑞希も一緒ね。」


「はい?」


 何が一緒だと言うのか。


「あぁ、分からない?傘が一つしかないんならその一つを一緒に使おう?

相合傘。そうすれば二人で帰れるでしょ?」

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