外伝6 愉快なレベル上げ


「クソッ! クソクソクソッ!」


 トワイライトは、ローパーがドロップした短剣を振り回し、迫りくる魔物達を八つ裂きにしながら絶叫した。


「死ねええええええええええええええッ!」


 彼女の八つ当たりによって、魔物達は次々と蹴散らされていく。


「なんでアタシがこんな目に遭わなきゃいけねぇんだッ! イカレてやがんだろクソがよおおおおおおおおッ!」


 ――懸賞金目当てのクソ冒険者じゃない一般人は数えられるくらいしか拷問にかけて殺していないし、例のクソ富豪のクソメスガキだって身代金さえ受け取れば半殺し程度の拷問に留めて返すつもりだった。


 そんな慈悲深い自分がなぜこのようなクソ理不尽な目に遭わされているのか、彼女にはまるで理解できない。


「アタシに生皮を剥がれて死ぬ方が悪ぃんだよオオオォッ!」

「ギシャアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 トワイライトは怒りに任せて近くに居たクソローパーの触手を引きちぎった。


「ギエエエエエエエエエエエエエエエエッ!」


 今のは魔物の鳴き声ではなく彼女の叫び声である。


「はぁ、はぁ……アタシより悪いことしてる奴なんざ腐るほどいんだろうが……。それなのに、アタシだけがこんなクソ薄気味悪ィ場所に閉じ込められていいはずがねェよなぁ? テメェもそう思うだろあぁん?」


 触手を引きちぎられて弱り切ったローパーを足蹴にし、執拗に痛めつけるトワイライト。


「死ねッ! 死ねッ! 死ねッ! 死ねえええええええええッ!」

「ギィっ! グっ! グムッ! ギィィィィィィィィッ!」


 ローパーは小さな悲鳴を上げながらどんどん弱っていく。


「……てめえらもだぜゴミクズどもが。死にてぇ奴からかかって来い。せいぜい苦しめてやっからよおおおおおおッ!」


 トワイライトは、周囲で様子を伺っていた他の魔物達に向かって叫んだ。


 恐れおののいた魔物達は、彼女から一斉に離れていく。


「おぉ、神よ!」


 その時突然、トワイライトは地面に両膝をついて手を合わせた。


「――テメェもただで済むと思うなよォッ! 生かしたまま細切れにして魔物のクソにしてやるからなあああッ!」


 怒り狂う彼女を鎮められる者は、もはや存在しない。


 しかし、彼女を無力化できる魔物はこの場所に幾らでも存在している。


「………………あ?」


 ――びちゃっ、びちゃっ、びちゃっ。バチバチッ。


 トワイライトの前に姿を現したのは、帯電した巨大な黄色のスライムだった。


「な、なんだこいつ……!」


 今まで見た事も無い魔物の姿に、思わず後ずさるトワイライト。


 そのスライムは、雷エレメントと、ビッグスライムが融合した新種だった。


 第一セクターに居るのは、ただのスライムやローパーやエレメントだけではない。


 ルーテが持ち込んだ数種類の魔物が混ざり合いながら増え続けた結果、モンスター図鑑に記載されていない魔物の巣窟と化してしまったのである。


 一応、ルーテもこの事実には気付いているが、「魔物合体……! これが隠しルートにおける目玉の新要素なのですね……!」としか思っていない。


 仮に、この場所に居る魔物が全て外へ解き放たれた場合、ウムブラは滅びるだろう。


「あ、ありえねぇだろこんなの……!」


 トワイライトは思わず後ずさった。


 次の瞬間、地中から飛び出した触手が彼女の脇腹を貫いて燃え上がる。


「があああああああッ!?」


 酸を分泌するアシッドローパーと、火エレメントが融合した魔物が、地中から彼女のことを狙い撃ちしたのだ。


「クッソォ…………ッ!」


 致命的な攻撃を食らい、その場に倒れ伏すトワイライト。


 彼女の周りに、ビッグ雷スライムや、その他隠れていた融合種の魔物達が集まってくる。


 うめき声のようなものを発する塊、地面を溶かす毒液を分泌する触手、複数のエレメントを纏いながら空中を飛ぶ目玉。


 それらに囲まれながら、トワイライトはゆっくりと目を閉じていく。


「こんな……クソみてぇな終わり方なのか……ッ!」


 絶体絶命のその時。


「うおおおおおおおおおおおおお!」


 ノックスが雄たけびを上げながら彼女と魔物達との間に割って入り、手に持った巨大なノコギリを振り回して一瞬で敵を薙ぎ払っていく。


「オレたち、まもの、やっつけるッ!」


 彼は、血だらけになって気絶しているホワイトを小脇に抱えていた。


「……だいじょうぶ?」

「クソが……おせぇんだよォ……!」


 助けに入ってくれたノックスに対して悪態をつくトワイライト。


「そんなイカレ野郎より……アタシを先に助けやがれ……ぇッ!」

「……わかった。オレ、つぎから、そうする」


 ノックスはそう言うと、抱えていたホワイトをぶん回し、遠くで様子を伺っている魔物の群れに向かって投げつけた。


「………………」


 気絶しているホワイトは、無抵抗で真っすぐに魔物達へ向かって飛んでいく。


 ――――刹那、彼は開眼した。


「天使がいっぱいだあああああああッ! バラバラにして血でお化粧してあげないとおおおおおおッ!」


 意味不明なことを口走りながら魔物の列へ突っ込み、懐から取り出した斧を振り回し始めるホワイト。


 精神が崩壊し、更におかしくなってしまった彼には、魔物達が全て弟の姿に見えていた。


「あ、あはは、あははははははッ!」


 地獄のような光景を目の当たりにし続けたトワイライトは、何もかもがおかしくなり、唐突に大声で笑い始める。


「傑作だぜっ! いいぞやれッ! やっちまええッ!」

「オマエも、がんばる」

「…………は?」


 ノックスはトワイライトの足を掴み、先ほどと同じようにぶん回して魔物の群れへ投げつけた。


「ああああああああああああああああああああッ!」


 こうして、何もかもおかしくなってしまった三人の愉快なレベル上げが始まったのである。


 やがて彼らは、屈強な戦士として生まれ変わるのだ。

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