第56話 魔物サンドバッグ道場
「クソガキがァ……調子乗ってんじゃねえええええええええええッ!」
トワイライトは、起き上がったルーテに再び攻撃を仕掛けてくる。
(――右ストレート……大振りですね!)
しかし、ルーテは殴り合いによって培われたプレイヤースキルでそれを回避した。
「当たりません!」
「なんだとォッ?!」
そして、鳩尾に一撃を叩き込む。
「うごふッ!」
まともに攻撃をくらったトワイライトは、うめき声を漏らしながら体を曲げた。
「お返しです!」
間髪入れず、回し蹴りを放つルーテ。
「あがぁ!」
レベル差による補正が掛かった強烈な蹴りを受け、派手に吹き飛んで気絶するトワイライト。
こうして、ルーテは本日初の経験値を獲得したのだった。
(今日は調子が良いです。――いけるかもしれません!)
自身がレベルアップしそうな気配を全身で感じ取り、気分を高揚させるルーテ。
「ふふふっ、あはははははははっ! 僕も混ぜてよぉ!」
そこへ、今度はホワイトが狂気の笑みを浮かべながら突撃して来た。
彼はルーテの目前で両腕を広げ、通せんぼをする。
(掴み技をするつもりですか、その手には乗りませんよ!)
対するルーテは、姿勢を低くしながら突進することで、ホワイトの腕の下をくぐり抜けた。
「おっとぉ?」
速度に差があるため、全力で逃げに徹するルーテを捕らえることは不可能である。
「逃げられちゃったぁ」
(――――今です!)
ルーテは、ホワイトが振り返ったタイミングを見計らって後ろに飛び、ヒップアタックをした。
「ぐふぅっ!」
予期せぬ攻撃を受けたホワイトは、なすすべなく彼の下敷きになる。
「い、いたた……流石に無理がありました……」
慣れないことをしたため、お尻を痛めるルーテ。
「捕まえたぁ!」
「えっ?」
その時、ホワイトは上に乗っている彼の腰を掴んだ。
「は、離してくださ――うわああっ?!」
そして、そのまま勢いをつけて床を転がり、ルーテと位置関係を逆転させる。
「はぁ、はぁ……さぁて、どうしてあげようかなぁ?」
「ぬかりました……!」
背中に乗られ、屈辱を味わうルーテ。
とんでもない泥試合である。
「…………ははは、あははははっ!」
次の瞬間、ホワイトは笑いながらルーテの体を蹴り転がして仰向けにさせ、首を絞めながら顔を覗き込んだ。
「うぐっ……!」
「君はねぇ……そっくりなんだよぉ! 僕の弟にさぁ!」
「…………?」
「あの頃はまだ赤ちゃんだったけど――生きてたら、ちょうど君くらいの歳になっているはずなんだぁ」
そう言って、満面の笑みを浮かべながら手にこめる力を強めていくホワイト。
彼には、自身の過失によって弟と離れ離れになってしまった悲しい過去が存在するが、頭がおかしいのは生まれつきである。
「だからきっと、君はあの子の生まれ変わりなんだろうなぁ! 今度こそちゃんと壊してあげるねぇ!」
「うぅっ…………!」
一方ルーテは、話を聞かされる間、足をバタバタさせて抵抗していた。
(く、苦しい……でも耐久力が上がっている感じがします!)
壮絶な光景だが、これも彼が望んでやっていることだ。
「僕のところまで来てくれてありがとぉ!」
「っ!」
刹那、ルーテはホワイトの腹部に拳による連撃を叩き込み、拘束が緩んだ隙に脱出した。
「うぐぅッ!」
「けほ、げほっ! ……た、確かに僕は生まれ変わりではありますが……あなたみたいな人の弟なはずがありません! 一緒にしないでください!」
ルーテは言いながら、続けてホワイトの顔面を蹴り上げる。
「ぐえぇッ!」
怯んでいる時に不意を打たれたホワイトは、うめき声を発しながらダウンした。
「分かったぞ……! てめぇら……生き別れた兄弟だったのか……! 通りで似てると思ったぜッ! クソッ! 兄弟揃ってイカれたクソ野郎なのかよおおおォッ!」
その時、ひらめきを得たノックスが絶叫する。彼の中で、ルーテとホワイトという異常者の二人が繋がったのである。
「ち、違います! 全然似てません! 髪の色とかがたまたま被っているだけです! こんなおかしい人と一緒にしないでくださいっ!」
「てめぇもイカれてんだよおおおおおおおッ!」
激高したことで戦意を取り戻し、ルーテに殴りかかってくるノックス。
「心外です! 僕も怒りました!」
「うわああああああああああああああああああッ!」
しかし、素早く懐へ潜り込んだルーテの攻撃をまともに食らい、一瞬で意識を刈り取られるのだった。
*
その後も、ルーテは復活して起き上がって来た三人を返り討ちにし続けてきた。
「とうっ!」
「ぐはぁッ!」
トワイライトに何度目かのとどめをさしたその瞬間、彼はレベルアップを迎える。
「――――っ! ついに成長限界に到達しました!」
嬉々とした表情でそう宣言するルーテ。
彼は、レベル50になったのだ。
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