第2話 お姉さんとの出会い

 お姉さんと出会ったのは今年の4月。


 今年の4月、高校生になったばかりの僕は22歳のOL3年生のお姉さんが、僕の隣に引っ越してきた。



 ☆


 さくらが咲き乱れ、ピンクと黄色の風が新しい季節とか出会いを運んでくれる、そんな素敵な季節。


「……これからどうすりゃいいんですか?」

 そんな素敵な季節の風に吹かれながら、僕―斎藤明良さいとうあきらは似つかわしくないため息をついていた。


 今年から高校生だから、新しい友達が出来るかの不安?


 高校生になってもずっと150㎝後半から身長が伸びないんじゃないか? って言う不安?


 彼女はできるか? 部活には何に入ろうか……そんな不安?


 うん、それもあるんだよ。

 そう言った不安もあるんだけど、一番の不安は……


「なんでお父さんもお母さんも僕を置いて海外に行っちゃうんだよー! バカぁぁぁぁ!!!」

 ベランダから叫んだ大声は春風に乗って、遠くまで飛んでいく。


 僕の一番の不安、それはなぜか急に始まった一人暮らしだ。


 いや、確かに予兆はあったよ?

 なんかお父さんもお母さんも荷造りしてたし、なんか忙しそうだったし……でも、僕の高校の準備だと思うじゃん?


 ありがとう、僕のために、くらいしか思ってなかったのに……海外赴任の準備なのかよ! 


 ていうか、それなら息子にいの一番に伝えろよ!


[ごめん、忘れてた]

 そう言っててへっと年甲斐もなく言ったお父さんの顔を忘れることが出来ない。

 いや、絶対忘れないだろう、マジで。


 という事で、お父さんとお母さんは住み慣れたマンションと家具だけを残して、海外へ行ってしまった。


「着きました!」というメッセージとともに陽気な写真が送られてきたのは昨日。


 本当に楽しそうで、息子は心底嬉しいです! 本当に!


「……どうしよう、これから」

 別に料理が出来ないわけでも掃除とかが出来ないわけでもない。


 何なら昔からその辺は得意分野だ。

 お母さんの手伝いとか色々してきてたし、それに家庭科の成績もずっと良かった。


 だからその辺は心配ない、心配ないんだけど……ねえ、他にもいろいろあるじゃん?


 たいていの事は自動でできるようにお父さんがやってくれたけど……でも、めっちゃ不安。本当に不安がぎゅんぎゅん登ってくる。


「ジョーカプチーノ!」

 ……ベランダにいてもくしゃみが出るだけだ。

 桜はキレイなのに春はトラップが多い。


 そう思って、部屋の中に戻る。

 僕一人だけでポツンと広い、寂しい部屋。


 ……本当にこれから生活できるのかな?


 ……あ、そうだ、楽しいこと考えよう!

 一人暮らしだし、友達とか呼んでワイワイとか……終わった後地獄そう。


【ピンポーンピーンポーン】


 ため息が出るような考えしか頭に浮かんでこない中、突然インターホンが大きな音を奏でてなり始める。


 ……今は、朝の9時、こんな時間に何だろう?


 宅配は頼んでないし……もしかして苦情? 朝から叫んだから苦情?

 嫌だよ、一人暮らし一発目から警察さんなんて。


 そんな事を考えながら、でも出ないと何も始まらないので「はいはーい」とへんじしながらドアを開ける。


「はいはーい、何か……ッ!?」


「あ、おはようございます! 私隣に引っ越してきた……ってあれ? 僕何年生かな? お父さんとお母さん居る?」


 扉を開けると完璧なお姉さんがいた。


 僕より少し高い身長に、パーカーの上からでもわかるスタイル抜群な体。

 顔は童顔で少し幼い印象だけど、それはそれとして……すごく可愛くて、そのすごい!


 思わず見惚れて、語彙力がどっかに逃げて行っちゃうような……そんな完璧なお姉さん。


「……僕大丈夫? お母さんとお父さん呼んでこれる?」

 そんなお姉さんが僕の事を心配そうにのぞき込んでいる。


 えっと、まずい、まずいけど……取りあえず、答えよう! 考えるのはそれからだ!


「あ、えっと、ここにはお父さんとお母さん居ないです! その、僕高校1年生で、それで、お父さんとお母さん海外赴任して、だから一人暮らしで今はお父さんとお母さん居ないです!」


 取りあえず、言葉を思いついた言葉をポンポン出して、腕をブルブル使って何とか伝わるように。


「そっか、君一人ぐらしなんだ、偉いね!」

 僕の言葉を聞いたお姉さんはパンと手を叩いて笑顔で褒めてくれた。

 ああ、笑顔も素敵な人だ、えへへ、可愛い。


「ふふふ、そっかそっか、じゃあ君がお隣さんなんだね。はい、これ引っ越し祝いだよ……そうだ、君名前は?」


「あ、その、わざわざありがとうございます! 僕の名前は斎藤明良です!」


「そっか、明良君か。私は安海聖花だよ。よろしくね!」


「はい、こちらこそ、よよよよろしくお願いします!」


「ふふふっ、緊張しなくていいのに。よろしく、明良君」

 お姉さんが差し出してくれた手を、緊張で震える手でがっしり握手する。


 ⋯⋯もうこの時には一人暮らしの心配とか、そう言うのは殆どなくなっていた。


 残っていたのは隣にこんなキレイなお姉さんが引っ越してきた! って言うワクワク感だけ。


 お姉さんと毎朝挨拶して、お姉さんと仲良くなって、お姉さんと休日も出会って、お姉さんの可愛い私服とか見て、お姉さんと一緒に遊んで、お姉さんのキレイな部屋に招待されて、それでお姉さんの手料理とかも……!!!


「へへ、えへへ……えへへ」

 頭の中は期待と妄想がぐるぐる回って、それで笑いが止まらなくて。


 ああ、お父さんお母さんありがとう! 

 僕の隣に天使なお姉さんが引っ越してきたよ!



 ☆


 何が天使だ、あれは天使は天使でも堕天使だ。


 絶対に悪魔に魂をうっている、怠惰の悪魔だ、ベルフェゴールだ。

 お姉さんだけどベルフェゴールに魂うってる、絶対に。


 ……本当にさ、昔の僕期待しすぎだよ、料理とか一緒に遊ぶとか、可愛い私服とか、キレイな部屋とか、手料理とか……あの人全部無理だよ、私服ダサくてパーカーしか着てないよ?


 というかさ、引っ越し祝いが鮭とばだった時点で色々察するべきだったんだよ。

 ああ、この人やばい人なんだな、って。


 当時浮かれていた僕は何も考えないで「美味しい! 美味しい!」って食べたけど引っ越し祝いって普通クッキーとか、チョコレートじゃん?


 何だよ鮭とばって、居酒屋の開店祝いか、いやそれでもおかしいわ。



 ……お姉さんの事を考えているとなんだか頭が痛くなってきたので、今から作る料理の事を考えよう。


 実はまだ僕も夜ご飯を食べていないから今から一緒に夜ご飯になる。

 カップ麺の予定だったからここは一応レベルアップ。


 これがお姉さんが作ってくれたなら理想で最高なハッピーライフだったのに、お姉さん鮭とばしか作れないからなぁ……本当に、僕はよく頑張ってるよ。


 今日の夜ご飯は……もう適当にカレーでいいかな? そうだ、カレーにしよう!

 何日かは持つし、これならしばらくは料理作らなくていいだろう。


 流石にカレーは腐らさないだろう⋯⋯腐らさないよね?


 とりあえずカレーと決まれば買い物だ、お姉さんのお金だしじゃんじゃんいろいろ買うぞ!


 お姉さんはアル中のくせに半分子供舌だからカレーは甘口で、後は高いお肉が食べたいから牛肉で、後は後は〜ジャガイモニンジン玉ねぎと僕の大好きエビちゃん投入♪


 どうせなくすのでー、調味料は買いません♪


 ふふふ、これでご機嫌なカレーが出来そうだ!




 ……意外と楽しんでるんだよな、僕も。



《あとがき》

 昔宗教勧誘だと思ったら隣に越してきた人ですごく恥をかきました。


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