第5話 種明かし

先程まで仲良く話していた二人だったが想い人が真剣な顔をして彼女を見つめる。


すると、彼女も察したのか真剣な顔をする。


そして、想い人から彼女へと告白が始まった。


初めは嬉しそうに出会いの思い出を。


次に恥ずかしそうに好きになったきっかけを。


最後に真剣な顔で付き合ってほしいことを。


想い人が言葉を口にするたび、私にまで感情が伝わってくる。


それは彼女にも当然伝わっていたようで。


彼女は全てを聞き、嬉しそうに微笑んでいた。


さぁ、これであとは彼女がOKの返事をするだけだ。


これで本当に今回の役目が終わる。


最後に私は、彼女が返事を終えるまで目を閉じると、二人がこれから永遠に幸せでいられるよう祈ることにした。


そして、ついに彼女が返事をする。


こうして私は見事に役目を果たし天使の姿に戻ると、また次の担当する人間の恋を成就させに向かう。



…。


……。


………。



はずだった。


間違いなくそうなるはずだった。


だけど、聞こえてきたのは。


「ごめんなさい。あなたとはお付き合いできません。」


想い人の告白を断る彼女の声だった。


…え?


私は驚き、目を開ける。


視界には泣きながら走り去って行く想い人の姿。


聞き間違いではない。


でも、どうして。


先ほど確認した時、間違いなく両想いだった。


今だって確認してみたが彼女は想い人に恋している。


なのになぜ彼女は想い人の告白を断った。


いくら考えても答えが見つからず、気づいたら私は彼女の元へと駆け寄っていた。


「めぐりちゃん!」


私は友人になってから呼び始めた呼び方で彼女の名前を呼ぶ。


「あ、あれ?れ、恋ちゃん?」


一瞬ビクッとした彼女だったが、私に気づくと彼女も友人になってから呼び始めた呼び方で私を呼ぶ。


私は彼女の隣に座ると「なんで告白断ったの!」と今の私はもうなりふり構っていられず問いただしてしまう。


「そ、それは…。えっと…。」


私の問いに暗い表情をした彼女は言い淀む。


まぁ普段から暗い彼女だったからあまり変わらない感じではあるんだけど。


それでも、分かる。


伊達に数ヶ月一緒にいたわけではないのだから。


しかし、そんな彼女を気にしている余裕はなく。


さらに問いただす。


すると、彼女は決心して想い人の告白を断った理由を話してくれる。


その理由はすごく簡単で。


だけど、私には絶対に分かるわけない理由。


だって、それは私が彼女を担当することになった意味がなくなってしまうから。


そう。


その理由とは。


「好きじゃないから。」


彼女はそう言い放った。



その言葉の意味が理解できなかった。


彼女の好きな相手は想い人だ。


今も確認しているが変わらず想い人に恋をしている状態だ。


恋をしているのに彼女は好きじゃないという。


…もしかして。


私は過去に担当した人間から一つの答えを導き出す。


それを彼女に問う。


「もしかしてなんだけどさ…。私に気を遣ってくれてる?」


過去にそんな人間がいた。


その人間は恋よりも友情を優先して。


告白を諦めようとした人間が。


もし、そうなら簡単だ。


少し話して説得すればいいのだから。


だけど、どうやら違ったようで。


「違うよ。」


彼女はキョトンとした後、笑いながら答える。


「だ、だったらどうして!」


私は少しわざとらしく問いただす。


まだ、さっきの可能性を捨てきれていないから。


彼女は私の問いに少し考えるとやがて口を開く。


「んー。それはね、恋ちゃんにはわからないよ。というか、恋ちゃんだからこそわからないのかも。」


私にはわからない?


私だからこそわからない?


彼女はなにを言っているんだろう。


「そ、それってどういうこと…。」


考えても答えは見つからず、そう問いかけた。


すると、彼女はニコッと微笑むと「教えてほしい?」と言った。


私は教えて!と答えた。


だけど、ここで知らなければよかったと後悔することになる。


「それはね…」


彼女はそう言うと、私に顔を近づけ唇を重ねた。


なにが起こったか理解できず固まる私。


そんな私を彼女がぎゅっと抱きしめると「ずっとこうしたかったんだ。」そう耳元で囁く。


そこで、やっとなにが起こったか理解した私は彼女を突き放すと、残念そうな顔をする彼女。


だけど、こんなことをする理由がわからなかった。


「な、なんでこんなこと…!」


「えー?まだわからないの?」


ニヤニヤしている彼女。


「わ、わかるわけ…」


そこまで言いかけると、私はまさかと思い彼女の情報を確認する。


だけど、やっぱり彼女の想い人に変わりはなかった。


「あ、そっかぁ!その情報戻してなかったよね!今戻すからね!」


そう言うと彼女は指を鳴らした。


すると、私が今見ている情報が書き変わる。


蔵元めぐりの想い人:高槻恋 と。


彼女の想い人が私…?


「な、なんで情報が…。」


「んふふ〜。なんででしょうか〜!」


悪戯っぽく笑う彼女。


この情報は天使である私達しか書き換えられないのに…。


そもそも、なんで人間である彼女が情報のことを…。


それに、情報のことを知っているということは私が天使であることも知っていて。


なのに、私は未だ消えずにいた。


そこまで、考えると一つの答えが見つかる。


でも、それはありえないことで。


だけど、それを思わず呟いた。


「…天使。」


「せいかーい!」


私が言い当てたことに喜んだ彼女が私を抱きしめる。


だけど、今の私は驚きで力が入らず、突き放すことができないでいた。


そして、彼女が全てを話し始める。


それは、どうしてこの状況になったかに至るまでの話。


きっかけは私が最初に担当した人間の想い人。


その想い人のことが好きな別の人間を担当した彼女。


今の私と同じように人間の姿になってまで果たそうとした。


だけど、そこまでしても私には力及ばず。


私が見事成就させた裏で、彼女は失敗することになる。


失敗したことによって、消えるのを待つだけになった彼女。


彼女は私を恨んだ。


だけど、それと同時に私に恋をしたという。


あの時の私は役目を果たす為に必死で。


そんな姿に恋をしたと。


その想いは強く。


そして、奇跡は起こった。


彼女は恋をしたことによって消えることはなかったのだ。


しかし、成就させることが出来なかった彼女は天使の姿に戻れず人間の姿のまま。


このままでは自分の恋は叶わない。


そう思った彼女は私が担当するように仕向けた。


方法は私も初めて知る方法で。


想いが強ければ強い程、優秀な天使が担当することになるそうだ。


彼女の思惑通り、優秀であった私は彼女の担当になる。


(あぁ…。そっか。だから、初めて彼女を見た日。見えないはずの私の方を向いて笑っていたんだ。)


それから、彼女は私が最後の手段である人間の姿になるまで邪魔をした。


そして、私は想い人の相手が偽装された情報だとも知らず、成就させるために人間の姿になったのだった。


全ての種明かしをした彼女。


「あたしの為に頑張ってた恋ちゃんすごい素敵だったなぁ。もっと大好きになっちゃった!」


そう言う彼女は本当にすごく嬉しそうな顔をする。


私が今まで見たことのない顔を。


そんな彼女とは対照的に絶望する私。


「恋ちゃん。恋の力ってすごいんだよぉ!恋ちゃんにはわからないと思うけど!」


そんなもの分かるわけない。


私にとって恋はただの役目なのだから。


「だから!恋ちゃんにも恋の凄さを教えてあげる!」


「知りたくない。」


「あー!だめだよそんなこと言っちゃ!だって、恋ちゃんはこれからあたしに恋をしないといけないんだから!」


「私がそんなことするわけ…」


「ううん。するよ。」


「は?なにを言って…」


「だって、それ以外元に戻る方法がないもの。」


たしかにそうだ。


ここまでする彼女に心変わりを期待するのは無駄だと思う。


それなら、もう彼女の恋を成就させるしかない。


だけど、それはつまり私が彼女に恋をしないといけないわけで…。


「ふふふ。大丈夫!必ずわたしに恋させちゃうから!」


そう自信満々に言う彼女。


それを聞いて私は言いたいことがたくさんあったがもうそれ以外方法がないことをわかっていた為何も言えなかった。


そして、最後に彼女は微笑みながら言う。


「まぁでも…。恋をした状態でまだ元の姿に戻りたいって思えるかは保証しないけど。」と。




本当のこのお話は恋を成就させる役目を持つ天使が担当する女の子と想い人の恋を手伝う物語なんかではなく。


元天使が彼女に恋をすることで起こった奇跡によって。


高槻恋という天使が彼女に恋をする以外選択肢がなくなることになった物語。

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天使が彼女に恋をする たるたるたーる @tarutaru_ta-ru

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