第29話 何言ってるんですか!?

「私はね、あき君の! お料理、お部屋の掃除……そんな感じの事をしてあげてるお姉さんなの!!!」

 そう言ってデデーンと大きく大迫力に胸を張るお姉さん。



 ……え? 

 な、何言ってるんですか、このお姉さんは。

 事実無根もいいところなんですけど……え、本当に何言ってるの?


 チラッとお姉さんの方を見上げると、ふふ~ん! と誇ったように堂々と鼻をふんすふんすしていて……え、僕が間違ってる?


 もしかして認識の違い、記憶違いで……僕が本当はお世話……いやいやいやいや、そんな事ない、それはない! 


 絶対にそんなことは無くて、お姉さんに料理を作ってるのは僕で……だよね、だよね!?


「え、え、え……ええ? お、お世話、ですか……? え、その……ど、どういうことですか?」

 困惑してクルクルする僕と同じように、いい、若葉も困惑したような、わけのわからないような顔でお姉さんにそう聞く。


 そうだよね、わけわかんないよね……当事者の僕でさえ、全くわかってないんだもん、そりゃわからんですよ!


「うんうん、そうだよ、そうだよ! 隣の部屋に住んでたから、もともと知り合いでね、あき君が一人暮らしする時にあき君パパとママに頼まれたんだよ、『明良の一人暮らしが心配だから、聖花ちゃん頼むよ』って……あ、私聖花って言うんだ、よろしくね!」


 そんな僕たちの困惑をよそに、お姉さんはつらつらと話し始めて……おいおい、この話全部嘘っぱちだぞ、さっきからこの聖花とか言うお姉さん嘘しかついてないぞ!?


 知り合ったのは今年の4月で、そもそもお姉さんはお父さんとお母さんにあった事ないし……すげえ、合ってるの名前だけだ!


 ……本当に何を言ってるんですかお姉さん!



「え、あ、よろしく、です。よろしくお願いします、聖花さん……そ、それじゃあ、聖花さんは明良のために毎日料理とかしてあげてたんですか?」

 お姉さんの勢いに押し切られたのか、急に聖花さん呼びになった委い、若葉がおずおずとそう聞く。騙されるな、それ全部嘘だよ、若葉ちゃん!


「うん、うん、そう言う事……あ、もしかしてあき君学校では自分でお料理してるとか言ってた? そう言う感じだったの?」


「あ、はい……だから、今日は私がお料理して、明良の事、休ませてあげようと……でも、本当は聖花さんが?」


「うん、私がやってた……もう、あき君そんな嘘ついて……若葉ちゃんに格好つけたかったのかな? ふふふ、気持ちはわかるけど……嘘はダメだよ、あき君!」


 そう言って、ニコッと微笑んでくるお姉さん……どの口が言ってるんだ、どの口が!


 お姉さんなんでそんな普通の顔でつらつら嘘を……良く言えますね、本当に!!!

 ちょっとこれは酷い、すぐに訂正しないと……


「ちょっと若葉、誤解だよ、誤解! 本当は僕がお姉さんに……」


「あーき―君? 何言おうとしてるの、嘘はダメでしょ、嘘は! いくらカッコいいところ見せたいからって、嘘ついちゃダメだよ、めっ!」


 間違いを訂正しようと体を乗り出した僕のわき腹をグイっと見えない様に掴んで、可愛く注意してくるお姉さん……本当にどの口が言ってるんですか、後で覚えておいてくださいね!


「もう、ごめんね、若葉ちゃん。でも、あき君も、若葉ちゃんにかっこよく見てほしいだけだと思うから……だから許してあげて欲しいな?」


 ギっと、殺意を込めた怒りの目でお姉さんを睨むけどそんな視線は何のその、という風な涼しい顔で、僕の許しを請うて……よーし、決めた。若葉が帰ったら全力でお説教かつ3連休のご飯抜きの刑だ、お姉さんが悪いからね!


「あ、はい……その平気です、私は嬉しい以外何も、ないですから……でもそのやっぱり……ううん、違う、違う、それなら……あの、それじゃあ聖花さんと明良はお隣さんって関係で良いですか? そのお料理とかはしてあげてるけど……ただのお隣さん、ですよね? そのお隣さん以外ではないですよね?」


 嬉しいようなやっぱり心配なような……そんな複雑そうな顔で首を傾けるのは若葉委員長。


 お隣さんは正解だけど、それ以外は全部違うからね、まったく嘘だからね……まあ、信じてはくれないだろうけど、お姉さんキレイだし堂々としてるから!


 今もうんうん目を閉じて頷いてるし、完全に嘘ついてない風格だし!


「うん、そうだよ。私はあき君の隣のキレイで可愛い完璧お姉さん、って感じだから……若葉ちゃんが心配するような関係は何もないよ? だから、あき君の事は存分に……ね? 大歓迎だから! お姉さん、応援してるよ、二人の事!」


「あ、ありがとうございます! 頑張ります、まだ、ちょっと、ですけど……あ、そ、そうだ、聖花さん! 私今日、明良のために夜ご飯作ったんですけど……聖花さんも一緒にどうですか! その、いつもお料理作ってあげてる聖花さんなら、明良の好みとかそう言うの把握してると思いますし、それに……ちゃんとできてるか、ちゃんとふさわしいかもジャッジしてほしいですから! 明良のための料理として!」


「え、お料理食べさしてくれるの!? 若葉ちゃんの? 本当に? 明良のために作ったんじゃないの?」


 若葉のちょっと違和感のあるお食事のお誘いの言葉に、お姉さんの目がピカピカに煌めく。


「それはそうなんですけど……でもでも、やっぱりいつも明良にお料理作ってる聖花さんにも食べて貰わないとダメって言うか、ちゃんと認めて貰わないといけないというか、そうしないと明良に毎日エプロン見せられないって言うか……とにかく聖花さんも食べてください!」


「え~、悪いよ若葉ちゃんそれは……二人の邪魔しちゃ~、でもそこまで言うなら……チラッ、チラッ……ん~、どうしようかな~?」


 チラチラと僕の方を見ながらう~んと申し訳なさそうに、悩むようなそぶりを見せるお姉さん……最初から答え決まってるくせに! 


 ご飯食べれる! って感じでめっちゃニヤニヤしてるくせに!

 新しいお世話係さんかも! ってめっちゃニヤニヤしてるくせに……絶対に若葉はそんな係にさせませんからね!


「邪魔じゃありません、必要です! 今後のために……なのでぜひ食べて行ってください! 美味しく出来てるはずですから!」

 そう言ってむん! 気合を入れるのは若葉……何でこっちもこっちでそんなノリノリなんだよ、初対面だよね!? 

 騙されないで、ほだされないでよ、若葉ちゃん!



「う~ん……わかった、食べよう! 若葉ちゃんのお料理、このお料理も家事もできるキレイで可愛い聖花さんがジャッジしてあげよう!」


「はい、よろしくお願いします聖花さん! 負けませんからね! 認めさせてあげますからね! これからも作れるようにしますからね!」


「おー、良い気合いだ、楽しみ楽しみ! ふふふ、それじゃあ、夜ご飯いただきましょうか……あ、若葉ちゃん鮭とば食べる?」


「楽しみにしててください、即落ちしちゃいますから! ……さけとばって何ですか? 私、それ知らないんですけど」


「え~、知らないの? それは結構損してるかも! お姉さんが美味しい食べ方教えてあげるから今日は鮭とばに挑戦してみんしゃい、若葉ちゃん!」


「な、なるほど……挑戦します! よろしくお願いします、聖花さん!」

 ……でも、その願いは届かないんだろうな。


 もう結構ほだされてるって言うか、ノリノリでお世話しようとしてるというか……ああ、お姉さん被害者(?)の会は僕一人で十分なのに。


「ふふふ、鮭とば挑戦は夜ご飯の後だね! 今は若葉ちゃんのあき君を堕とすお料理に集中しなきゃだから!」


「そうですね、集中して真剣にジャッジしてください! あと、お菓子も買っているので夜ご飯の後はちょっとパーティーしましょう、鮭とばも一緒に!」


「おお、お菓子か、いいねぇ! でもそれあき君と二人でいちゃいちゃする予定じゃ……お姉さんがいて大丈夫? 邪魔にならない?」


「無問題です! 色々お話とか聞かせてほしいですし!」


「なるほど……わかったよ、それにも参加させてもらうよ、お姉さんも……にへへ」

 僕がいるのをわかっているのかいないのか、仲良さそうに話しながら部屋の中に入っていく二人。


 ……取りあえず、お姉さんは後で本当に覚えといてくださいよ!!!

 やっぱり若葉との関係まだ勘違いしてるし!!!



 《あとがき》

 ヴィクトリアマイル、好きな馬多すぎて困っちゃいます。


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