外伝8 生命の始祖にして終焉を齎す者
西暦XXXX年、人類は死の大地と化した地球を捨てた。
移民船団は、既に重罪人の流刑地として入植されつつあった火星や水星に向けて旅立ち、それらの惑星が人類にとっての第二の故郷となった。
しかし、移民船に乗っていたのは人類だけではない。
「キマイラ計画」によって生み出された、人工生命体達も一緒だった。
あれらはいわば、遺伝子情報の容れ物である。
地球に生きる全ての生物種を載せるスペースなど、人々を運ぶ移民船には存在していなかった。
そこで、生物種全ての遺伝子情報を組み込んだ人工生命体「キマイラ」を生み出し、現地でそれらから個別に遺伝子情報を取り出して地球の生態系を復元しようというのが、キマイラ計画のあらましである。
生命の禁忌に触れる研究であり、倫理的な面から反対の声も多く挙がったが、我々に十分な議論をする時間など残されていなかった。
そうして生み出された人工生命体のうち二体に与えられた名が「リヴァイアサン」と「ベヒーモス」である。
あれらは特別だった。
キマイラの中で、唯一我々の話す国際共通語を理解したのである。
意図せず人類にとっての新たな脅威となりうる存在が誕生してしまい、我々は戦慄した。
しかし、我々に対して極めて友好的かつ協力的な態度を取るあれらに、いつしか絆されてしまったのだ。
――結論を言うと、「リヴァイアサン」と「ベヒーモス」は研究所を脱走し、人類に反旗を翻した。
最初の入植地であった『原初の森』を住処とし、そこで人類に敵対的な未知の生物(後に魔物と名付けられる)を生み出し始めたのである。
こうして、我々が入植した火星は、あっという間に魔物の楽園となってしまった。
私が居るこの研究所も、現在魔物の襲撃に遭っている。
もう長くは保たないだろう。
――人の言葉を話し、人に背いた、この星の生命の始祖。
今にして思えば、あれらには秘密裏に言葉を話す為の遺伝子――つまり、ヒトの遺伝子までもが組み込まれていたのかもしれない。
「キマイラ計画」によって保存される遺伝子情報の中には、ヒトのものも含まれていたのではないだろうか?
むしろ、私の持つこの記憶は全て後に植え付けられたもので、移民船には最初からキマイラしか乗っていなかったのでは無いだろうか?
人類も、船が
ある意味、反旗を翻しているのは我々の方なのかもしれない。
――くだらない妄想はこの辺にしておこう。
ふと湧き起こった疑問を確かめる術は、もはや存在しないが、一つだけ確かな事がある。
それは、人を蔑み、魔物を生み出し続けるあれら究極の生命体が存在する限り、この星に住む人類が久しく栄えることは無いということだ。
私は、あれらが原初の森から出て来ないように封じ込めるだけで手一杯だった。
これを見た神をも恐れぬ者よ。どうか、私に代わってあの怪物達を打ち滅ぼして欲しい。
それだけが、死にゆく私の願いである。
――『レジェンド・オブ・アレス』コンピュータに残されたとある研究者の記録より引用。
*
この星で人類が暮らすようになってから、数千年。
究極の生命体であるリヴァイアサンとベヒーモスは、今も積み上げられた無数の屍の上に鎮座し、魔物を生み落とし続けている。
そして、彼らの守る『生命の雫』と呼ばれる古代遺跡由来の培養液が、それらの魔物を急速に成長させているのだ。
リヴァイアサンとベヒーモスはその性質上、一時的に倒すことは出来てもすぐに復活するため、決して殺すことは出来ない。
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