転生ゲーマーは死亡確定のサブキャラから成り上がる!~最序盤で魔物に食い殺されるキャラに転生したので、レベルの暴力で全てを解決します~
おさない
第一部
第1話 少年は前世を思い出す
その孤児院には、ルーテという名の六歳の少年が居た。
透き通るような白い髪に、丸くて大きな目を持つ華奢で小柄な彼は、皆から「るーちゃん」と呼ばれて慕われている。
そんなルーテはその日、他の子供達と一緒に孤児院の外れにある森の中を走り回っていた。
「るーちゃんどこー?」
「あいつ、どこかくれたんだ……?」
「…………!」
近くから他の子供達の声が聞こえてきたので、見つからないよう茂みに身を隠そうとしたその時。
「わぁっ?!」
彼は足元の小石に躓き、派手に転んでしまった。
「う、うぅ……っ!」
額を擦りむき、頭から血を流してその場に倒れ込むルーテ。
――次の瞬間、彼の中に見知らぬ記憶が流れ込んできた。
それは日本という国で生活し、ほとんど外出せずにゲームばかりしている人間の記憶である。
(これが……ぼく……?)
元気よく外を走り回っている現在の自分との乖離に困惑しつつも、彼には不思議と納得感があった。
あんなに楽しそうなものがある世界で暮らせば、そうなってしまうのも仕方がないと思ったのである。
キャラクターをコントローラーで操作して敵を倒したり、パズルを組み上げて敵を倒したり、ユニットを指揮して敵を倒したり、銃火器で射撃して敵を倒したり、レベルを上げて敵を倒したり…………ゲームの世界ではありとあらゆる暴力が許される。
(おぉ……!)
孤児院の院長を務めるシスター……『先生』から「いかなる理由があろうとも、人に暴力を振るってはいけません」と教えられて育ってきたルーテにとって、力でねじ伏せるという行為はとても刺激的で魅力的なことだったのだ。
ルーテは突然蘇ってきた前世の記憶に心を躍らせるのと同時に、ひどく落胆した。
――なぜ、この世界にはゲームが存在していないのか。
(ああ、ゲームがやりたい。もういちどやってみたい……!)
「るーちゃんっ! しっかりしてっ! しんじゃだめぇっ!」
「しっかりしろ! るーちゃんっ! めをさますんだっ!」
ゲームという圧倒的娯楽の存在を思い出してしまった今のルーテに、共に育った幼馴染たちの声は届かなかった。
(…………あれ?)
しかしその時、彼はあることに気付く。
「まるす……いりあ……」
「るーちゃああああああん!」
「お、おれ、せんせーよんでくるっ!」
幼馴染である二人の名前を、自分が死ぬ直前にプレイしていたゲームの中で見かけた記憶があるのだ。
その名も『レジェンド・オブ・アレス』
MAO社によって開発及びリリースされた、基本プレイ無料のVRアクションRPGである。
世界観は一部のストーリー展開がやや重い点を除けばごく普通の王道ファンタジーといった感じだが、プレイだけなら無料でできる上に、人気イラストレーターを起用したキャラデザの完成度が高く、かつグラフィックも良いので結構話題になった。
ゲームを始めると、プレイヤーはまず男主人公と女主人公のどちらを操作するのか選択することができるのだが、その時の男主人公のデフォルトネームが『マルス』女主人公のデフォルトネームが『イリア』なのだ。
「おおおっ!」
「ど、どうしたのるーちゃん? だいじょうぶ?!」
その事実に気付いた瞬間、ルーテは歓喜した。
「……いりあ、ぼくはじゅうだいなはっけんをしました!」
「ふえ……?」
「ここはゲームのなかだったんです!」
頭から血を流したまま、幼馴染に向かって満面の笑みでそう告げるルーテ。
「…………げ、げーむ? なにいってるのるーちゃん……? やっぱりあたまが……!」
「いりあやぼくもゲームのキャラクターなんです! ぜんぶゲームなんですよ!」
「し、しっかりしてっ! もとのるーちゃんにもどってぇ……っ! うええええええん!」
おかしくなってしまったルーテに縋りつき、泣きじゃくるイリア。
(……いりあはこどもだから、まだりかいするのがむずかしいみたいです)
ルーテはひとまず、自分だけが気付いてしまった世界の真実を心の内へ秘めておくことにした。
*
ここはゲームの世界である。
ルーテはすぐさまこの衝撃的な事実を手当たり次第に誰かと共有しようとしたが、誰一人として理解してはくれなかった。
それどころか「頭を打ったせいでおかしくなったのではないか」と皆から心配されてしまったので、誰にも話すべきではないことを悟った。
しかしそれでもルーテはくじけない。
(ここがゲームのせかいなら……じつはぼうりょくがゆるされるということですよね! せんせい! あくにんプレイができちゃいます!)
彼は包帯でぐるぐる巻きになった頭でそんなことを考え、消灯した孤児院のベッドの中で一人笑みを浮かべる。
――その六歳児は、とても危険な思想に目覚めつつあった。
(……でも、ルーテなんてなまえのキャラクター……あのゲームにそんざいしてましたっけ……?)
しばらく一人でワクワクしていたルーテだったが、ふとそんな疑問を抱く。
レジェンド・オブ・アレスに登場したメインキャラクターの名前を、一人ずつ思い出してみても、ルーテという名前には行き当たらない。
(もしかして……ぼくってモブキャラ……? いやでも、キャラデザはあきらかにみんなとちがいますし……)
何か明確な役割を持っていたはずだ。
そう考えるルーテ。
「あ…………!」
しばらく悩んだ後、彼はようやく思い出す。
「ゲームでいちばんさいしょにしんだキャラだ……!」
『レジェンド・オブ・アレス』のストーリーは今から六年後の星歴1678年、マルスとイリア、そしてルーテの三人が十二歳になったところから始まる。
男主人公であるマルスを選択した場合のストーリーはこうだ。
ある日、突如として世界各地に大地の亀裂が発生し、そこから出現した魔物が人々を襲い始める。
この孤児院と村の間にも大地の亀裂が発生し、一帯は魔物によって滅ぼされてしまうのだ。
マルス達は命からがら孤児院の近くにある森へ逃げ込むが、そこで魔物に見つかってしまい、イリアを庇ったルーテは魔物の触手に引き裂かれて死んでしまう。
死んだルーテはその後、魔物に惨たらしく食い散らかされる。しかも選ばなかった方の主人公であるイリアはその後、魔物に攫われてしまうので完全に犬死にである。
(じょばんすぎてキャラにおもいいれがなかったから……すっかりわすれていました……!)
つまり、ルーテは主人公が魔物と戦う動機を得る為だけに、シナリオ上の都合で殺されるキャラなのである。
小柄で愛らしいキャラデザなのも、おそらく悲惨さを際立たせる為だ。
もしくは製作陣の中に美少年が魔物にモグモグされる所を見たい変態が混ざっていたかのいずれかである。
(どっちにしろしゅみがわるすぎます……!)
――かくして、このままだと余命が六年しかないことが判明したルーテの孤独な戦いが始まるのだった。
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