第52話 強行突破
「…………人間」
「いえ、そういうことではなくてですね――」
「教えなーい……」
口をとがらせ、そっぽを向くシャーディヤ。
「……………………!」
それに対し、ルーテはムッとする。
「拗ねないでください!」
「……拗ねていないわ……べつに。ガキの相手が疲れただけ……」
「シャーディヤさんもまだ子供ではありませんか!」
再び喧嘩に発展しそうになる二人を止めに入ったのは、バシリアだ。
「待ちたまえ君達! こんな所で言い争いを始めるんじゃない! 相手がいつ襲って来るかも分からないんだぞ!」
「僕はいつ襲われても大丈夫です!」
「……そうね、返り討ちにしてあげるわ」
しかし、二人ともその程度の脅しに屈するような相手ではない。
「そういう所だけは息ぴったりだな……」
バシリアは肩を落とし、ため息混じりに呟いた。
それから、こう続ける。
「と、とにかく仲直りしてくれたまえ。……そう! 握手だ! 握手をしよう。さあ、二人とも手を出しなさい!」
彼女は二人の腕を強引に掴み、無理やり握手させた。
「これで仲直りだ!」
「い、痛いわ……腕が折れる……」
「握力がすごいです。さすが星五……!」
「まったく、君達を見ていると私だけ落ち込んでいるのが馬鹿らしくなってくるな」
そう言って、少しだけ口元を綻ばせるバシリア。
どうやら、彼女はルーテ達のお陰で少しだけ元気を取り戻したらしい。
「確かに、僕も大人げなかったです。――とにかく、先を急ぎましょう!」
「そうね……。私も、子供相手にムキになっている場合ではなかったわ……」
「…………それはそれとして、一つ提案があるのだが、教団が危険な存在であるという事は十分理解できから、後のことは我々騎士団に任せてもらえないだろうか……?」
――バシリアの言葉は、何事も無かったかのように流された。
「……よく考えたら……どうせ地下に進むのだから……土魔法で地面を削った方が早いわね」
「え、無視……?」
「ナイスアイデアです! 早速、ダンジョンをショートカットしてしまいましょう!」
「ま、待て、地下でそんなことをしたら危な――」
「大地よ崩れろ……ルイナ」
「うわああああああああああああッ!」
かくして、三人は更に下層へと落ちて行ったのである。
*
一方、その頃。
「侵入者に……出来損ないどもの脱走……クソッ! 今日は一体どうなっているのだ?!」
アンタレス崇拝教団を統べる男――大司教のビュレト・ベルザールは、本拠地の最下層、地下十階にある執務室で頭を抱えていた。
上の階でルーテ達が暴れ回っている事と、閉じ込めていた数体の魔物が逃げ出した事は、すでに彼の耳に入っている。
現在は、教団の戦闘部隊を派遣し、事態の沈静化を図っている所だ。
「おお、我が主よ、これもまた試練なのですかッ?!」
ビュレトはそう言いながら、何度も何度も壁に頭をぶつける。
「なぜ今日に限って……ッ!」
非常事態の連続で、既に色々と追い込まれていた。
しかしその時、部屋の扉が叩かれる。
「どうした……」
「ビュレト様、例の供物を連れて参りました」
「……入れ」
ビュレトが命じると、扉がゆっくりと開き、部屋の中に首枷を付けられた二人の子供――ノアとレアが連れて来られた。
「ほう……これが……」
ビュレトは言いながら、怯える双子をまじまじと眺める。
「報告によると、神父を殺めて教会から脱走しているようですが……」
二人の事を連れて来た女は、そう説明した。
「…………自分から罪を犯してくれるとは……むしろ好都合だ。――堕落させて祭壇へ捧げることにしよう」
薄気味悪い笑みを浮かべるビュレト。
ノアとレアは互いに身を寄せ合い、虚ろな目で彼のことを見ていた。
「それでは、連れて――」
ビュレトが言いかけたその時、轟音が鳴り響く。
「な、何事だ?!」
慌てて周囲を見回すビュレト。
次の瞬間、部屋の中心辺りの天井が勢いよく崩れた。
「うわああああああ!」
そして、叫び声と共にルーテ達が落ちてくる。
「……ここはどこ?」
「どうやら当たりみたいですよ、シャーディヤさん! ここが責任者の部屋です!」
「……そう、やっと下まで着いたのね」
シャーディヤは、上を仰ぎ見ながら呟く。
彼女の視線の先には、地下二階から十階まで直通の大穴が開いていた。
「う、うぐ……生きてる……?」
「安心してくださいバシリアさん! 無事です!」
ルーテは言いながらバシリアを助け起こした後、部屋の中をぐるりと見回す。
「…………あ!」
そして、双子の姿を発見した。
「――僕の方も当たりを引いてしまいました……! まさか、本当にピリエラウアと遭遇出来るだなんて……運が良すぎます!」
「ひっ…………!」
「い、いや……!」
怯える双子に対し、嬉々として武器を構えるルーテ。
(片方を人質にして、殴って脅したら他の
果たして、ノアとレアの運命やいかに。
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