第30.5話 星空の下、君と

 外を歩けば、少し冷たい空気。


 11時を回ろうとする夜の街は、明かりもちらほら消え始めて、満天の星空を演出している。


 しっかり夜の時間、それがキレイな夜の時間。


「……ありがとう、明良。楽しかったよ……それに、嬉しかった……ちょっとあれだったけど……」


 隣を歩く若葉がボソッと、どこか嬉しそうに、でも恥ずかしそうにそう呟く。


 お礼を言いたいのはこっちだ、あんな美味しい夜ご飯作ってくれて……ちょっとだけ距離感近かった気もするけど。



 夜ご飯を食べた後、宣言通りのお菓子&鮭とばパーティーをしながら、金曜ロードショーの洋画を見ているともうこんな時間になってしまった。


 夜ご飯二人とも結構食べてたんだけど……やっぱり女の人はお菓子とかは別腹なんかな? わからないけど。


 美味しそうに初めての鮭とばを食べていた若葉には「泊っていい? 泊まりたい、明日休みだし……ダメ?」って服の端をギュッと握らながら、上目遣いでそう言われたけど、流石に僕の家に泊めるわけにいかないし、お姉さんの部屋も……ていうかお姉さんが相当出来上がってたからダメダメだ。


 お姉さんこの後お説教しようと思ってたんだけど……いや、しっかりそれは受けてもらおう。


「……ちょっと、明良聞いてる? お~い、明良君? 聞いてますか~?」


「……あ、ごめん、聞いてなかったかも。何の話だった?」


「もう、ちゃんと聞いてよ……私は今日、すごく楽しかったけど、明良はどうだった? って話? 明良もちゃんと楽しんでくれた?」


「……楽しかったよ。うん、すごく楽しかった。ご飯も美味しかったし、ありがとぅございました若葉委員長!」

 少しほっぺを膨らませながら、足を交差させ、僕の方をのぞき込んでくる若葉にそう言う。

 楽しかったし、美味しかったです。本当にありがとうございます。


「えへへ、それなら良かったですよ、明良君! ……ねえねえ、明良、次はいつ来て欲しい? いつ私に料理作ってほしい?」

 僕の言葉を聞いた若葉は、にへへと笑った委員長はからかうようにそう言って首を傾ける。


 次か……そんな高頻度出来てもらわなくても大丈夫だから、ちょこちょこでいいよ。

 それぐらいじゃないと絶対にお姉さん調子乗るし。


「そんなこと言わないで、私は大丈夫だよ? 聖花さんも大変だろうから、お手伝いしたいので! 私は委員長ですから!」


「委員長はそんな強い職業じゃないよ……大丈夫、大丈夫だから。自分一人でもなんとかなるし……それにオネエサンモイルシ!」

 正確には僕がいるからお姉さんも大丈夫、だけど。


「そっか……それじゃあ3連休のどこか一日遊びに行っていい? 私3連休の用事なくて結構暇してるから……遊びに行っていいかな?」


「まあ、それくらいなら……そうだ、今度は何かご馳走してあげるよ。今回作ってくれたから、そのお礼」


「ふふふ、いいよ、それは。だって明良、料理全く出来ないんでしょ? お姉さん、包丁持つ以外は絶対にやらせないって言ってたし……だから大丈夫、気持ちだけで嬉しいです! ……それにそんなところで強がらなくても明良のかっこいいとこいっぱい知ってるよ……なんてね、ふふふっ」

 そう言って僕を見ながらクスクス笑う若葉。


 そっか、僕は料理全く出来ないキャラになってたのか……よし、やっぱりお姉さんはちゃんと怒ろう。


「……という事だし、また明良の家行っていいよね? 今度も委員長の私がまた何か作るよ! 今度は明良のリクエスト、ちゃんと聞かしてね!」


 ……もう作る気満々じゃん、別にいいのに。


 ……あ、そうだ! サプライズで何か作っておいて汚名返上といこうじゃないか!


「わかった、でもちゃんといつ来るか連絡してね。僕にも用事がある場合がありますから!」


「ふふふ、わかってる、わかってる。ちゃんと連絡するよ……その連絡以外にも色々メッセージ送るかもだけど! ……送って、いいよね?」


「もちろん、もちろん……でも変なメッセージは送らないでね」


「変なメッセージって何さ……そんなの送らないよ、大丈夫。たまにお話したいだけだから……とうっ!」

 そう言ってニコッと笑った若葉は、歩道のブロックの上に片足で飛び乗る。

 少しバランスを崩して「おっとっと」とよれよれして。


「急に何してるんだよ、若葉、危ないよ。怪我したらどうするのさ」


「大丈夫、大丈夫! 私バランス感覚いいし、それに……何かあったら明良が守ってくれるんでしょ?」

 くるっと回って、からかうような笑顔で、僕を見つめてくる。


 ……

「……そんなこと言ったっけ?」


「ふふふ、言ってない!」


「ですよねー、言った覚えないもん」


「そうだよ、そうだよ! 自分の発言はしっかり覚えておくようにだよ、明良君!」


「……なんじゃ、そりゃ」


「なんでもなんです! という事で、明良君! 早くお家帰りましょう、外がもう暗い暗い真っ暗だい!」


 そう言ってピシッと右腕をあげて、ブロックの上をよろよろと歩き出す若葉の後ろを、少し呆れながらゆっくりついていった。





 ……言ってないけど、それくらい言って欲しいな。

 二人でいるんだから、それくらい。



 ☆


「いやー、明良君ありがとうございます! お家まで送っていただいて……感謝感謝でありますぞ!」


「いえいえ、これが僕の役目ですゆえ! しっかりまっとうしたまでであります!」


 家の前まで送ると、いつも通りのハイテンションな若葉がピシッと元気よく敬礼をしてきたので、僕も同じように敬礼を返す。


 こんな暗い中、女の子一人でお家に帰るのは危険だもんね!

 という事で僕はお仕事を完遂した故、帰宅いたします!

 まだお姉さんのお説教という大事な役割も残っていますし!


「……待って、明良!」

 そう思って帰ろうとすると、若葉に引き留められる。


「……どうしたの、若葉?」


「いや、その……もうちょっとだけ話してかない? 明日から連休だし、その……色々話したいこととかあるし! ほら、さっきの映画の感想もまだだし、後……体育祭の横断幕の話、さっき美香ちゃんから新しい話来たから! だからさ、その……もうちょっとだけ、ね?」


 少し体をもじもじ揺らして、指を組みながらそう上目遣いで聞いてきて。


「いいよ、僕も時間あるし。それに映画の感想、僕も話したかったし」


「えへへ、そうだよね、あの映画面白かったもん……それじゃあ、家には流石に入れないから、庭で大丈夫? 庭でお話でいいかな?」


「うん、いいよ。ちょうどいいくらいの涼しさだし」

 9月の夜は本当にいい感じの涼しさだから、結構外にいても大丈夫。

 ちょっと虫はうるさいけど。


「そっか、良かった……ねえねえ、明良は星座とかわかる?」


「それなりには。そんな詳しくはないけどね」


「そっか……それじゃあ教えてよ、星の事も、私に! 私全く分かんないから……だから明良に教えて欲しいな?」


「OK、いいよ。さっきも言ったけど、詳しくはないけどね」


「それくらいで十分です! だから明良、色々教えてね! お星さまも映画の感想も……他も色々!」

 そう言って満面の笑みを浮かべる若葉に、「了解!」と笑顔で返した。





「あれがおひつじ座、そしてちょっと見にくいかもだけど、その上の薄く輝いてる星を何個か集めたのが確かさんかく座で……」


 ……この時間ずっと続けばいいのに……なんてね……ふふふ、ありがと、明良。




《あとがき》

 委員長は少し暴走しちゃう癖があります。


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