社畜から妖精さんに転生したらロリ大妖精がママ 兼 上司になったのでお願いを聞くことにしました。
熊倉恋太郎
転生したら女の子の背中から生えてました。
目が覚めると、森の中にいた。
……なんで会社で寝たはずなのに、いつの間にか外にいるんだよ。手の込んだテレビ番組のドッキリかよ。
俺、
だった、というのも俺はその会社で死んでしまったはずだからだ。
最終的に14日連続で徹夜したぞ。ギネス申請したいレベルだわ。
……まあ、最後の方は意識もあるのかよくわからない状態だったんだけどな。よく頑張ってたと思うよ、俺。
俺の持っている最後の記憶としては、真っ暗なオフィスの中で明るく輝くパソコンの画面と、来世では超幸せになってやるって考えてたことか。
それはそれとして、ここドコ?
ひとまず今の状況を確認してみようと、俺は周囲を見回してみた。
綺麗な森の画像でも見ているのか、と思うような緑の中で、俺は地面と並行な状態で身動き一つ取れないでいる。
下半身が全く動かないし、それどころか何かに押し出されている感じがする。
足元、と呼んでいいのかわからないが、俺が生えてきているところを見る。
そこには白く艶めく巨大な何かが見えた。虫の羽の残りカスみたいな小さい何かも、ここに付いている。
さらに地面側に目を向けると、柔らかな布に覆われた人間らしさのある、可愛らしい丸みが見える。足は見えない。ぺたんと座ってるのかな?
ここまででわかることとしては、どうやら羽の生えている巨大な女の子の背中から体を突き出しているらしい、ということだろう。
いや、言葉にしてもさっぱり分からん。死んだと思ったけど、実はただ寝てるだけとかじゃないよな?
そう疑う俺だが、肌で感じる優しい風と女の子から漂ってくる甘い香りが、この世界は夢ではないと強く認識させてくる。
俺の体はすでに服を着ている。何で女の子の背中から生えてきているのか、何で服まで着ているのか、色々なことが頭の中をグルグルと巡っている。
そうこうしているうちに、ついに足先まで完全に出てしまった俺は、そのまま地面に向かって落ちていく。
そんなに高さはないけど結構怖いな! てか受け身とか取れないぞ俺! 産まれて即大怪我は流石に嫌だ!
地面にキスする直前、大きく、それでいて細い手に俺は受け止められた。
俺は結果的に生まれて即大怪我は免れたようだ。
手は俺を持ったまま上がっていくので、抵抗せずじっとしている。理解が追いつかなくて動けない、と言い換えても問題ない。
すると、薄手の白のドレスを後ろから持ち上げる、巨大な2つの塊が目に入ってきた。
胸でっか……凶器だろこんなの。
そこまで考えたところで、俺は慌てて目を逸らし、手が上がっていく先を見ることにする。
そこにはまだ幼さの抜けない、しかしすごく整った女の子の顔があった。
見たところ12、3歳くらいだろうか? 太陽の光を反射してキラキラと輝く銀色の髪が眩しい。
いや、こんな子見た事ないってレベルで可愛いな。街歩いてるだけでモデルとかのスカウトが殺到しそうだ。
「生まれてきたんですね、おめでとうございます。私の名前はエバーグリーンです。あなたのお母さんですよ」
俺を手に乗せた女の子が話しかけてくる。
どうやら、この子が俺を産み落としてくれた、ママと呼べる存在らしい。
しかし、俺は生みの親である女の子が可愛らしすぎるせいで声が出なくなってしまった。絶句って本当にするんだね。
「さて、あなたに名前をつけます。そうしたらあなたにも自我が芽生えて自分で考える事ができるようになりますからね。では〜……」
どうやら俺に名前をつけてくれるらしい。そうすると自我が生まれる、と。
……いやちょっと待て。なら俺は今どうして考えられている? これはもしかして、かなりヤバいのでは?
色々なことが起こりすぎて、パンクしそうになっている脳をフル回転させた俺は、慌てて声を出した。
「待った待った! 俺はもう自我があるし、自分でモノも理解してる!」
大声を出すと、エバーグリーンと名乗った女の子は一瞬きょとんとした。
何も考えられていない顔も可愛い。
「俺には『立花常磐』って立派な名前がある。ここがどこできみが誰なのかわからないけれど、これだけは理解できてる」
そう捲し立てた後、少し驚いたような顔をしていたエバーグリーンだが、気を取り直したように優しく話しかけてきた。
「え、ええと。ではあなたはタチバナトキワさんで、もう名前があるんですね。どなたに名付けられたのかわかりませんが……まあ、何千年も生きていればこういう機会もありますか」
信じられんことを聞いた。この子ウン千歳の超おばあちゃんだったのか……。
いや、俺が好きだった本では普通にヒロイン枠で出てきたけどさ、まさか目の前に現れるとは思わないわけで。
「あの、タチバナトキワさんには私が名付けていないので認識の違いがあるかもしれないですし……少しお話ししてもいいですか?」
「ああ、はい。大丈夫ですよ。こっちからも聞きたいことありますし」
思わず敬語になってしまう俺。そこですかさずエバーグリーンから「年齢に引っ張られないで、もっと砕けた感じで話してください」と言われる。
「えと、ならそうさせてもらおうかな。じゃあ俺から1つ、2つ……いや3つほど質問。ここがどこで、君は誰で、俺は何なの?」
俺はずっと気になっていたことを聞いてみることにした。
この世界に来て最初に見る人が話通じる人でよかった。完全に一人でほっぽり出されてたら何も分からないまま倒れてたかもしれないしな。
あと言葉も。日本語が何で通じるのかわからないけど。エバーグリーンちゃん、どう見ても日本人じゃないし。
「ここがどこなのかについてですが……何と言ったらいいのでしょう? すごぉく砕いて説明すると、今私の座っている場所が世界の中心で、ここの周りには名もなき森があります。便宜上、『エバーグリーンの森』とみんなは呼んでいるみたいですけど」
「全く分からないけど……とりあえず次」
世界の中心だとか、みんなだとか、一先ず分からないことは投げておく。もしかしたら、これからの会話次第で分かってくるかもしれないからね。
元社会人としてそれでいいのか、とか言われそうだけど、分からないものは分からないんだからどうしようもない。
「私の名前はエバーグリーンです。好きな呼び方で呼んでください」
それは知ってる。でも呼び方を決めていいのか。自分の名前があんまり好きじゃないのかな。それとも違う名前で呼ばれたいだけかな?
「それじゃあ、エバーって呼ばせてもらおうかな。エバーグリーンだと少し長いし。気に入らなかったら変えるけど。あと、俺のことは常磐でいいよ」
「それで問題ないです、トキワさん。ふふっ、私のことをそう呼んでくれる子がいないので、少し嬉しいです」
嬉しそうに笑うエバーは、見た目の年相応な笑顔だ。見ているこっちまで嬉しいような気持ちになってくる。可愛い。
「私のことをもう少しお話しするとなると、このことをあなたに知ってもらう必要がありますね」
エバーは真面目な顔になると、俺の目を真っ直ぐに見てくる。
「あなたは妖精です。背中に手を回してもらうと羽が生えているのがわかると思います」
俺は驚きながらも、言われた通り背中に手を回す。
服の隙間から、昆虫のような羽が生えているのが触って分かる。
なるほど、これが妖精の証か。
ってか俺、結構あっさり人間辞めたんだな……感慨に浸る暇もなかったや。
「そして私は、すべての妖精の頂点である、大妖精です」
エバーの背中にも羽が生えていたから何となく分かっていたが、やっぱり妖精だったんだな。
それにしても大妖精か。なんか凄そうな人(?)の元に生まれたんだな。
「世界の中心に座ってるって言ってたけど、それには何か理由があるのか?」
「私たち妖精族の役目は、世界の表舞台に立つ人間を、歴史に出ないように支えることです。そして、今の世界には看過できない歪みが出来てしまっています」
この子の言っていることがよく理解できない。説明ベタなのかな。そうなんだろうな、わからないってことは。
エバーは突拍子もないことを言っているが、こっちは一度、死ぬなんてことを経験してきた身だ。それくらいのイレギュラー、なんとか噛み砕いて理解しよう。
となると言いたいであろう事は……
「つまり、その歪みを抑えるためにここで何とか食い止めている。んで、その手伝いを俺にしてほしいって感じで合ってるかな?」
「概ねそれで正解です。すごいですね、こんなに少ない情報で理解できるなんて」
「昔はこんな話を毎日のように読んでたからね……10年近く前だけど」
大学生の頃まで、俺は生粋のオタクだった。大抵のものには手を出してきたから、仲間内でも一番知識が豊富だったんだよ。
まあ、会社に勤めるようになってからは中々趣味に時間を使えなくなって、アニメやマンガからも離れてしまったけどな。
10年の時を超えて、あの頃読んでた本みたいなことを体験することになるとは、夢にも思わなかった。
「それでは早速ですが、一つお願いをしてもいいですか?」
来た。こういう作品のお約束。
この辺りを歩き回れるようなことだと情報収集もできそうだから大歓迎なんだけど。でもゲームとかの王道的なものもやってみたいよな。
やっすい賃金で魔王討伐に行かされるのか? はたまた、お使いからのたらい回しで大変なヤツなのか? さて、一体どんな無理難題を言われるのか……!
「近くにある『イニシオの街』で、アップルパイを貰ってきてください。あそこパン屋のアップルパイが絶品なんですよ」
――いや、思ってたのと違う。
「え、っと。世界を守るためになんとかの国まで行けとか、伝説の秘宝を持ってこいとかそういうのじゃなくて?」
「はい、アップルパイです。現状、世界を守るだけなら、私と一部の妖精たちで十分なんですよ。なので、他の方々には私のワガママを聞いてもらってます。イヤでしたら無理にとは言いませんが……」
すごく食べたそうにしてる。口の端からよだれでも垂れてきそうな期待した目をこちらに向けてくる。
本当に百面相とはこんな事なんだろう。嬉しそうな顔になったり、真面目な顔になったり。さっきからコロコロと表情が変わっている。
「でも俺、街の場所も何も分からないからな……」
「あ、それなら問題ないですよ。私が案内しますから」
そう言うと、エバーは俺を手の上から下ろしてしまった。ちょっとひんやりしてて気持ちよかったんだけどな。
エバーは俺を地面にそっと置くと、胸の前で両手を組んだ。
あ、エバー裸足だったのか。土とかで汚れたりは……してなさそうだな。大妖精ってスゲー。
そんなことを考えていると、うっすらとエバーの体が光りだした。すると、俺の中に何かが入ってきた感じがする。細い糸みたいなものか?
抵抗感がある感じはなく、生きてるみたいにするんと侵入してくる。
「これで私とトキワさんの間で繋がりが生まれました。いつでもどこでもお話ができますから安心してください」
中に入ったものが定着してきたのか、体の違和感がなくなってきた。代わりに体がポカポカと暖かくなってきた。
「今のは一体……?」
「あ、もしかして〈魔法〉の概念についても理解できていないのですか? う〜ん、これについてはこの場で色々とお伝えしても分かりにくいでしょうし、その他についても移動してからお教えすることにしますね」
これに続いて、もう一言エバーは続ける。
「羽を震わせて空を飛ぶことができるんですけど、これについては感覚的なものが多いので、今は飛びたいと強く考えてください。そうすれば飛べるはずです」
魔法も存在するのか。いやいや、それもあるけど!
羽が生えてるってことは、やっぱり俺、空飛べるんだな! 空を自由に飛びたいなできるんだな‼︎
全国の少年少女たちの夢だったことが、ついに現実になるんだ。そりゃあこれくらいワクワクもする。
「飛びたいと強く願うだけでいいんだな。よし、やってみるか!」
気合十分。早速強く願おうとした俺だが、その時エバーから待ったがかかった。
「すみません。念のためですが、私の視界の外で練習してみてくれませんか? その方が安全なので……。本当は、この目で見てあげたいんですけど」
よく分からないが、とりあえず従っておこう。言われたことはちゃんとやるのが、俺だからな。
「それじゃあ改めて」
俺は強く『飛びたい!』とイメージした。頭の中にはこれまでの人生で見てきた様々なアニメの空を飛んでいるシーンが浮かんでくる。
おぉ。ついに、ついに俺もファンタジーなキャラクターの仲間入りなんだな……! 過去の友人たち、俺、死んでから夢叶うぞ!
「うわっ、背中がムズムズする! それと羽で飛ぶのってこんなに疲労感あるのか……。でも俺、飛べてるー!」
やべ、普通に感動する。
ぶっちゃけ、地面からの距離は1メートルも無いくらいだと思うけど、それでも自力で、足を地面に付けずに空中に浮けるのは、人間だった頃にはまず体験できない事だろうな。
その場に浮いただけで、俺は未だかつてないほど大興奮して感動しているが、エバーの顔が少し浮かない。どうしたんだろうか。
「ええと、水を差してしまうようで申し訳ないのですが、一つだけお話しさせてください。この世界で妖精族だけが使える魔法のルールについて」
ん? 何か深刻な話だろうか。まさか、こんなに大興奮する奴は、お願いすら聞けないただの妖精として下積みしなきゃいけない、みたいなルールが存在してたりする⁉︎
「この世界で魔法は、大妖精を除いて1人につき1種類の魔法です。世界に大妖精と認められると、元々持っている魔法と、先ほども使った大妖精だけが持つ、テレパシーの魔法が両方とも使えるようになるわけですが……」
「な、なんか嫌な予感がしてきたんだが……」
「普通は魔法を使うと巨大な火球が出現したり、自分の身を隠しやすくなったりするんです。ですが……その、非常に言いにくいんですけど」
ゴクリと生唾を飲み込む。こう言う時の俺の嫌な予感っていうのは、
「トキワさんは自分の羽で飛んでいません。魔法の力で飛んでいます。つまりあなたは、基本的に妖精ができる基礎能力を補うために魔法の枠を使ってしまった可能性が高いです」
よく当たるんだよ!
マジか! せっかく魔法もあるらしいファンタジーの世界に来て空も飛べちゃう生き物に転生したのに、肝心の魔法が使い物にならないのかよ! せっかくならでっかい火の玉とか出してみたかった!
いやまあ、空が飛べるってだけでファンタジー感があって楽しいんだけどさ。でも、貰えたはずのものを逃すのって、なんか悔しい。
「まあ、私の魔法もかなり限定された状況でしか使うことができないので……」
エバーが俺を見てすかさずフォローを入れてくれる。
「ちなみに、エバーはどんな魔法が使えるの?」
「……視界の範囲の外だったら大概なんでもできるモノです」
「……えっと、一応聞いておこうか。大概ってどれくらいまでできるの? 距離とか」
「大概っていうのは、なんでもできると置き換えてもらって大丈夫です。距離も私の目が届かない範囲であれば何処まででも」
フォローどころか強過ぎんだろ! なんだその性能!
軽く落ち込んでいる俺を見かねたのか、エバーが俺を再び持ち上げてくる。そのまま今度は俺を胸元に挟み込むように抱き締めぇえええぇぇ!
体の7割がおっぱいに取り込まれてる! てか俺こんなに女の人に密着した事ないんだけど、女の人ってこんなにハリがあって、それでいて柔らかかったのか!
いや、でもなんか落ち着いてきたな……。人肌が温かくて、ホッとして。
「その代わり、私が大まかにでも位置が分からなければ何もできない魔法なので……。えっと、大丈夫ですよ! 最初から自我を持って生まれてきたのは、長い人生の中でもトキワさんが初めてなんですから。きっと、特別な力の一つや二つ持ってますよ。多分」
……雑なフォローありがとう、エバー。
「ええい、どうせ空が飛べることがわかったんだ。これでアップルパイでも買いに行ける!」
「そうですよ! きっとトキワさんにしかできないことがあります!」
無理矢理にでも自分を奮い立たせる。
あのブラックな環境に比べれば、超可愛い上司がいるだけマシじゃないか。どうせ前世でもそこそこ止まりだったんだ。むしろ、何の力もない人間じゃなくて良かったと思え!
「では、私の魔法でこの森の外まで転送しますね。この森、結構深いので迷いやすいんですよ。あっ、テレパシーの回線は繋いだままにするのでこのままお話できますし、トキワさんの周囲を知覚できるような魔法も後で発動します」
エバーの魔法便利すぎるだろ。遠く離れたところを見ることができて、テレポートまでできるとなると、欠点が見当たらない。
「あえて街から離れた所に転送します。ヘタに近い所に転送して、何かに埋まってしまったりしたら、私も嫌なので」
なるほど。なら、周りを見ながら街まで行けばいいかな。この世界について、何にも知らない訳だし。
ふと、エバーが俺を見て微笑む。これは「いってらっしゃい」って感じかな?
そのまま目を閉じたエバーは胸の前で手を組む。まるで、シスターさんが神に祈りを捧げているみたいなポーズだな。
一瞬だけ体がぐらりと揺らぐような感じがした。と思ったら、目の前にエバーは居らず、見渡す限りの草原になっていた。
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