第95話 返事はちゃんとしよう!


「………………」

「…………くッ!」


 無言で見下ろして来るルーテに痺れを切らし、次元斬を放とうとするオリオン。


「今です!」


 同時に、ルーテが叫んだ。


「ぐはあああああああああああッ!」


 彼の放った無詠唱の攻撃魔法によって、オリオンの体は派手に爆発する。


「き、貴様ァ……!」

「………………」

「まさか……のかぁッ!」


 そこで、ついにオリオンが気付いた。


「そうか、そうなんだな! 私の能力を知っているんだなッ!」

「……………………」

「何とか言えよおおおおおッ!」


 悲痛な叫びを発するオリオン。もはや、現在の彼に序列一位の威厳はない。哀れである。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 自身が詰んでいる事を明確に理解したオリオンは、心を落ち着かせ、必死に現状を打破する方法を考える。


「大丈夫かルーテ! 儂も助太刀するぞ」

「ボクも来たよ! ……っていうか、なんで動かないの?」

「オリオンは、攻撃する瞬間にしかダメージを与えられません! だから、こうしてずっと待っているのです!」


 ――だが、考えている間に状況が悪化した。


「なるほどー。つまり、コイツが怪しい動きをしたら攻撃すれば良いんだね!」

「呆気なさすぎるのう。――――では、動いたら斬るとしよう」

「く、くそ…………ッ!」


 ルーテ、ゾラ、老人の三人に囲まれ、絶体絶命に陥るオリオン。


「そろそろ待ちくたびれました。早く攻撃してきてください!」

「………………」

「早く! 早く! 早く!」


 一方、ルーテは集中力が切れかかっていた。


「……! ……フフフッ!」

「で、出た! オリオンの得意技『不敵な笑み』です! この無駄な行動の後は、危険な攻撃を仕掛けて来る可能性が高いので注意しましょう!」

「…………チッ!」


 自分の行動を丁寧に解説されたオリオンは、少しだけ不快な気持ちになる。


 しかしそれよりも、この危機的状況から逆転する術を思いついた喜びの方が大きかった。


「――残念だけど、これで君たちはお終いだ」

「何でもいいから攻撃してください!」

「君は黙っていろッ!」


 この場には、使い捨ての駒として利用できる存在が居るのである。


「ファン! コイツらの注意を逸らすんだ!」


 オリオンは、円卓の脇で微動だにせず待機していたファンに向かって叫んだ。


「………………」


 ――しかし返事はない。


「どうしたファン! なぜ私の命令に従わない!」

「気づいていなかったのか?」


 その時、老人が言った。


「どういう……ことだ……!」

「あやつは、儂の最初の攻撃で既に斬られておる。――動かんかったからのう」


 次の瞬間、ファンの全身はバラバラと崩れ落ちていく。


「う、うわぁ……」

「ゾラ、お主は見ちゃいかん」

「す、すごいです!」

「ルーテ! お主もじゃ!」


 老人は慌てて二人の前に立ちはだかり、グロテスクな肉塊と化したファンを見せないようにする。


「二人には刺激が強すぎるからのう」

「えー」

「僕はもともと興味ありません。あの人はドロップアイテムを落とさないので」


 一方、オリオンは


「なん……だと……」


 起死回生の一手を封じられ、呆気に取られていた。


「終わりじゃな」

「…………い、いや、まだだッ!」


 だが、それでも彼は諦めない。終盤のボスはしぶといのである。


「……仕方がない。この姿は醜いから見せたくなかったのだが……君達には特別に見せてあげよう」

「……何じゃと?!」


 オリオンは全身に力を溜め、自らの身体を変化させていく。


「ぐッ、グおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 そして、黒い羽に大きな角を持った悪魔のような姿になった。


「な、なんと悍ましい姿じゃ……!」

「第二形態です! ステータスは上がりますが他の能力は軒並み弱体化するので、こうなってしまえば後は消化試合ですね!」

「もうじき、君達は後悔する事になる。――私をこの姿にしなければ、地獄を見ず死ねたのに……とね」


 悪魔のような姿で、いつものように嗤うオリオン。


「せいぜい、死神に祈っておくことだ。――早くあちら側へ連れて行ってもらえるように」

「意味が良く分かりません!」

「子供には難しかったかな? つまり――今から君達は! この私によって! 死ぬよりも辛い目に遭わされるということさッ!」

「なるほど?」

「覚悟しろッ!」


 ――数分後、そこには『友情の首輪』に繋がれたオリオンの姿があった。

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