第34話 今日の先輩はコスプレの趣向が違う 

「ん~、いい天気! でも今日は土曜日、家から出たくない! そしてお昼! 寝過ごしすぎた、バカじゃないの!」

 澄んだ青い空と燦々と煌めく太陽を窓越しに見ながら、僕はそう叫んだ。


 昨日は3時ぐらいまで友達とゲームしてたから起きる時間があり得ないくらい遅くなってしまった、なんかやな気分!

 お昼ぐらいに起きるのってたまにすると幸せな気分になるけど、でもやっぱり罪悪感が強いというか、何してんだ自分! ってなるというか……なんか複雑、諸刃の剣!


 まあ、でもこんな時間に起きてしまったことはしょうがない、今から顔洗って朝昼兼用のご飯を食べて、それからそれから……

「らららら~! あき君! お姉さんはお腹がすきました! お腹が空いて空いてたまらないであります! だからお昼ご飯を作ってほしいであります! よろしくあき君……ってなんでパジャマなの!? なんでまだまだおねむなの!?」


「……何ですか、急に。せめてノックしてください、僕にだってプライベートがあるんですよ、お姉さん」


 もう失った人生なんてカタルーニャってことで、のんびり今後の事を考えていると、陽気なリズムとともに、腹ペコ怪獣お姉さんがのしのしとノックもせずにお部屋に現れた! ……急に来るのは勘弁していただきたい、せめて夜だけとか。


「むむむ、それはそうかもだけどお姉さんもお腹がぺこぺこのペコちゃんだからね! それよりあき君、もう12時だけどなんでまだパジャマなの、まだまだおねむさんの、寝坊助さんなの? 休日だからってこんな時間まで寝ているのはダメだよ!」


「……それはゴメンナサイですけど。確かにお昼まで寝てるのはあれですけど」

 なんだかお姉さんに正当な理由で怒られちゃった。


 なんか正論で怒られてるのにめっちゃ悔しいというか、なんであなたが言うんですか感というか。後お姉さんの反省しなさいの顔もすごくうざったい! 

 お姉さんもお酒飲んだ後の休日はたまにお昼まで寝てるじゃないですか!


「まあ、それは良いのだよ、あき君がいつまで寝ててもお姉さんには関係ないし! それよりそれより! お腹空いたからご飯作ってほしいな、ってことをお姉さんは言いたいのだよ! お姉さんは焼きそばが食べたい! だから作ってあき君!」


 デデーンと胸を張って、そのままソファに我が物顔で座るお姉さん……これは僕に選択肢はない、ってやつですね。


「わかりました、焼きそば作りますよ……という事で着替えるので出て行ってくれませんか?」


「お、ありがとね、あき君! あ、お姉さんは映画見てるから気にせずに着替えてくれたらいいよ!」


「……いや、その」


「大丈夫! お姉さんは見たい映画をアマプラで見つけたから! それを見るから!」


「……わかりました」




 ☆


「あつい……もう9月も後半戦なのにあつい……来週の体育祭曇ってくれないと地獄ルート一直線じゃん、体育祭ってだけで地獄なのに」


 ギラギラの太陽にちょっと文句を言いながら、アスファルトだらけの道を少し足早に歩く。


 焼きそば食べたい! って言ったから材料の一つや二つ持ってきてくれてるのかなとも思ったけど、そこは流石お姉さん、何も用意してくれていなかった。

 いつまでも変わらない良さってこう言う事を言うのかな、いや別に良いことではないか。


 という事で焼きそば材料を買い出しを。


 お肉にキャベツにきゃろちゃんに、中華麺君、ソース君……は部屋にあったから要らないや。


 取りあえずそれだけを買って、現在は部屋に戻るために抜き足差し足急ぎ足で歩いている最中。

 お姉さんの待つクーラーの効いた部屋に早く入って、甘いアイスを食べるんだ、これはミッションです!


 そんなこんなで暑い中頑張って歩いていると、ビルの影に見知った顔を見つけた。


 ……いや、見知ってるけど確証は持てない感じだ。


 このくそ暑い中でも長袖黒タイツのストロングスタイルなのは変わらないんだけど、今日は服装が違うというか、普通にスカート履いてるというか、というか髪型から目の色から造ってる顔のイメージから全然違うというか……いやでも顔の造形とかスタイルはあの人なんだよな。


 黒い長い髪に黄色い目、可愛くて女の子っぽい私服だけど……完全にあの人なんだよな、かつらかな、カラコンかな?

 顔は良い感じに仕上がってるけど、でもどこかタ〇オン風味が消えてないというか。


 ……一応、声かけるか。

 何だか困ってる風に体震わしてるし。


「……あの、先輩、ですよね? どうしましたか?」


「ひゃい!? ……あ、ああ、なんだ明良君か! び、びっくりさせないでくれ……くださいよ。その……お友達かと思いましたよ」

 びっくりした様に少し色っぽい震え声をあげた先輩が、泣きそうな顔で振り返りながら、作ったようなクールな声でそう言った。


 ……なんで今日はそんなにコスプレキャラに忠実何ですか、いつもはタキ〇ン(笑)った感じなのに今日は私服のカフェちゃんですか、近くで見るとくそ可愛いじゃないですか、めっちゃ似合ってますよ、その恰好! スカート履かないとか言ってたけど積極的に履いてください、最高にグッドです! 上の服も清楚な感じで先輩のえっち感を良い感じに消しててグッドです、清楚先輩です! 黒タイツもやっぱりいい感じで、ていうか足細すぎです、最高です! もうずっとそれでいてください……あ、でも顔はタキオ〇の方が好きです、そっちの顔で衣装交換的な感じにしてくれたらもっといいかもです!


「え、あ、その……え、なんで、そんな急に明良君……えっとそんな急に大胆に情熱的にほ、ほ、褒めないでくれ、ください……ここは一応人の目もあるわけだ、ですから……その恥ずか、しい……明良君のば、ばかぁ!」


 ぷしゅーっと白い湯気を頭から出す勢いで顔を真っ赤にした先輩が、へにょりと地面に力なく座り込んで、小さくボソッと捨て台詞を吐く。


 何ですか、それも可愛い。先輩お肌真っ白でつるつるすべすべだから赤い色が良く映えて本当に可愛い……じゃなくて、本音と建て前が逆になってた、危ない危ない。言う言葉を間違えてた。


「すみません、ちょっと本音と建て前間違えました! 建前の方は僕たちお友達じゃなかったんですか? 他人だったんですか? です! この点はどうお考えですか?」


「……ど、どう言う事? わからないんだけですけど……?」

 小さい体育座りからちょこっと夕焼け顔と黄色い目をのぞかして、おそるおそるという感じで変な日本語でそう聞いてくる……カフェちゃん、可愛いけどいつもの感じで話してください、って言う事ですよ、先輩。


「あ、そ、そう言う事か……わかった、じゃあいつもの感じで話す。でも、ちょっと待ってくれ、もう少しだけ待って……その、恥ずかしいから待って……君には付き合って欲しいことがあるから待ってて……待ってて、明良君」


「……取りあえず、僕は待ってればいいですか?」


「うん……ちょっとだけ僕と付き合って欲しいから待ってて……そしてぷしゅーだから見ないで欲しい……見ないで明良君」

 くるくるの体育座りに顔を埋めて、未だに立ち上る湯気をコントロールできなさい様子のカフェ先輩がうるうるとそう呟く……可愛いので、ずっと待ってますよ。


「だから可愛いとか言うな……ばかぁ!」

 その言い方も可愛いです。

 お顔見せてくれたらもっと嬉しいです!!!



 ☆


「……落ち着いたから、用件話すよ。聞いてね、明良君」

 しばらく待っていると、少し落ち着いたのかスカートの汚れをパンパン落としながら、先輩がそう言ってくる。

 まだ顔も赤いし、ちょっと湯気も出てるけど……大丈夫なんでしょう!


「どうしたんですか、先輩? というか突っ込んでませんでしたけどなんでこんな路地に? 表には出ないんですか?」

 そう、ここはビルの影、何もない。

 表に出れば、色々あるけど、ここには本当に何もない。


「あ、うん、そのことだよ。ここにいることにも関係してくることなんだけど……明良君、聞いてくれるかい? 僕のお願い、聞いてくれるかい?」

 瞳をうるうるさせて、キョトンと上目遣いで聞いてくる先輩……そんな顔されたら聞くに決まってるじゃないですか!


「あ、ありがとう、明良君。えへへ、良い後輩を持って僕は幸せだよ……それじゃあお願いなんだけどね、あのね、あのね……」

 言いにくいことなのか、口をもごもごとさせて、お腹をすりすり触って……後半の癖、ちょっとえっちですね。


「え、えっちとか言うな! だから、その……」


「ハハハ、ごめんなさい。言いにくいことならゆっくりでいいですよ?」


「もう、ありがと……それじゃあ、言うね……言うからね!」

 そう言って先輩は大きく息を吸い込んで。


「あの、僕と一緒に……あそこのコーヒーのお店に行ってくれませんか!!!」

 ビシッとどこかを指さしながら、目をギュッと恥ずかしそうに瞑った先輩がそう叫んだ。

 先輩の指の先にあるのは……スタバ?



 《あとがき》

 財布の中には2000円、給料日までは後6日。


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