第7話 二人で登校

 瑞希の朝は早い。

日の出よりも少し前、およそ4時半くらい、目覚ましの音と共に覚醒する。

 もはやこれは習慣付けてあり、前日によっぽどのことがない限りはこの時間帯には起きている。


 彼が起きてまず最初にすることは、顔を洗うこと。

その後珈琲を淹れて、朝食作りを開始する。

とは言ってもそう大層なものではなく簡易的なものではあるが。

 出来上がった朝食は自分の部屋に持っていき、連絡などが無いか確認しながら食べる。

何か返信するものがあれば食べ終わった後に返信をする。

 ここまでおよそ40分弱といったところか。

 

 そして歯磨きをし、パジャマから制服に着替えて、学校に行く準備をする。


 瑞希が家を出る時間は6時40分過ぎである。

それまで、余った時間は自由時間となる。

 ただ今日は、いや今日からはと言った方が正しいかもしれないが、少し予定が変化したので、時間を早めて自宅から出発した。


 その後自宅の最寄り駅から電車に乗り、学校の最寄り駅には向かわず、途中のある駅で降りた。

 理由は単純、ある少女と一緒に登校する約束をしたからである。


 瑞希は混み合った電車から降りると、連絡のあった場所まで歩いて行く。ホームは通勤や、通学の人々でごった返していたが、案外簡単に見つける事が出来た。

 

 彼女は鞄を持ちながら、そして何やら大きな荷物を足元に置いてベンチに座っていた。

ただ案の定と言うべきか人目を引いていた。まぁそれのおかげで早く見つける事が出来たのだから良しと取るのかもしれないが。


「雪音、おはよう。」


 瑞希は彼女に向かって歩きながらそう声をかけた。その声を聞いた雪音はチラリと音の発せられた方へと視線を移す。

その存在を目に入れた瞬間、彼女の顔が嬉しそうなものへと変化する。


「……っ‼︎ おはよう瑞希。」

 

 彼女もまたそう返す。


「予定より来るの早かったね。」


「まぁちょっと早めに出ようとかと思ってね、前みたいにならないようにな。で、その紙袋はなんだよ?」


 雪音が腕時計を見ながら言い、

瑞希が彼女の足元に置いてあった紙袋を見ながら言葉を返す。


「えっ、あぁこれね、教科書だよ?今日から普通に授業あるでしょ?」


 紙袋を足元から横に移動させ、中身を見せる。


「あぁ本当だ、重かっただろこれ?

というか今日こんなに必要とするくらい授業あるわけじゃ無いぞ。」


 瑞希の言う通り今日、ここに入っているであろう量の教科書は使わない。


「まぁそうなんだけどさ、ボクとしてはもう一気に待ってちゃおうかと思って。」


「だからってこんな一気に持ってこなくていいだろうに、……仕方ない、ほら少しの間これ借りるぞ。」


 そう言って置いてあった紙袋を手に持つ。


(おぉ、結構あるな、本当によく持ってこようと思ったな。)


 それを見た雪音が抗議の声を上げる。


「あっ!それ、ボクが持つからわざわざキミが持たなくてもいいのに……」


「こんな重いの持つの大変だろう?」


「でも、キミに持ってもらう理由なんて無いよ。ボクのだし、それ。それにこのくらい大丈夫だから。」


「理由?俺が持ちたいって理由があるけど?どうせ混んでて座れないし。それにもう俺が持ってるんでね、教室に着くまでは渡さん。」


「……」


 雪音はいかにもボクは不満ですといった顔を隠さずに瑞希へと向ける。


「はぁ、そんなに持たれるのが嫌か?

不満なら後でう○い棒でも奢ってくれればいいよ。」


「……分かった、キミにそれを持つのを頼むよ。ただし‼︎もっと高いやつを奢るよ。流石に10円じゃあ安い。」


 まだ、納得はしてないが、引き下がりそうに無いので何か奢るということで、手打ちにする。


「うま○棒は値上がりして10円から12円になったぞ。」


「いや、細かいな‼︎」


 思わず瑞希の指摘にツッコミをいれる。

そんなこんなで話している内に、


『まもなく3番線に電車が参ります。危ないですから白線の内側までお下がりください。』


 といった電車の到来を告げる、アナウンスが流れる。


「ほら、そろそろだぞ。」


「うん。あっ瑞希ちょっと。」


 雪音がベンチから立ち上がり、瑞希を引き留める。


「ん?なんだ?」


「ありがとね、それ持ってくれて。」


「おう。」


 ただ一言。

雪音の感謝の言葉にそう返すと、彼女を引き連れ電車に乗り込んだ。


 そこから数十分電車に揺られ、学校の最寄り駅で降りる。そしてさらに歩き、8時過ぎには学校へと着いた。

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