第61話 魔物牧場(仮)
魔物サンドバック道場の次にルーテが向かったのは、ウムブラにある魔導研究所だった。
「ここはずっと寒いですね……」
魔法で身体を保護しているのにも関わらず、身震いするルーテ。
ショートパンツを着用したまま極寒の地を突き進んでいるので当然である。
「と、とにかく……早く中へ入りましょう」
ルーテは凍えながら研究所の入り口の鍵を開け、内部へと足を踏み入れた。
ちなみに、扉に鍵を付けたのはルーテである。
彼は現在、この場所を無断で使用しているのだ。
「特に異常は……無さそうですね!」
屋敷の中へと足を踏み入れたルーテは、周囲を見渡して呟く。
屋敷内は何故か綺麗になっていて、掃除も隅々まで行き届いている様子だ。
それから、ルーテは入口付近の壁を調べ、地下へと続く隠し階段を出現させる。
そうして、秘密のラボへと続く、破壊された厳重な扉を通り抜けるのだった。
(みんな元気に繁殖しているといいのですが……)
――地下研究所は、元々地中に埋まっていた巨大な遺跡――古代文明が残した生物研究施設を再利用して作られたものだ。
その為、以前ルーテが探索した場所よりも更に下に、未使用の区画が存在している。
(ラスボスであるミネルヴァを仲間にして隠しルートに入ったのですから、ここにはまだ何かが隠されているはずです!)
そんな仮説の元、何度か研究所を訪れて探索していたルーテは、偶然その区画を発見したのだ。
隠された研究所の更に地下深くに存在する隠しダンジョン。そんなものを見つけてしまった彼は、歓喜に打ち震えた。
現在、ルーテは自分が隠しルートに入ったことを以前よりも強く確信している。
やがて自分たちの前に姿を現す裏ボスを撃破する為にも、レベル50程度で満足して立ち止まっている訳にはいかないのだ。
――閑話休題。
新しく発見した隠しダンジョンは、通常のダンジョンとはまるで様子が違った。
中央部に存在する
おまけに五つのセクターは、メインセクターにあるコンピュータを通じて環境を制御し、様々な自然環境を再現することができる。
それによって、ありとあらゆる生物の飼育を可能としているのである。
コンピューターを適当に操作すると、対応するセクターの環境が変化することに気付いたルーテは、隠しダンジョンの用途を一瞬で理解した。
(つまりここは……ダンジョンを自分で造り出せる場所という事ですね! 恐るべき追加要素です……!)
……正しく理解はしていないが、問題ない。
(魔物牧場が作れてしまうではありませんか……!)
そうして彼は、暇を持て余していた魔物研究の第一人者(※ルーテの勝手なイメージ)であるシャーディヤに協力を仰いでこの場所のシステムを操作し、洞窟に生息する魔物が最も快適に過ごすことのできる環境を、第一セクターに作り出した。
そこへ、捕まえて来た雑魚モンスターを数体放り込んで放置し、完成したのが第一セクター、魔物牧場(仮)なのである。
*
地下研究所を通って隠されたメインセクターへと到着したルーテは、エレベーターを起動して第一セクターへと降りていく。
そこは薄暗い洞窟のような場所になっていて、無数の何かが蠢き這いずり回る音がそこらじゅうで反響していた。
――ずぞっ、ずぞぞぞっ、ぐちゃ、ぐちゃ、うねうねうねうね、ずっ、びちゃっ。
「……………………」
思わず耳を塞いで逃げ出したくなるような悍ましい空間だが、ルーテはむしろ喜んでいる。
「…………いい感じに増えていますね! 嬉しい限りです! 一年放置した甲斐がありました!」
第一セクターには現在、繁殖力が高い雑魚モンスターであるスライムとエレメントに加えて、それらを捕食して増え続けるローパー達が無数にひしめき合っていた。
普通の人間がこの場所へ入ればあっという間に餌となり、分解されて骨も残らないだろう。
しかし、圧倒的強者であるルーテのことは、魔物達の方から避けてくれるのだ。
「……では、早速皆さんを呼びましょう!」
第一セクターでしっかり魔物が繁殖していることを確認したルーテはそう呟き、懐から『友情の鈴』を取り出す。
これを鳴らすことで、『友情の腕輪』を装備した人間を自分の元へ転移させることができるのだ。
「皆さん集まってください!」
ルーテが言いながら鈴を鳴らすと、彼の前にノックス、ホワイト、トワイライトの三人が現れる。
「ここ、くらい。おちつく」
「わぁすごい、おかしな場所に来ちゃったぁ! ……って、うるさ……テンション下がっちゃうなぁ……」
「殺してやる……全員ぶっ殺してやるうううううッ! クソどもがあああああッ!」
異常者二人に取り押さえられて無理やり腕輪をはめられたトワイライトは、相変わらず絶叫しながら暴れ回っている。
「またまたさっきぶりです! 皆さん!」
「……ねえ、君。僕らをこんな魔物だらけの場所へ呼び出して、一体どういうつもりだい?」
明らかにがっかりした様子のホワイト。
彼に魔物をいたぶる趣味はない。魔物の血は汚いからだ。
「はい! 皆さんにはまず、僕が呼び戻すまでひたすらここでレベル上げをしてもらいます!」
「ふざけないでくれよ……僕は魔物とじゃなくて君と遊びたいんだけど……?」
「嫌です。今戦っても経験値にならないので」
「そ、そんな、あんまりだよ……!」
ホワイトは、ここに来て狼狽え始める。彼は根本的にルーテのことを誤解していたのである。
「おい……嘘だろ……なんだこの魔物の数……ありぇねぇだろ……!」
その時、暴れていたトワイライトが動きを止めて恐怖に満ちた表情で呟く。
「僕が真心を込めて増やした
成長したルーテはとても広い心を持っているので、経験値を皆に分け与えることを厭わない。
シスターからも、「幸せを独り占めしてはいけません」と教わっている。
「じょ、冗談だろ……こ、こんな場所にアタシらを置いていくつもりか……?!」
「はい! 武器はローパーがたまにドロップするのでそれを拾って下さい! それと……水分補給は『スライムの肉』と『水エレメントの残滓』を啜ればできます。それから、『ローパーの肉』を『火エレメントの残滓』で炙ると良い感じに美味しくなるのでオススメです! あと……お風呂は『水エレメントの残滓』を集めて『火エレメントの残滓』で沸かせば入れますよ! それからそれから……」
「生活の知恵は聞いてねぇんだよおおおおおおおおッ!」
「……分かりました。とにかく、そんな感じで頑張ってくださいね! とりあえず一ヶ月くらい?」
「や、やめろっ! 頼む、悪かった! アタシが悪かったから、元の場所に返してくれッ!」
ルーテの足に縋りつき、必死に懇願するトワイライト。
「ぼ、僕もこんな場所は嫌だッ! お願いだよッ! またあの場所で君と一緒に遊ばせてよおおおおッ!」
ホワイトも慌ててつまづきながらルーテに駆け寄り、同じように懇願する。
「オレ、がんばる。まもの、わるいやつ。だからたおす」
「その調子ですノックスさん!」
「うおおおおおおおおッ!」
ノックスは雄叫びを上げながら魔物の群れに突撃して行った。
「さあ、お二人も遠慮しないで下さい! これは僕からの感謝の気持ちです!」
「え」「あ」
絶望するホワイトとトワイライトは、ルーテによってあっさりと突き放される。
「嘘だ……嘘だよね……? 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だああああああっ!」
「嫌だッ! 置いていかないでくれッ! ここに居るくらいなら死んだ方がマシだッ! うわあああああああッ!」
ルーテは、一斉に群がって来た魔物達に覆われて埋もれていく彼らの姿を見届けた後、満足げな表情でその場を立ち去るのだった。
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